舞台は銀魂高校。
私、 は、そこに通うごく普通の女子高生。
成績は普通。部活もやってない。
ただ、唯一つ特別な事があるとすれば、
・・・・・・・・・お兄ちゃんが、生徒会役員だということである。
その影響で、役員ではないのだけれど何かと生徒会と行動を共にしているため、周りからは「生徒会の猫」だなんて呼ばれている。
生徒会の人間は癖のある奴ばかり。彼らの周りにいる人も変人ばっか。
これは、そんな生徒会役員たちに振り回される私の激動の学生生活の、ほんの一ページである ―――――。
*生徒会の猫シリーズ特別読切*
=*生徒会のおしごと*=
キーンコーンカーンコーン・・・・
「きりーつ、」「礼っ、」
「さよーならーっ!」
担任の顔も見ずに挨拶を叫んで、は廊下へと飛び出した。みるみる背後に小さくなっていく『3年N組』のプレート。
急いで駆け上がって『生徒会室』と書かれた部屋の前で立ち止まる。
ゆっくりとドアノブを捻れば、ガチャ、と半分までしか回らない。――― 私が一番乗りだ。
猫の尻尾のキーホルダーが揺れるスクールバッグの外側のポケットから一つのカギを取り出して、ドアノブのカギ穴に差し込み回せば、ガチリ、と音がした。
「失礼します」
中には誰もいないのだけれど、生徒会室に入る時にはついつい言ってしまう。の癖だ。
一人しかいないためやけにひろーく感じる生徒会室は、移動式の黒板と生徒会長用のデスク。そしてそれを囲ってコの字に長机が並んでいる。
するりと部屋の中に入ったは、まずカーテンを開き、窓を開けた。ふわり、と外の空気と太陽の日差しが滑りこんできて、部屋が一段階明るくなる。
次に中続きにある給油室へ行き、小さめのやかんにお湯を沸かす。
お湯が沸く間にシンクの横にある布巾を濡らして生徒会室に戻り、それぞれの机を一つ一つきれいに拭いた。
それが終わったら再び給油室へ行き、布巾を洗って干し竿に干す。食器棚からいくつかマグカップを取り出し洗い終わった所で、ピィィーーとやかんが鳴った。
火を止めて、電動で保温する魔法瓶ポットに移し替える。
取り出したお盆に綺麗な布巾を敷いて、先ほど洗ったマグカップ、急須、お茶葉、ティーパック、コーヒー、ミルク、砂糖・・・更に冷蔵庫からマヨネーズを取り出して乗せ、ポットと一緒に生徒会室に運ぼうとしたところで、そのお盆をひょい、と誰かに取り上げられた。
「・・・退くんっ!おつかれさま!」
「お疲れ、ちゃん。持つよ、貸して」
ていうか、生徒会の役員じゃないのにいつもいつも・・・俺がやるって言ってるでしょ、もう。
いくつものマグカップ+アルファが載せられたお盆とポットを片手ずつに軽々持ち上げ、その男・・・銀魂高校生徒会役員の山崎退は苦笑いを零した。
こんなことを言ったって、この働き者の娘は言うことは聞かずに気を利かせて生徒会の日はこうやって全員の分のお茶を用意してくれるのだ。
そして。
必ず一番乗りでくる彼女と高確率で二人っきりになれるこの時間が、山崎は何とも心地よく、大好きだった。
だから口では遠慮しながらも、が本当に授業後ダッシュで生徒会室に来なくなると困るのだ。そんなことはないと信じてるけど。
「あ、お花だ!退くんが持ってきてくれたの?ありがとう!今花瓶に飾るね」
役員用の長机に置かれた山崎のスクールバッグと、その隣に置かれた新聞でくるんだコスモスの花束に、ぴょこ!とが飛びつく。
こらこらこら。だから俺がやるってば。そんな呆れ笑いを読み取ったのか、は笑いながら「いいからいいから」と、ひらひら手を振った。
「ちゃん」
「えへへ、いーのっ!あ、私アップルティーね!」
「・・・・作れってか。もう・・」
「もう・・」なんて言っちゃってるけど、頬はにやけっぱなし。だって、なんて平和。なんてほんわか。すっごく心地よい。
手早く自分とのマグカップにポットから湯を注ぎ、アップルティーのティーパックを二つ破いて中に沈める。
