※注意※
伊東先生が更にキャラ崩壊





薄暗い部屋の中、ぅ・・と小さなうめき声をあげて、雑用娘は目を覚ました。
目の前には自分を覗き見る一番隊隊長の姿。ゆっくりと起き上がろうとすればズキンと頭が痛んだ。
長い前髪の間から掌で額を押さえる。

「身体の調子はどーですかィ?」
「いっ痛ぅ・・・相当したたかぶつけたようだな・・」
「すげェ。ほんとーに先生が入ってんだな。大成功でさ」

ホレ見てみなせェ、と総悟が若干楽しそうに手鏡を差し出してくる。
握ったり開いたりを繰り返していた手のひらを止めてそれを受け取った・・・・・に“取り憑いている”伊東は、今現在の自分の姿にほほう・・と息を吐いた。

「立てますかィ?」差し出された手に捕まって何とか足を踏ん張る。
きょろきょろとあたりを見渡してから、伊東はもう一度鏡を覗き込んだ。
自分が知っているよりも低い位置の視線。ふにゃふにゃと力の入りづらい筋肉。生きていたころとは全く違う骨格。
手に持ったガラスの向こうに映った年頃の娘は、大きな目をぱちぱちと瞬きながら興味深げにこちらを見つめていた。

没する直前の時期に世話になっていた顔だ。さすがに覚えている。
しっかりしていて働きものの、明るくて気の利く娘。
久しく江戸に戻ってきた自分に不都合はないかと気にかけてくれたものだ。慕っていたあの男が組を抜けてからはたいがいしぼんでいたが。
欲しいものは大抵努力で手に入れてきた自分が届かなかったもう一つの欲しいもの。
薄桜色に膨らんだ口元を細い指先で触れれば、ふにふにと柔らかく押し返してくる。
大きな瞳がぽそりとつぶやいた。

「・・・鴨太郎さん・・(ぼそっ」
「・・・・・・・・・・・・・先生」
「ハッ!!!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

「・・イヤ、まぁ、ゲフ、んん。・・今のは聞かなかったことにしやす」
「・・ああ・・・そうしてくれると、うん・・・」



とにもかくにも、作戦としてはこうだ。
まずに憑依した伊東が土方に近づき、隙を見て取り憑くと。
総悟は「そんなこともできねェんですかィ役立たずが」と毒舌を吐いたが、取り憑くと言っても誰にでもホイホイ簡単に憑依できるわけではない。
幽霊の出来ることなど、どこぞのビビリ天パが思っているよりもずーっと少ないのだ。

「まず大切なことは、相手が僕を認識してくれるかどうかだ。取り憑くと言っても操り人形じゃない。例えるなら一種の洗脳、マインドコントロールの延長みたいなものだからね」
「あらら先生。随分と霊に関してお詳しくなって」
「うるさいよ」

「後はマインド云々言っておいてアレだが、乗り移る時は結局物理的だということだ。相手に触れないことには乗り移れない」
「なるほどねィ、姉さんの身体なら多少は軽減されるでしょう」
「あともう一つ・・・・・キミ降霊陣に変な細工施しただろう」

「本来身体を手に入れたら使役から外れる筈にも関わらず・・まだキミに逆らえる気がしないんだが」
「ハハハ何のことでしょう先生?」

黒い笑みで「その辺は抜かりなく」と答える総悟に、げんなりと雑用娘は肩を落とす。
「まだもう一つ、最後に・・つーか最初にやることあるでしょう、先生?」「ああ・・・」そう言って総悟と伊東は頷き合った後、
ニヤリ。
殺意を帯びた凶悪な笑みでうっすら開かれた入口の障子の隙間を見やった。
「!!」



(ま、まさか・・・・沖田さんが(故)伊東と手を組んでいただなんて・・・・!)
伝い落ちる一筋の嫌な汗を流しながら屯所の廊下を走るのは、山崎である。
(副長に・・早く、副長に知らせなければ・・・!)

