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「へい、らっしゃい!」 ここはお江戸・かぶき町のはずれにたたずむ一軒の飲み屋。 店内はそう広くはない。 気のいい店長の声が響く中暖簾をくぐって現れたのは、巷じゃ「犯罪予備軍」とか「犯罪者一歩手前」とか「犯罪者一歩踏み入れた後」とか言われている胡散臭い何でも屋『万事屋銀ちゃん』の主人と、チンピラ警察官真選組の一番槍率いるサディスティックで有名な年最少隊長という、何とも珍しいペアだった。 双方足取りはしっかりしているがうっすら頬には赤みがさしている。おそらくはココが1件目ではないだろう。 すすめられた席に腰をおろした銀髪の男は上機嫌に、カウンター越しの店長に声をかけた。 「オヤジィーおれ生!沖田君は?」 「んじゃー俺もとりあえずは。あと枝豆と焼き鳥」 「オヤジィィー生二つ!枝豆と焼き鳥も二つずつ頼むわ」 「あ、タレがいいでさ」 「オヤジタレでェェー!」 「へいよ、お待ち!」 冷えたジョッキになみなみ継がれた命の水をぐいっと傾け、同じ白髭を作りながら二人は幸せそうに息を吐いた。 ふはー!うめー! このために仕事やってるよなー! アンタは今日一日中パチンコでしたけどね旦那ァー うるせーよコノヤロー! 「ん」 運ばれてきた枝豆を唇に咥えたところで、銀時は店の隅に見知った客を見かける。 その後ろからひょいと顔をのぞかせた総悟もその人物には覚えがあるようで、わずかに潤んだ瞳を瞬きしながら「あれェ」と声をもらした。 さらりと流れる髪質は総悟ともそう変わらない長さで艶のあるストレート。 纏う空気はずどーんと重く、何だかその一角だけ照明切れてますよ店長、店長?店長ォォーー!な感じだ。 渦巻き模様の黒い着物は半分袖を抜いてあり、白のインナーから適度にたくましい腕が覗く。 眼の下にくまなんて作りながらぐびびっとジョッキを傾ける、若干ガソリン臭のする金サラストレートは、涙交じりにカウンターに空になったジョッキを置いた。 「オヤジィ・・お代わり。レギュラー満タンで・・!!」 見知った顔と言っても、天敵である。 まぁ、甚だ許しがたい扱いを二度も(原作とアニメで)受けたとはいえ、もう事件は済んだこと。 今はかぶき町の隅のカラクリ技師のもとで雑用兼営業マネージャーをしているその男・・・超合金製完全体坂田銀時弐号機・・・・・通称坂田金時は、若干危険な香りをまといながら机に突っ伏してうめき声をあげていた。 どうやらしたたか飲んだよう(ガソリンを)で、カリカリカリカリ高速で処理活動をしている頭は湯気が出るほど真っ赤。 機体の熱を逃すために滲んだ冷却水が瞳を潤ませている。 ひく、と、小さく咽を鳴らして、銀時の後ろから総悟が男に声をかけた。 「アレェ、誰かと思えばキレイな方の旦那じゃねーですかァ。一人酒たァめずらしーこって」 「キレイな方って何?!てことはコッチ汚い方?汚い方の旦那?」 「あァ・・・兄弟じゃねーか・・」 一応総悟も会ったことがあった。 こっちの旦那が主人公の時はそれはもう顔を合わせれば酒をおごってくれる絶好のカモげふんげふん。 銀時と総悟に気づいた金時は一応の会釈をした後にまたぐずぐずと沈んでいく。 ちらりと顔を見合わせた銀時と総悟は、それぞれのジョッキを持って席を立つ。 そして金時の両側に陣取った。 なにもなぐさめとか相談室とか懺悔室とか、そう言うのではない。完全なる酔っ払いの絡み酒である。 「アラアラ金時くぅーん?」 「一体今日はどーなすったんで?」 「うぜー、テメーらめっちゃうぜー」 ニヤニヤ絡んでくるドエス二人を力なく睨み付けて、金時は静かに視線を逸らす。 「テメーら人間様には一生分からねェなやみだろーよ」 ぽつりと寂しげにつぶやかれたその言葉に銀時と総悟は視線を合わせ、 そしてニヤリと口角をあげた。 「エエー気になるじゃんん」 「なんか悩み事でもあるんですかィ」 「言えよォー。遠慮しねェで懺悔しろよォー俺らがちゃんとアーメンしてやっから」 「うっとおしいな!この酔っ払いどもが!」 