しばらく待ってパックを引き上げ、スティックシュガーの端を切って半分だけのカップにいれる。キラキラと砂糖のかけらがカップの底で煌めいた。
「あれ、どうしたの?」
「ティースプーンがなくて」
「あっちゃ、しまった」
「いいよ。砂糖半分でよかったよね?」
シンクで花束の長さを揃えていたが笑う。アップルティーは美味しいけれど、的にはもうちょっと甘い方が好みなのだ。
ちょうど、スティックシュガー半分ぶんくらい。
「さっすが退くん!もう終わるよ、一緒に飲もう」
ティースプーンを持った山崎と生徒会室に戻り会長デスクにコスモスの花瓶を置けば、一気に部屋が秋らしくなった。
軽くティースプーンでカップをかき混ぜて口に運ぼうとしたところで、ガチャ、と生徒会室の扉が開いた。
「、来てたのか」
「う・・・うーす、ちゃん・・悪いね、いつも・・・がふっ」
「お邪魔してまーすって、近藤さん?!どうしたんですかそんなボロボロで!」
土方に肩を貸して貰いながら生徒会室に入ってきた近藤に仰天して、カップを置いて大急ぎで救急箱を取って来てやる。
大丈夫ですかっ、と言って切ったほっぺに絆創膏を貼ってやれば、いつっ・・!フッ、こ、これは愛の勲章さ!なんて言って近藤は親指を立てて見せた。
・・・ああ、例の絶賛片想い中の彼女、ね。近藤さんほどの大男を返り討ちなんて、やっぱ強いなぁ・・お妙ちゃん・・。
クラスは違えど仲良しの女の子の顔が浮かぶ。「いつになったら俺の愛を受け止めてくれるんだァ・・」なんて落ち込む(これでも)生徒会長の背中を、は苦笑いで優しくさすってやった。
「何か飲みますか、お妙ちゃんじゃなくて申し訳ないですけど、私でよければお茶お淹れしますよ」
「ちゃァん・・・!!ありがとうッ・・!お茶お願いできるかい」
「もちろん。お兄ちゃんも何か飲みますか」
「コーヒー。・・てか学校で「お兄ちゃん」はやめろっつってんだろーが」
僅かに眉をひそめて、生徒会副会長の男・・・土方はため息を吐いた。
と土方は同じ屋根の元暮らしている兄妹だ。ただ、学校で「お兄ちゃん」と呼ぶと怒られる。
しかし、実は兄妹と言っても血がつながっているわけではない・・・と言うのは、一部の親しい人間しか知らない事実である。
小さいころ家が近かったためよく遊んでいた、いわゆる幼馴染と言う関係から、かくかくしかじか色々な経緯があって今の関係になって早3年。
は全身全霊土方を尊敬し慕っていたし、一人っ子の土方もを本物の妹のように可愛がっていた。
「お待たせしました」
「ありがとっ!ちゃんの淹れてくれるお茶、俺好きだなァ!」
「ふふ、近藤さんたら、何も出ませんよっ。はい土方さんコーヒー、と、マヨネーズ」
「ん。さんきゅ」
「今日は沖田さんは部活ですか?」
お盆に残ったマグカップを眺めながら、が口を開く。
「試合が近いんだと」
「今週末って言ってましたね」
「そうなんですかぁ。・・あ、そうだ!皆で応援に行きましょうよう」
「おっ!良いなちゃんソレ!」
「私ハチミツレモン作ってきますよっ」
「お前そんなシャレたもん作れんのか」
「退くんに教えてもらって」
「俺かよ!・・まぁっ、いいけどっ」
実は山崎もハチミツレモンなんて作ったことないのだけれど。まかしといてっ、と大きく胸を叩く。
大好きな大親友からの「一緒にクッキング」な誘いを断るなどとんでもない。あいにく手先の器用さには自信があるので、レシピ見ながら何とかするか。
そんなことを考えてほんわか頬を緩ませていた山崎の喉に、次の瞬間ぴたり、と竹刀の先があてがわれた。
「本当ですかぃ姉さん。そりゃァー楽しみだ」
「あら、沖田さん!」
「ただ・・・ハチミツレモンなんてレシピ見りゃ誰でも作れまさァ。山崎に頼まなくても・・何なら俺が教えてやりますぜ」
「総悟!お前練習じゃなかったのか?」
