「夏休みも終わったし、もう時間があるなんて言ってられなくなってきたよ」
「どこの大学行くか決めた?ええ?アンタにしちゃレベル高くない?」
「頑張って勉強しなよ、頑張って」

はふう。
わたしは図書館の机に突っ伏した。手元には何度も計算して真っ黒になったノートと、真っ赤になった問題集。
・・・・どーっしても答えが合わない。
あー何で神様は数VCなんていう訳の分からない教科をお創り遊ばされたんだろう。訳が分からん。ちんぷんかんぷん。

3年Z組 。ここ都立銀魂学園に通う3年生・・・つまり、受験生。
これからの自分の将来を左右大事な戦だ。舐めてかかるんじゃないぞ、と進学課の伊東先生は言っていたけれど。
ぶっちゃけそれ高校受験の時も言われた気がする。きっと大学で就職活動するときにも言われるんだ。
私の人生に勝手に何回も人生を左右する戦を作らないでいただきたい。
それでも、まあとりあえずこの先何年か過ごすことになるであろう学校を決める受験はそこそこ大事だと思っているので。
いや、先生や親がうるさいからっていうんじゃなくて。うんマジマジ。
私だって自分の学びたいことがのびのびできる大学に進みたいから。こうやって放課後図書館にこもって勉強しているのである。

ただ・・・・。はあ、とまたしてもため息が漏れる。
ここ三日間一ページも進んでいない。この問題がさっぱり解けない。
飛ばして次の単元に行きたいのは山々なのだが、只今が行き詰っているのは基本中の基本単元。先に進んでもさっぱりなのである。

「十四郎くん・・・たすけてぇ・・・」

十四郎くんとは彼女のクラスメイトの一人である。頭もよく成績優秀で、もよく勉強を教えてもらっていたのだが・・・。
・・・・・一時期、オタクの世界にどっぷりはまってしまっていたためただいま必死に挽回中。
そんな彼に質問しに行くのは些か心苦しい。「大丈夫だ、分かんなかったら聞きに来い」なんて言ってくれたけど、必死に勉強している姿を見ると、やっぱり。
ふぁぁぁ・・・わかんないぃぃ・・・。なんて気の抜けた声を出しながら頭を抱えていると、ばふ、と誰かに本で叩かれた。


「図書館では静かにしなせぇ」







**学生が受験勉強に励む意義について**







「え、と・・・沖田くん、だっけ」
「ひっで。おんなじクラスだろーが」

沖田くんもクラスメイトの一人で、十四郎くんの友だちだ。いや、宿敵といった方がいいのか。
いつも十四郎くんにくっついて勉強を教えてもらっていたので、彼の存在はもちろん知っている。
が、沖田くんからしたらそんな私も十四郎くんの仲間=気にくわないヤツ、みたいな認識らしく、会ってもほとんど会話したことなんてなかった。

「受験勉強ですかぃ?」
「う、うん。沖田くんも?」
「悪ぃけど俺スポーツ推薦で決まってるんで」
「ずっずるい・・!いいなぁ」
「数学やってんの?どれどれ・・・て、何コレ」
「い、いや・・・何回計算しても合わなくて・・色々書き足したり直したりしてたら・・」

真っ黒になったノートと真っ赤になった問題集をちらちら見比べた彼は、ふーん、とかすかにほほ笑んだ。こんなのも分かんねーの?
あれ。沖田くんの事はよく知らないけれど、学期テストの上位には名前はなかったはず。それにスポーツ推薦ってくらいだから学力はそこまで・・・とか思っていたのだが。
おずおずと顔をあげ、私は沖田くんを見る。

「お、沖田くんって、頭いいの?」
「別に。でもこんくらい訳ねーや」

ま、まじか!
私が目指してる大学は一応名門、とまではいかないまでもそこそこ有名な大学だ。その問題集を「訳ない」と一蹴するとは。
文武両道とはこのことか。すごいなあ。

「教えて欲しい?」
「え、いっいいの?教えて欲しい!」
「教えてくださいご主人様、って言えたら考えてやるよ」
「教えてくださいご主人様!」

即答だ。同じ所で躓いてもう3日。かまってられない。
そんな私に沖田くんはぷっ、と噴き出して、「でも今日は俺用事あるんで明日からな」と笑った。
ちらりと私の使っていた問題集の表紙を確認して去っていく。その背中が見えなくなってから気づいた。もう、下校時刻。




さて、次の日から沖田くんによる放課後居残り授業が始まった。
「はいじゃーまず3次関数とは」
「ほい、アンタの悪い癖はここな。マイナス気を付けろ」
「三角関数はこの式だけ覚えなせェ。後は忘れてもこっから導出しろ」

沖田先生の補講は・・・・とっても分かりやすかった。
教員免許取れるんじゃね?!って思うくらい、分かりやすかった。というか、馬鹿な私がどこの部分で混乱しているかを完璧に見抜いたような説明の仕方。
本当にかしこい人は他人に教えるのも上手と聞いたことがあるが、それが本当なら沖田くんは天才だ。
答えが合わなくて悩み始めても、どこで躓いているのか直ぐに見つけてくれる。