「どうやらダンナぁ、コレで悩んでるみたいなんですよ」 店の奥、灯油をきゅぽきゅぽやって容器を移し替えるやつ片手に飲み屋のおやじが苦笑い。 おやじテメェ、と苦々しく漏らす金時の両側で、一瞬で思い当たりの合った二人は同時に食いついた。 「「女か!!」」 頭お尻から触覚尻尾を生やした凶悪なシスター二人に囲まれて、半ば強制的な懺悔室が幕を開く。 悪魔二人の誘導尋問は至極的確で、全てを告白し曝け出し暴露してしまった金髪の男は寧ろ神にでも祈りたい想いで天を仰いだ。 ・・なんとまあどうやらこのロボ男。 「あァーまじかー芽生えちゃったかついに。コイゴコロって奴?で?どの家電だ?」 「家電じゃねェよ!」 「機器違いでさァ旦那。で、どの家畜なんですか」 「まんじりとも近づいてねェけど?!」 「あぁ・・・?つまり文字通りパソコンのディスプレイの中に嫁がいるって事ですね」 「そりゃこんなモン書いたり見たりしてる姉さん方の事だろーがよ!」 「人間だ人間、地球人!」 作業場にもたびたび訪れる弁当屋の一人娘。 データの集合体の感情しか持ち合わせていない自分にもいつも心からの笑顔をくれる、 そんな彼女に見事に恋に落ちてしまった。 「種族(?)を超えた愛って奴ですかィ、禁断の恋ですねェ」 「壁が高いほど燃え上がるってねェ、君らの年の子は好きそうだよねェそういうの。若いよねェ」 「少なくとも朝から賭け事に踊らされてるマダオよりは十分アリだとは思いますがねィ。しかし、街を歩けば黄色い声のアンタが色恋で悩むたァ意外でさ」 「そりゃ俺が主人公成り代わってた時のハナシだろ・・」 へい、レギュラーお待ち! 金時の前に、なみなみつがれた揮発性の高い液体のジョッキが置かれる。 「ほとんどの人間は金魂篇が終わった時に金時(オレ)の事なんて忘れてるよ。オメーみたいなイレギュラーは少数派なんだよ・・」 グラスの中映る自分の姿に小さく息を吐いて、金時は隣の薄茶色の頭を小突く。 総悟はそれをうっとおしそうに払った。ふゥん・・。 「・・まァ、キレイな方の旦那は愛に飢えてるって事ですね・・・」 「そうか・・愛か・・・」 「「愛、満タン!」」 「余所でやれ!」 ぜってーやると思ったよ!騒ぐ金時の前で、三つのグラスが音を立てた。 無意味に乾杯を繰り返しながら煽る酒の減りは早い。 ぐいっとジョッキを飲み干して、口元をぬぐった銀時が楽しそうに隣の金髪に絡む。 「まあ諦めるんだな。きっと神もおゆしになられるだろーよ」 「なんで諦める方向に許し与えてんだテメーの神は?!」 テメーの髪と一緒で教えもくるっくるかオメーの神は! どっちかというとこのまま突き進んでいい赦しが欲しいんだけど! 睨み付けられたって銀時はどこ吹く風だ。ニヤリと口元をゆがめ勝ち誇ったように鼻を鳴らした。 「だってあれだろ。ロボ相手じゃやれねーじゃん。全然欲求満たされねーじゃん」 「旦那ぁ、ちょっと引きまさァ」 「はァ?!わかってねーよ沖田君。やれるかやれないか、だいじなところで立てるか立てないかは重要なところだよォ?女だって人間、欲望の生物なんだから」 「ちょっとうるせーんで黙っててもらえますか汚い方の旦那」 「言っちゃったよこの子!」 へへんと見下す銀時に、今度は熱燗(に入ったガソリン。揮発パない)をくいっと煽りながら金時も食い下がる。 「そんなことないですぅーロボだって大事な時は立ち上がりますぅー!」 「ぶっは!テメーのボルトねじ込まれて喜ぶ女がどこにいるってんですかァー!」 「朝から晩までバクチダンサーの旦那に言われると腹が立ちますねィ」 「ついに企画名になっちゃったね!来ると思ってたけどねうん!!カッコよく言ってくれてありがとう!」 「心配ありませんんー、最近は付け替えパーツが充実してるんですぅー!(ピーーー)機能のついてる(ピーーー)素材のモノとか(ピーーー)もできたり本体の電力で(ピーーー)したりするものもジジイが開発してくれてんですぅぅー」 「何開発してんだジジイィーー!!」 いっそ大人のオモチャ屋に転職しろよあの老いぼれ!! 銀時の叫びは再びぶつかったグラスの音に埋もれて消えた。 