はじめまして、どなたかさん。
真選組一番隊隊長、沖田総悟と申します。
からりと晴れた青空の下、総悟は普段通りのポーカーフェイスで江戸の街を歩く。
見廻りと言っても形だけだ。こんな真昼間から問題を起こすような輩、大抵がしょうもない奴ばかり。
両手をぽっけに突っ込んで、ぶらぶらと言う訳ではない、きちんと決まった行き先に向けて総悟は足を進めた。
これまで生きてきた、20とちょっと少ない年月。自分は自分なりに後悔も少なく、好き勝手生きてきたと思う。
ついこのあいだ、唯一の身内の姉が亡くなった時だって。そりゃ、ヘコみはしたけれど。
後悔はしてない。それは最後に姉が残してくれた言葉に救われたせいかもしれない。あの人からはたくさんのものをもらった。これからもずっと、大好きな、自慢のおねーちゃん。
しかしそれとこれとは話が微妙に違う。はぁ・・ため息をひとつ。
ミツバがこの世を去ってしまったことによって一人になってしまったのは、総悟だけではないのだ。
また土方を殺したい日々が募ると思うと(今までが募ってなかったと言われるとそうじゃないけど)、
はぁ・・ため息をもひとつ。
あいつが江戸にやってくる。
**ありそでなさそなおやくそく**
は総悟と同い年の泣き虫な娘で、小さいころからずーっとそばにいた。
姉にべったりだった総悟は友達なんて多くなかったけれど、は毎日家に遊びに来て、一緒に遊んで一緒に悪戯して、一緒にミツバに怒られた。
は総悟にも劣らずミツバの事を慕っていて、怒られれば総悟と全く同じようにしょぼくれるものだから「そーちゃんがふたりいるみたい」なんてよく笑われた。
そのたびに総悟が「こんな泣き虫と一緒にするな」と嫌味を言ってが泣きだすものだから、結局もう一回総悟が怒られてより余分にしょんぼりすることになるのだが。
近藤の道場に通うようになって、流石に女で運動音痴なは刀は振るわなかったけれど。
それでも毎日終わりがけに顔を出して、少しだけ稽古を見た後に総悟と帰る。
近藤がどこやらで拾ってきた土方というゴロツキを初めて見たとき、その剣幕に怯えるに「俺のが先輩なんだ怖くねえよ」なんて言って総悟が土方を蹴っ飛ばして、「何すんだてめぇ」と土方に胸ぐらをつかまれて宙ぶらりんにされた暁には大泣きしたのを覚えている。
「そーちゃんが食べられちゃう!!」と言って大泣きしたちびの女に慌てうろたえる土方は見ていて面白かったけれど。
男ばかりの道場に毎日顔を出すだけあって、は近藤とも土方ともすぐに打ち解けた。
そんなにぎやかな日々が何年も続いた。
総悟の人生後悔は少ないと言ったが、無いと言ったらうそになる。
その中でも最大級。それがこのに関してだった。
肉体の成長は男の方が早いけれど、精神的なものに関しては女の方が早くませてくるものだ。
「そーちゃん」
「ん?」
「わたしね、そーちゃんの事が好きなの」
唐突と言えば唐突だが、当たり前と言ったら当たり前の成り行きだったのかもしれない。
間違いなく総悟はの一番近くにいたし、お互いにはっきりとした好意もあった。
でも・・・ああ・・・今思い返しても若い、イヤ、幼すぎんだろ俺。
突然そんなことを告白された自分は、その時大層頭に血が上ったのだった。
ひねくれた性格も災いして、大惨事に。
「あ、そう。よかったね」
「ちなみに俺は別にお前の事好きでも何でもねーけどな」
その時は本当余裕がなかったのだ。
とんでもなくマズイことを言ってしまったと総悟自身が気づいたのは、それから三日も過ぎた後だった。
あれ、今日はアイツ来ないんだー。アレ今日もか、風邪ひいたのかなー。・・・・ハッ・・。って感じだった。
そしてそれが致命的なミスだと気づかされたのはそのまた次の日。
真っ赤にはらした目をこすりながらがしがみつくのは土方の背中だった。どうやらこの娘散々泣く自分を慰めさせる役をなんと土方に任命したらしい。
「ごめんねこの間は変なこと言って」「これからも仲良くしてね」
そんな言葉を吐いて慌てて再び男の背中へ隠れてしまった幼馴染をわなわなと見つめながら、取り返しのつかない大失態を自覚し雷に打たれた。
「うぅ・・トシくん・・」「ハイハイ泣くな泣くな」いつの間にか「土方さん」から「トシくん」に格上げになった呼び名。
頭をぽんぽん撫でる年上の後輩のその腕を、本気で切り落としてやりたいと思ったのはここだけの話。
それからは傷心を慰めてくれた年上の甘さにコロッとやられて、よく土方を慕うようになった。
失恋の弱みに付け込んで他人のモノをかっさらうとか、貴様それでも侍か!と憤慨したが、自業自得なのだから救いようがない。
ミツバの事もあり完全にいじけた自分が救いの手(近藤さん)に縋り付いたのは当然の流れで、根っからの近藤さんっ子になったのもうなずける。
が総悟の家に泊まりに来た時なんて総悟が近藤の家に転がり込んで泊めてもらった。
えいえんと気になるあの人のミリョクについて語り合う女子会にこれ以上参加していたらマジで暴れだしそうで。
