働けOLさん
〜初めてのガソリンスタンド編〜



いままで悠々と過ごしていた学生生活と何が変わったって、車だ。車に乗るようになった。否、乗らなければいけないようになった。
何年か前に免許は取得したものの、大学近くのアパートに暮らしていたためもっぱら自転車移動。
車なんて使わなければ持ってもいなかったので、初心者マークをつけなくてもいいとしてもつけなければこっちが不安だ。免許を取って何年も経っているとはいえ、実力的にも精神的にもまだまだペーパードライバーなのだから。
会社の近くにアパートを借りたといっても、そのアパートから会社まで歩いて行ける距離かと問われればとてもじゃないが不可能だし、買い物に行くにもどこかへ出かけるにも車は必要不可欠な存在になる。

しかし運転は恐怖こそ感じなくなってきたものの、車の扱いなど完全に初心者なわけで。
たまたまこちらに来ていたお父さんにガソリンのクレジットカードを借りてガソリンスタンドに一人で給油に来たのはよいが、途方に暮れてしまっているわけですよ。


セルフのガソリンスタンドを初めて見たのはもう何年も前の話だが、それでも初めて見た時にはびっくりした。自分で入れるのかよ、と。危なくないのかよ、と。爆発すんじゃね、と。
ガソリンスタンドのアルバイトをする友達から聞いたことがある。スタンドのバイトをするためには危険物の免許が必要なのだ。そんな免許が必要なガソリンの扱いを、普通の人が、なんかがやってしまっていいのだろうか。
ええと、まずは給油口を開くんだっけ・・・と運転席傍のコックを探すところから始まる。大学時代のバイト代と実家からの仕送りをためにためたお金で購入したこの車は新車だ。金持ち目!と言われるかもしれないがけしては金持ちではない。しかし新車だ。
東の北の方で大きな地震があった影響で、中古の軽自動車は恐ろしく高い。それこそ何万キロも乗り回した物が少し足せば新車が買えるような値段だ。奮発して新しいのを買って、大事に使いなさい、という両親の提案にはのり、ナビ付き減税補助金対象の新型MOCOに乗っている。これが軽なのに中は広くて収納スペースもたくさんあって乗りやすいんだなこれが。
一回車ナンバーをこちらの地域の者に帰るために車を預け台車を貸してもらった時には、あまりの乗り辛さに悲鳴が出た。慣れもあるだろうが、同じメーカーの同じ軽自動車なのに全然違った。MOCO早く帰ってきてMOCO、と、たった一晩の別れだったのに愛車を想って枕を濡らしたのはまだ記憶に新しい。


愛車自慢はこれくらいにしておいて、まだ走り始めて日も浅いことから、燃費がとてもいいのだ。燃費がいいと何が起こるか。ガソリンスタンドに行かないのである。全然減らないのである。それはいいことなのだけれども。
ただでさえ毎日乗っていると言っても会社と自宅の往復オンリー。ガソリンのメモリが減らないのもうなずけるが。


『カードが読み込めません。もう一度やり直してください』


社会人にもなってガソリンの入れ方も分からないなんて・・・・!
セルフスタンド機の前で何度目かのため息とともに頭をかしげる。カードはこれしかもらってきてないし、カード入れるところはここしかないし、表裏もあってるはずなのに。全然読み込んでくれない。『違うカードです』ってンなバカな。
幸いスタンドはにぎわっているわけではなかったので後ろの車を待たせているわけではなかったが、いい加減困ってしまった。
すると、途方に暮れるの後ろからやる気のなさそーな声がかかった。

「どーしたのおねーさん?」

振り向くと、くたくたの作業着をこれでもかというほど完璧に着こなしたやる気のなさそうな死んだ魚の目がこちらをうかがっている・・・かと思ったら、客の前だというにもかかわらずふあぁ、と大きく欠伸をもらした。
の傍まで歩いてきたその銀髪のガソリンスタンドの店員さんは、「初めてで、何もかもわからなくて・・」とうなだれるの持つカードを見て、「あぁ」と口を開いた。

「そのカードぁクレジットだな。そいつ使うときはあっちの機械で読み取るんだわ」
「えっ」

店員さんが指さした先にはクレジット用の精算機がおいてあり、は目を見開いた。よくよく見てみれば先ほどまでが格闘していた機会には「現金・プリペイドカード用」の文字。やっばい恥ずかしい。
しかしながら車を停めた丁度隣にあった機械だし、ガソリンを入れる用のあの拳銃みたいなトリガーの付いたガソリン入れ機?もそこにかかっていたし、間違えても仕方ないもん。
店員さんに深々とお辞儀をして、はクレジット用の精算機へとぱたぱたかけて行った。音声に従ってカードを入れる。ぴんぽーん。今までの苦労はなんだったんだ。

「よぉーねえちゃん、お前さん初心者なの?」
「え、あ、はい。免許は何年も前に取ったんですけど、ずっと運転してなくて」
「ふーんそっか。それで初心者マーク張ってあるわけね」
「・・そうなんです」

銀髪の店員さんは車に張られた初心者マークをまじまじと見ると、おもむろにべりっとはがした。
同じトコにずっと貼っとくと日焼けしちゃうからな、たまにちょっとずつずらしてやって。と言って少しずれた位置に張りなおす店員さんに、は笑顔でお礼を言った。
なんか、流石ガソリンスタンドの店員さんだ。車のことをわかってるんだなぁ。


その後家に帰ってそのことをお父さんに話せば、「本当に一人でやっていけるのかお前」と馬鹿にされた。
「あんたもガソリンカード新しく作らないといかんね」なんてお母さんが言う。


そしてしばらくしないうちにも新しくガソリンカードを作ることになったのだが、まったく違うガソリンスタンドのカードを作ったため、そのお店には二度とお世話になっていない。






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