「ここまでの考え方は合ってる。もっかいやってみ。・・・ん、よろしい、正解」

自分の力で問題が解けることに感動して、沖田くんに褒められるのが嬉しくて、今まで足を引っ張っていた数学が次の模試では稼ぎ科目にまで転じた。



ある日、いつものように放課後図書館で沖田くんに勉強を教えてもらっていると、後ろから見知った声がかかった。
「よう、じゃねェか」

「十四郎くん」
「・・・総悟、おめーは推薦決まってもう暇かもしれねーがコイツはまだ受験なんだ、あんま邪魔してやんな」
「違うよ、勉強教えてもらってる」
「・・・・はあ??」

十四郎くんは素っ頓狂な声をあげた。コイツが?勉強を教える??無理だろ。
そして次に私の手元にある教科書を見てぎょっとした。数VC?!いやいやいや、不可能だろコイツに!!
隣に広げられたのノートを盗み見る。問3、頭の中で考えること10秒。あれがこうなってこうだから・・・・あ、あってる・・!
繰り返しになるが、十四郎くんは頭がいい。

「本当に教えてるんだな・・・!」
「土方さん、アンタ今ものすっげえ失礼な顔してますぜ」
「どんなマジック使ってんだァ?」
「種も仕掛けもありやせん。ま、そんなわけでさァ。受験終わって暇な俺がコイツに勉強教えてやるんで、アンタはもう用済みでぇ」

ひひひ、と悪い笑みを浮かべる沖田くんに十四郎くんはむっと顔をしかめた。
「お前の狙ってる大学俺と同じ所だろ。そんな問題で躓いてちゃ先が思いやられるぜ」

「ま・・・俺も応援してる。頑張れよ」
「ありがとう十四郎くん」
「じゃーな」

目的の問題集を本棚から抜き取って、手をひらひらさせながら出口へ向かう。
そんな後ろ姿を見送った後で、沖田くんはくるりと私に向き直った。
「あんたアイツとおんなじ大学行きてーの?」

「う、うん・・」
「ふーん」
「あ、あのね、沖田くんのおかげで最近数学の点数上がったんだ。だから、よかったら、次は化学も教えて欲しいなぁなんて・・」
「・・・・・・お前さ、俺の事金のかからない都合のいい家庭教師とでも思ってんの?」
「え?!」

ちょっと調子に乗り過ぎたのかもしれない。沖田くんのその言葉が何だか怒っているように聞こえて、私は慌てた。
そうだ。受験が終わってるとはいえ、彼にもやりたいことはたくさんあるだろうに。
真っ青でごめんなさいと繰り返す私にため息をひとつはいて、沖田くんは窓の外を向いてしまった。
絶望的な気分でおろおろしていると、目は窓の外に向けたまま彼が聞いてきた。
「アンタは何のために勉強する?」

確かに現在の学力「中の中」である私にはちょっぴり頑張って背伸びしなければ届かない目標ではある。
でも私だって迷って考えた結果の志望校だ。将来どんな仕事をすることになるかなんて今は分からないけれど、自分の学びたいことを集中して好きなだけ学べる、そんなところが大学だと聞いた。
私は、その学校で、生物の遺伝子について学びたい。
そんなことをポツリポツリと言えば沖田くんは、ふーんそう、と言った。じゃー頑張れ、と。お前の学力じゃ無理じゃね?とは言わなかった。
ただ満足そうに、歯を見せないで笑って、頷いてくれた。

「そーかぃ。でもま、今日はこの「数列」の単元をしっかりマスターしなせェ」

その日の放課後はいつもお世話になっている報酬として二人でマックに行った。




翌日。私は一人で図書館にいた。手には化学の教科書。
自分で勉強しないうちから人に頼るなんてばかばかしかったんだ。とりあえず自分で考えて考えて、どうしてもわからなかったら先生にでも十四郎くんにでもきこう。
実際理解しようと集中して読んだ教科書は、新しい発見がいくつもあった。

「よー、やってんねィ」
「お、沖田くん!!」

がばり、と勢いよく顔をあげた私は、今にも泣きそうなくらい真っ赤だったに違いない。
だって、もう、勉強教えてもらえないと思ってたから。

「もう、来てくれないかと思ってた・・・」
「ンなこと一言も言ってねーだろ」
「だって昨日帰りに、奢らせていただきますって言って寄ったマックで、私財布の中身空っぽで逆に奢ってもうことなんかになっちゃって・・・」
「ウンそれは俺もびっくりした」

ふあぁ・・・と欠伸をしながら私の向かいに腰かけた沖田くんは、酷く眠そうだった。
慌てて化学の教科書をしまって数学の昨日の続きのページを開・・・・こうとして、参考書を取り上げられる。
目の前で私を見降ろす顔は、にやりと得意げに頬を歪ませた。
「今日は、化学な」


昨日の夜今月分のお小遣い貰ったから、今日こそは奢らせていただきます!!と言って図書館を出る。
荷物教室だから、取って来るね。先に校門行ってて。なんて言って、私は教室へと向かった。
教室には先生がいて、校内模試の採点をしていた・・・・と思ったら、いきなり答案の束を投げ散らかした。