!!
ぞくりと背筋を駆け上がる悪寒に飛びのけば、銀色の白刃が目の前を通り過ぎる。
副長室へと駆け出す山崎の後ろから総悟の声が飛ぶ。

「逃げたぞ、追え!伊東!」
「「どんだけ上から目線だよ!」」

伊東と山崎のツッコミが見事にハミングした。

「くくく・・山崎君。土方コノヤローのようにマヨネーズばかりじゃ、世の中は変わらん。もっと利口にならねばなァ」
「誰の台詞とってんだァ!全然意味わかりませんけど!」
「あの男のようなやり方では真選組から成人病の心配は無くならんのだよ。僕らの手で真選組は生まれ変わるんだ!」
「ソレ何の話ィィ?!・・・・・っ、、ちゃ・・・ぐ、フ・・・!」

ドスッ・・・!

にっこりとほほ笑んだ雑用娘の握り拳が、深々と鳩尾に突き刺さる。
廊下に崩れ落ちた山崎は呼吸を乱しながら、それでも最後の力を振り絞って前に進むために廊下を這った。

「やりたきゃやりなよ。だが、一つ言っとく、アンタがどれ程の器の持ち主なのかなんて、学のない俺達にはわからんよ・・」

「俺は・・・あのひとたちについていかせてもらうわ・・・最後・・っていねぇ聞いてねェェェえええ――――――!!!」

チラリ振り返った廊下にはとっくに二人の姿はなくなっていて、ごろんごろんと山崎は一人廊下を転がった。
ぎゃああああああ何一人で言ってんの俺恥ずかしィィイイイいいいああああ!!!
あの時はどうもご清聴あり・・がとうございましたァァ先生ィィィごろんごろんごろん!




「さァて、リアルで時間が無くなってきたんでこのまま突っ込みますぜィ」
「は?」

ばぁぁぁんんん!
大きな音を立てて副長の部屋の扉が蹴破られる。否、の身体だけ副長室の中に蹴りいれられた。おかげで書類を読んでいた土方にダイブである。
突然転がり込んできたに「何事だ?!」と目を見開いていた土方は、伊東の目を見たとたんに眉間のしわを深くする。
・・・じゃねェな。誰だ、テメェ・・」

チッ、と舌打ちを打った音が廊下から聞こえた気がした。
それとは別に。鼻で笑う。全く、不思議なものだ。
こうして顔を合わせる前までは至って何の感情もわいてこなかったのに。
いがみ合っていたのも最期には解けたし、先ほどだって不憫で同情の念も抱いたというのに。顔を見た瞬間にそれを上回る敵意が芽生える。
やっぱり僕はこの男が好きじゃない。いっそすがすがしいほど、敵対していたくなる。

「・・・くくく、誰だとは酷い言いぐさじゃないか土方くん」
「土方くんんん??マジで誰だよ馴れ馴れし・・・い・・・いっ・・・?!」

あちらも気づいてくれたようで何より。
くっくっく・・・。普段の雑用娘らしからぬ笑い方・・・しかし不思議と下卑ていない・・が悪役まっしぐらな笑みで、は土方を見上げた。

「やァ、久しぶりだね土方くん」

な、何しに化けて出やがった・・・!
低く呻きながら汗を垂らした土方が言う。
それに応えたのはいつも聞き慣れた高い声。しかし、確実に何かが違う。本能的に危険信号を感知するような何かを、目の前の娘は確かに発していた。

「まさか、また真選組乗っ取ろうとか阿呆な事考えて来たんじゃねェだろうな」
「まさか」

「僕が欲しいのは土方くん、君の肉体だよ」



・・・・アレ?!