今日の分の自主練は終わらせてきやしたんで、なんて言う総悟はなるほど中々汗をかいている。
それでも息は既に完全に整っているところは流石としか言いようがないが。
そんな汗だくの体を遠慮なく押し付けて、剣道部のエースはに飛びついた。反動で喉を突かれて山崎がぐえっとなるが、誰も見てない。
「ちょっと、汗だくでくっつかないで下さい」
「うるせェ。姉さぁん、俺にも飲むもん」
「何がいいですか」
「冷た〜いコーラがいい」
待てやァァァ!!ある中から選べよ!土方と近藤は心の中でツッコむ、が、そんな無茶ぶりにもはクスリと、いや、にやりと勝ち誇ったようにほほ笑んだ。
「冷蔵庫にあります。氷も淹れてきてあげますから、ほら、汗ふいて。風邪引いちゃう」
まさかの至れり尽くせりに会長副会長が目を丸くする中、からタオルを受け取りながら総悟は満足そうに目を細めた。
さっすが、姉さん。
「さァて、今日の仕事だが」
主なメンバーも揃った事だし、と土方が声をかけて皆の注目を集める。
「再来月に行われる学祭のクラスごとの出し物、その書類をさばいていってもらう」
「食物を扱う分野では衛生点、その他に関しても良識的に許せる範囲かどうかを判断して、許可不許可を出していく」
「まァ一応の基準となるガイドラインは作ってあるから、それを参考にしてやってくれ」
うーい。なんて言ってそれぞれが担当の分の書類を持って動き出す。不明な点があれば責任者に電話で直接聞いたりするのだ。
自分が居てもお邪魔かな、と、はメンバー達にお茶のお代わりを淹れていったん生徒会室から抜け出した。
目指すは図書館。
先ほどの話の通り、今年ももう学祭の準備の季節だ。
のクラス『3年N組』も、「忍の極意、幻術とりっくあーと!」と題してトリックアートの展示系の出し物を企画している。
簡単に言えば、「器にも見えるし人の顔にも見える絵」とか、「黒の線より白の選の方が太く見える」視覚の認識を利用したものとか、いわゆる騙し絵である。
その中でもマジカルアイ(二つの点を焦点をずらして三つにすると立体画像が浮き出て見える不思議な絵のやつ)を担当する事になったは、来週中にどんな作品を展示するか調べてくることになったのだ。
生徒会の皆も頑張ってるんだから、私も自分の仕事がんばらなきゃ、と足取り軽く廊下を進めば、すれ違った男に呼び止められた。
「お、じゃねーの」
「あ、先生!」
「こないだは迷惑かけたな、ウチの新八がカカシ先生の車輪眼間違えて持ち帰っちまってよォ」
「あはは、良く分かんないですけどよくあることですってきっと。カカシ先生も家に帰るまで気づかなかったみたいですし」
車輪眼が間違えて持ち帰れるものなのか、はたまた間違って持ち帰られても気づきにくいものなのかは、この際置いておくことにする。
ここの世界ではこうなのだ。しかたがない。
「図書館に、調べ物しに」とが言えば、銀髪の眼鏡教師、銀八はぷぷっ、とその手で口を押さえた。「ナニナニ、明日は雨でも降んの?」
「失礼な!学祭の準備ですぅぅ」
「そーかそーか悪ィ悪ィ。何すんのお前のクラス」
「トリックアートで申請して、今生徒会の皆が許可不許可の採択してますよ」
「ほートリックアートねェ・・・んじゃァお前、もしかして学祭当日は暇なの」
そうなりますねぇ、最後の学祭ですし、いーっぱい楽しみたいな、なんてが笑えば、銀八もほほえんでくしゃくしゃとの頭を撫でてくれた。
ふーん、へーえ、そう。その笑顔が、何か、彼にしては爽やか過ぎて、怖い。
「そう言えばお前、生徒会の奴らと仲良かったよなァ・・・」
その台詞と共に、口元は笑ったままその瞳から笑みが消えて、は体中を嫌な予感が駆け巡るのを感じる。
生徒会って言えば、アイツらか。近藤に、土方に、沖田に、あと山崎。
よし分かった。
・・・・何が分かった、なのだろうか・・?!