「むきぃぃぃーーー!!!」
「せっ先生!?大丈夫ですか!」
「ハァ、ハァ・・・あ、・・・なんか、すまん・・・お見苦しいところを」
「いえ・・・どうしたんですか」
「イヤ・・・ゴリラの答案が全部『お妙さん』だったからついイライラっとして・・・」
「・・・・・お疲れ様です・・」

私は散らばった他の答案を拾うのを手伝ってあげた。ふと手に取った答案が目に入る。
問い:―@について、主人公の気持ちとして、正しいものをア〜エの中から選べ
答え:お妙さんが愛おし過ぎて生きるのが辛いです。
問い:―Aについて、ケイコの答えがどのようなものであったと予想できるか、ア〜エの中から間違っているものを選べ
答え:かたくなに俺を拒むのも愛情表現の一つだと俺は思いました。

うわぁ。これは・・・・採点するのはしんどいだろうなぁ。「選べ」って書いてあるのだからせめてア〜エの中から選択して欲しい。
そんなことを考えていれば、後ろから先生の声がかかった。

「お前最近数学上がったな」
「本当ですか!」


一応実感はしていたものの、言葉で言われるとうれしい。
受験シーズンになって3Zの皆もようやく少しずつ勉強するようになって来たらしく全体的に点数は伸びてきているのだが、のはその中でも特によく伸びているらしい。
クラスで言うと、2番目くらい。

「一番は・・・沖田だな。アイツ推薦決まってから急に勉強し始めやがって・・・全然意味分かんね」
「・・・・・・・・え?」

受験終わったんだからだらだら遊んで暮らしてればいいものを、何を突然目覚めたのか突然数学を勉強し出したらしい。
毎日のように授業前や昼休みに質問しにくるんだよ。毎回赤点のヤツに分かるまで数学教え続けるって、地獄だよ。俺完全に給料以上の働きを強いられてるよ。
ね?、酷くね?俺かわいそうじゃね?そんな銀八の愚痴は、途中からには聞こえていなかった。


『「用事あるんで明日からな」』
『馬鹿の私が間違えるところを完璧に見抜いて』
『「今日はこの単元をしっかりマスターしなせェ」』
『私の向かいに腰かけた沖田くんは、酷く眠そうだった』


ま、まさか・・・・

「あらら・・・ばれちった。カッコ悪ィ」


先生の居なくなった教室でボーっと突っ立っていた私に、聞き慣れた声がかかる。
今までは自分の成績にいっぱいいっぱいで全然気づかなかった。何で忘れていたんだろう。沖田くんは。

・・・・神楽ちゃんと学年一位二位を争うほどの、赤点常習犯(ばか)だ。

「オラ眼鏡ェェ、ヤマ教えろや」なんて優秀組の新八くんに脅しをかけている姿もそう言えば見たことがある。
「18点だ見たかチャイナァ!」「ぷっぷーざぁんねんでしたァ!私は20点アル!」なんて200点満点の国語のテストで神楽ちゃんと張り合ってる姿も、視界の隅でとらえたことがあったはず。

そんな人が、
毎日毎日、
その日の放課後授業の分ずつ、予習をして、

「おーい、だいじょーぶか」
「ふっふえあ?!」

気づけば目の前に沖田くんの顔。沖田くんは私よりも背が高いから、軽くお辞儀をしてかがんでいる状態だ。両手はポケット、そしてその表情は穏やか。
だって伊達にこの1ヶ月間毎日彼と顔を突き合わせて勉強を教えてもらっていたわけではない。普段の対応からして、そして全くの0からのスタートだったとしても一晩で他人に教えられるほどの集中力、頭の回転、柔らかさ。

この人は、勉強は苦手かもしれないが、確実に、頭が切れる。
それを踏まえると、もしかしたら、このタイミングでネタばらしをしたのも何かの意図があるのではないかと疑ってしまう。

「・・沖田くん」
「んー?なんでぇ」
「前沖田くん私に聞いたでしょ、『何のために勉強するのか』って」

「沖田くんは・・・・何のために勉強するの」
「・・・・俺は体動かす方が性に合ってるんでねェ、勉強なんざ大っ嫌いでェ。・・まァ・・そんな俺でも必死に勉強する時があるとすりゃァ・・・」



片手だけポケットから出して、自分の口元に。
ずいっと近寄られて、耳元でナイショ話。

「・・・・不純ッ!」


沖田くんが推薦で受かった大学が、私や十四郎くんの志望校と同じだったことを、
今更思い出す。









はいお疲れ様でしたー!50XXhitリク「総悟とラブラブな感じ」なのかああああ??!
もしかしたら屯所の猫で、だったのかもしれませんが、リクエスト主さまが受験生だと聞いて思わず書いてしまった作品。リクエストでも何でもねェ・・。
あのっ、ご不満があればアレです書きなおしますんで・・・!
こんなものでよかったらもらってやってください!そして全国の受験生の皆頑張れ。でも志望校に入ってからが本番だぞっ☆