梅酒ロックとハイボールをそれぞれ傾けながら、銀時と総悟は運ばれてきた軟骨のから揚げをもそもそ頬張る。 こないだ初めてのキスをして微妙に気まずい空気になって以来、 どんな顔で会えばいいのか、しいてはこのまま交際を続けていけるか自信がなくなってしまったなんてしょぼくれる金色の頭を見て。 銀時は軟骨のから揚げの油で多少ぬめついている手をポン、と金時の肩に乗せた。 ごしごしそのままさりげなく拭いつけるが、あいにくそれに突っ込みを入れる余裕もないほど3人が三人とも酔いが回っている。 「まァ、なんだ。ロボのテメーに人間のねーちゃんを落とすなんざ無理だ」 「・・・・はは・・迷える子羊にそいつぁねーや兄弟・・」 一瞬口をつぐんだ金時が、わずかにノイズの入った音を出す。 「そう言うんじゃねーよ、まァ聞け坂田」 データの集合体のテメーが過去の統計でどう計算しようと無駄だってこった。 恋愛がデータ通りに行くものか。 恋愛シュミレーションでもあるまいに、何が出るかわからない賽の目を転がし進んでいくのがリアルの恋愛というもの。 吉と出るか凶と出るか。 丁と出るか半と出るか分からない。 自分のデータにこもるのではなく、明日を掴みとるために。のるかそるかの大博打に一歩を踏み出す勇気。 「お前もバクチダンサーになれよ、金時」 「黄瀬君もびっくりの完全模範なんだろ。テメーのモデルが誰だと思ってやがる。自信持て」 「き、兄弟・・・ッ」 「オヤジィー、ジンジャーハイボールひとつー」 流石にこの時ばかりはツッコミたい心を抑えて総悟も黙っておいた。 「よォォしィィ、今日は俺のおごりだ兄弟たち!思う存分飲んでくれ」 「ひゃっほォォォォ!!その言葉を待ってましたァァァ!」 「アーメン!!」 ここも黙っておいた。 「おいオヤジィ!このおにーさんに愛満タンもう一杯!」 「ダンナぁ、勘弁してくだせえ。これ以上は満タンは無理だァ、俺の車が動かなくなっちまうよ!」 「何ィ!こちらさんは愛の給油ランプが点滅してんだぞォ!水で薄めた奴でもいいから持って来ォい!」 「ソレ愛すかすかだけどいいんですかィ旦那ァ」 「全然アーメンだ総一郎君!」 「・・・盛り上がってるねぇ」 空のジョッキもいくつか乱立してきた頃、 飲み屋の引き戸を開けて入ってきたのは一人の娘だった。 「ちゃん!悪いね引き取りに来てくれて、助かったよォ」 「うぅ・・ん・・、おー、じゃねーか?」 「もう、どうしたの金さん?飲みすぎるなんて珍しいね」 ほら、帰るよー。なんて笑顔で金時の肩をゆする娘は確認するまでもなくこの男の思い人なのだろう。 先ほどまでとは違う「愛満タン」によりうっすら頬を赤らめる金髪の男に、なるほどねェと銀時も総悟も目を細めた。 たしかに、この笑顔は落ちる。かわいい。 お先にごめんね、また一緒に飲んであげてねなんて銀時たちにも会釈をして立ち上がった金時を支える娘は仲睦まじく、キスで気まずくなったとはとてもじゃないけど思えない。なんだ、懺悔室開くまでもなく。全然仲良いじゃねーか。 「じゃぁね、おやじさんもありがと。ご馳走様!」 「毎度っ!」 「・・なぁ、・・」 「はいはい、いくよ酔っ払いさん」 「どーするよ沖田君。俺達はもうちょっと飲み直してから行く?」 そう言って銀時が振り向いた先では総悟が後ろを向いてぱちぱち瞬きをしていて、 首をかしげながら振り向けば、店を出たところで二人の男女が抱き合っているのが見えた。 暖簾で見えないが、おそらく頭と頭はもっと密着してるのだろう。お幸せに。爆発しろ。アーメン。 手に持った酒をゆっくり口に運ぶ、銀時も総悟も、その口元はわずかに緩んでいた。 「もう夏ですねィ、夜でも暑くっていけねーや」 「まったくだ。オヤジぃ、冷酒2つ」 ばぁぁぁんんん 突如飛び込んできた金髪に、手に持とうとしたお猪口が滑って床に落ちる。 「・・・・・また、『ガソリン臭い』って言われた・・・」 「「アーメン!!」」 その日は朝まで飲みました。 ***** 素敵な企画に参加させていただきありがとうございます! ヒロインが出てこないという罠。バクチダンサーという罠。 |