土方は土方で、ミツバを大事に思っていてを妹のようにかわいがっているのを知っているから、なおさら。
それからさらに月日が過ぎて、近藤さんについて江戸に上京することになった。
うん・・この時も酷かった。
てっきりぼろ泣きしていると思いきや土方とミツバに諭されて笑顔なに「手紙書くね」と笑いかけられたそれを「いらねえ」と一蹴。
ぶああああああ!と号泣する声を後ろに故郷を後にした。(ちなみに頭の上には大きなたんこぶがあったのは言うまでもない)
そんな別れ方だったものだから、毎月2通は必ず出す姉への手紙の返事に時折からの手紙も入っていたが、なんと書いたらよいのかわからずいつもスルーしてミツバへの手紙に『アイツにもよろしく』と書く程度だし、毎週1度はかける電話でだって気まずくて「代わろうか?」と言われても代わった瞬間別れの挨拶だけして受話器を置くほど。
それに引き替え土方とは文通しているらしく(姉上とだってしてねェのに何コイツ!)、時折笑い話での話題が出るたびに表情を険しくする総悟に、「そんなすぐ機嫌を顔に出すからアレも怖がって逃げてくんだよ」と土方が呆れたように息をき、それからポーカーフェイスを身につけた。
流石俺。器用さには自信がある。
別にの事が好きだったわけじゃない。
ミツバと一緒で、ぽっと出の土方にそれまで一緒にいたツレをとられた気がして嫌な気分になっただけ。
そう思い込む事が出来たのは若いころだ。大人になった今はひしひしと感じている。ていうか、そういう意を持っていたからこそこうやって今も後悔してる訳で。
あそこでガキ臭くテンパらなければ。天邪鬼にならなければ。
みっともなくとも「俺にしとけよ」なんて言えたら。
後悔と想像は果てしない。
が江戸にくる。
総悟達が上京して間もなくを一人で面倒見ていた叔母が倒れ、それからはずっとミツバと姉妹のように暮らしていたのだ。
どういうわけか迎えに抜擢された総悟は一人駅前のベンチに腰かけて待ち人が来るのを待つ。
なんて声を掻けたらいいんだろう。ミツバとのやり取りのなかで大体のアイツの様子は伝わってきたものの、最期に交わした言葉が「手紙書くね」「いらねえ」でその後泣かせたし。最悪な別れ方だったし。
怒ってるかな。イヤそんな昔の事ネチネチ根に持つような奴じゃない。ひと言目はなんだろう。
「おねーちゃんがね」
・・ああ。そういえば、「おねーちゃんがね」それがのよこす手紙のいつもの始まり方だった気がする。
自分に負けず劣らずのミツバ絶対主義。自分の手紙のくせに姉の事ばかり書いて・・・・
「総悟君?」
「あ、沖田総悟君・・だよね。やっぱり。久しぶり。迎えに来てくれたのありがとう」
・・・・・あぁ・・・もう、「そーちゃん」ては呼んでくれないんだ。
会話もろくにしていないのに、声を聴いただけで。
そうしみじみ思う。
振り向いた先にいたは随分成長していて、まぁ向こうから見たらこっちも人の事言えないんだろうけれど。
江戸に来た姉が「ちゃんとっても美人になってるわよ」なんて言ってたのを思い出す。
「さっさと屯所いくぞ」
なるたけ当たり障りない返事をして、総悟は歩き出す。その手をがガシリと掴んだ。
「お姉ちゃんがね」
「やっぱり男で一番大事なのは、家族を大切にすることよねって、」
「・・・・・は?」
「あと健康。収入ももちろん大事だけど」
「・・・うん?」
「・・お姉ちゃんの最期・・総ちゃんが看取ってくれたんだよね?」
「ん?あ、ああ・・」
「じゃぁ、わたしそーちゃんにするっ!」
「ええっ?!」
がばーっ!と突然人の多い駅前で、人目もはばからず抱き着いてきたに、総悟は顔から煙を出した。
オイちょっとマテ取得したはずのポーカーフェイスどこ行った。
ってイヤそうでもなくて。
じゃあなんだ?
総悟たちが江戸に出てから、毎晩毎晩姉による“洗脳”が始まっていたと言う訳で?
『ええっトシ君がおねーちゃんをッ?!』
『ええ・・・「お前なんかどうでもいい」っていわれちゃった・・』
『酷い!!』
『ちゃんも、男を選ぶときは家族を大事にする人を選んだ方がいいわよ』
うちのそーちゃんなんて、すっごく姉想いでしょ。
彼女になる子はきっとすっごく可愛がってもらえる思うの。
収入も安定してるし。
変な物(マヨネーズ)強要してこないし。
何より私の弟よ?
そりゃぁもう孫代々生まれる子供たちまで、
美人(イケメン)じゃないわけがない!
『・・・でも、そーちゃん私の事好きじゃないって、前・・』
『あら、そんなの本気にしてるの?ちゃんたら可愛いわね』
『・・・でも、』
『じゃぁとっておきの切り札をあげるわね。ちゃんだけ特別よ?よぉく考えて、本当に使いたくなったらつかいなさい?』
『変な意地はらずに、この子にしときなさい。 ミツバ(直筆)』
お・・・
おねーちゃんはこの世を去って尚素晴らしいものを俺に残してくれた・・・!!
それはどっちにとってのウルトラカードだったのか。
お疲れ様でした!何かぐだってごめんなさい。
家族は大切にするもんですよ(笑)