副長室の前で耳を澄ませながら総悟は心の中で叫ぶ。なんか会話がおかしいことになってんですけど。
イヤ分かるけど!わかるけどね?
文字にするととても分かりにくくなってしまうが、そもそも声自体は聞きまごう事なきのものなのだ。一応書いておこうか。BLではありません。
ぐるぐると頭を悩ませているうちにも副長室の中では会話が進み、かわいい雑用娘の精神を魂質にとられた副長がなすすべもなく今身体に手をかけられようとしている。

一瞬だけ一瞬だけ。姉さんの身体とはいえど。それも触れるだけ、せいぜい手とかつなぐだけだ。
自分を納得させようと強くうなづいた瞬間。部屋の中でがたりと物音が聞こえた。

「ふざけんなテメェ!」
「・・動かないでくれないかな。そうか、この子に習ってみようか。『お願いします土方さん、じっとしてて・・?』」
「オイィ!!」


「おいっ、・・テメェ・・・!」
「・・失敗は許されないですからね。確実に中心を仕留めさせてもらいます・・」


かっ、確実に中芯がなんだってぇぇえーーー!!



ドガァァァン・・・!

「「ん」」
相手の首を絞めるように手を回していた雑用娘と、その前の男がそろって爆発した入口に視線を向ける。
湯気が出そうなほど顔を真っ赤にした総悟がそこに立っていて、ふるふると拳を震わせていた。

「・・・、ってんだ・・・」
「え、と・・・沖田君?何をやっている?君は見張りの筈・・・」
「テメェが姉さんの身体でナニやってんだって聞いてんだァ、こんのクソヤローォォォ!!」

逆切れたァーーー!

姉さんの身体から離れろおお!目を回しながら総悟が指させば、面白いように体から力が抜ける。
否、抜けたのは伊東の霊体の方だ。しゅぽん、と雑用娘の身体から音がして、支えになっていた糸が切れたように娘の体は土方の胸の上に倒れた。
ぜいはぁと息を乱していた総悟はやがてハッとして・・・

「・・・・・・・えーと・・」
「・・・やァっぱりまァたてめーの仕業か総悟ォォ・・!!」


どがぁぁぁんんん・・!
朝よりずっと近い。屯所の真上に雷が落ちた。




を抱えて去ってしまった土方を見送って、総悟は眼尻にうっすら涙をためながら押さえていた頭のてっぺんを離す。
流石に今回の雷はデカかった。目の前に火花が散った。
それもこれもどれも全部伊東先生が使えないせいだ。あと自分の魔法陣が完璧すぎたからか。
消えろと念じれば本当に消えてしまった。本当にあっけない。

一つ舌打ちを打って副長室から出ようと一歩足を踏み出せば、ぐいと何かに片足を引っ張られた。
「あん?」

『・・君はもう少し死者に対する敬意と言うものを学んだ方がいい』

耳元でささやかれる低い声。
その日、真選組屯所に一番隊隊長の悲鳴がこだました。

















その日の晩。
行方不明になった総悟は置いておいて、土方とは二人して総悟がめちゃくちゃに散らかした屯所の隅の空き部屋を掃除していた。
案外時間がかかってしまって、時刻はそろそろ日付をまたごうとしている。

「ふはー、やっときれいになりましたね」
「たく、総悟の野郎自分の部屋でもねェのに好き勝手散らかしやがって」
「せっかく片づけたのに、ここで飲むんですか?」
「疲れたんだよ。おめーも付き合え、つまみ持って来いつまみ」
「えぇ・・?確か戸棚に柿ピーが」

やがて柿ピーの袋と3つの盃を持ってやってきたに、土方は目を丸くした。
「お前も知ってたのか」
「はい。朝、近藤さんが言ってました」
雑用娘はしれっと答える。若干嬉しそうに。

とくとくと酒を注いで、柿ピーを開けて。
時計の二つの針がやがて一つにくっつく。
それと同時に、持ってきた3つの盃の端もかつん、と合わさった。


「伊東先生、お誕生日おめでとうございましたー」
言葉にしたのはだけだったが、土方も笑っていた。






終わり。




ごめんなさい本当ごめんなさい。
何か本当にごめんなさいあとがきとか書いてる時間すらもないごめんなさい。
・・・・そうだ。言い訳はブログでかこう。

先生おめでとうございます!
2012.12.13 HappyBurthday! 管理人:ねこ えんじゅ=*^ω^*=