恐る恐る尋ねれば、「いや、俺のクラス飲食店やるつもりなんだけどね?人手足りねーかもしれないのよ」
もしかしたら、ヘルプ要請するかも。なんて言いながらにひゃら、と銀髪の教師が笑う。
あーなるほど、それで生徒会の名前が出て来る訳か。彼らは確かこの男のクラスだったはず。そして。
彼らから頼まれたとあっては、もそうそう断ることが出来ないことを、この男も把握しているのだ。
銀八と分かれて図書館で調べ物をして、気づいたら最終下校時刻近くになったので慌てて生徒会室へ戻る。
「どこ行ってたんだ」と言う問いに「図書館っ」とだけ答えて、大急ぎで使ったコップや急須の洗い物に手を付けた。というか。
戻ってきた生徒会室の中は思っていた以上に人数が減っていた。
近藤はおそらくストーカー。山崎はミントン。そして総悟は特段理由もなく姿を消した、と言ったところであろうか。
初めはそれぞれも真面目にやっていたのか、それでも1/3近く残っている他のメンバーのそれを一手に引き受けて、土方が一人書類に追われていた。
お、お疲れですお兄さま・・・・。
「た、たばこ吸いてぇ・・」なんて声も聞こえて来る。コラコラ、高校生がタバコなんていけません。しかもアナタ生徒会。
冷蔵庫に総悟用に買っておいたコーラが残っていたので、グラスに注いで出せば、悪い、なんて言って土方は一気に飲んだ。
も隣に立って、許可と不許可の書類の分別を手伝ってやった。
最後の一枚が終わり、最終下校時間5分前と言うところでようやくぶはぁ、と二人して息をつく。
「お疲れ様です」と言えば「ん。助かった。帰るか」なんて言って荷物をまとめた土方が窓とカーテンを閉める。
部屋の電気を消そうとしたその時、が声をあげた。「アレ」
「待って下さい、皆・・・鞄おきっぱ」
「ああ?」
「ねーえさんっ!」
「びゃあああああああああ!」
「ふぅーいい汗かいた!」
突然後ろから抱きつかれて、驚かされるのに弱いは叫び声をあげる。後ろを見れば、満足そうな顔をした総悟と目が合った。
こ、この悪戯少年がァ・・・!!
ちらりと横を見れば、ミントンのラケットを持った山崎を鬼のような顔をした土方が蹴りまくっていた。
ぎゃぁ!痛い!副会長!ごめんなさっ!なんて苦痛の声が漏れる。本当に自業自得です退くんお疲れ様でした。
続いて入ってきた我らが生徒会長も再び(おそらく返り討ち的な意味で)ぼろぼろになっていた。ストーカーは良くない、ウン。
そんなことを考えている間にも、腰に抱きつかれた腕が胸へと上がってきたので振り向かずに悪餓鬼の頭にチョップをくらわす。全く油断も隙もない。
がはは、と近藤の笑う声が響く。
「よォし!このあと皆でどっかよってくか!仕事上がりのマックでも!」
「お、いいですねぇ!」
「テメェら仕事全然してねェじゃねェか!!途中でほっぽり出してふらふらどっか行きやがってェェ!!」
「姉さん姉さんっ!一緒にいきやしょうよう」
先ほどまでとうって変わってぎゃぁぎゃぁと急ににぎやかになった生徒会室。
でも、これはこれでこっちの方がこの人たちにはお似合いだな、なんて思って、は総悟に頷きながらくすくすと笑った。
これが、これこそが。銀魂学園の風紀を取り締まる、の大好きな生徒会執行部のメンバーだ。
「あ、そう言えば図書館行く途中に銀八先生に会ってですね」
「学祭当日3Zの手伝いして欲しいなんて言われちゃったんですよう」
「ところで、3Zってどんな出し物するんですか?飲食店って聞きましたけど」
それからマックに着くまで、口を開くものはなかったという。
おわり