見られて興奮するという土方の知りたくもない性癖を知ることになってしまってから24時間がたった。
つまり次の日である。
総悟はため息をつく。彼の目の前には一つの扉。そして後ろには土方がいて、早く入れと促している。
・・・はァ。
「これから毎晩」なんて言っていたから御免だと思った総悟はこの男に合わないよう逃げていたはずなのに、あっさり見つかった。

「早く入れ」
「・・なぁ土方さん、マジ誰なんすかあのインラン女・・アンタの女じゃ、」
「違う」

土方の手が伸びてきてドアノブをつかむ。そのまま部屋の中に押し込められる。部屋の中央には昨日と同じく一人の女・・・・が座っていた。
後ろで鍵をかう土方は無視して、総悟はしぶしぶ畳に腰を下ろす。素直に見えるかもしれないが、これでも一日考えていたのだ。

性行のレッスンなんて御免だが、この、愛想も糞もない生意気な女を組み敷いて喘がせて泣かせていいというなら、それはそれで面白い。
セックスという行為とは若干ジャンルが異なるが、女一人手玉に取り調教を施すことなど訳ないのだ。
大抵の女なんてちょっと精神的にいたぶってやればすぐに泣き出す弱い生き物なのだから。


「では、改めて今日からレッスンを始めましょう。よろしくお願いします」
「で?要はアンタを組み敷きゃァいいんだろィ。さっさと素っ裸になりなせぇ」
「・・・教えてもらう立場なのに挨拶もできないの?あなたの家族や師匠のお里が知れてよ」
「・・・・・・・」

相変わらず驚きのウザさである。
震える握り拳を土方に押さえつけられながら「おねげーいたしやす」と言えば、無愛想女は気にした様子もなく口を開いた。

「まず最初のレッスンは“キス”です」


きすぅ?
思わず聞き返してしまった。拍子抜けもいいところである。キスってアレだろう。口と口がくっつくアレだろう。
もっとぬるぬるのぐちょぐちょでくんずほぐれつな講義を期待していたのに。そんなぬるいレッスンじゃ俺の嗜虐心は満たされない。
「俺ぁとっとと入れてェんですが」と言えば女は虫でも見るかのような視線をよこした後、でもまぁ、と言葉をつづけた。

「レッスンなので、沖田さんが上手に出来て合格なら次へ次へ進んでいきましょう」
「へえ」
「構いませんよね、土方さん」
「ん、ああ・・」

土方は何かを濁したような返事をうつ。おそらく総悟が何を考えているかなんとなしにわかっているのだろう。
しかしもう遅い。総悟は目の前の女が口を開く前にずい、と素早く距離を詰めた。そしてそのまま唇をくっつける。
こーゆうのは恥ずかしがったら負けだ。恥ずかしがったら最後、やれ耐性がないだの女慣れしてないだのぶつくさ言われるに決まっている。
少しの間くっついていた唇がゆっくりと離れる。
何もしないうちから完全に舐め腐りやがって雌豚のくせに!
にやりと目を開いた先にいた女は、冷めきった冷たい目で総悟を見下ろした。

「2点」
「・・・・・・・」

ぴしり、と総悟の中で何かがきしむ音がした。2点?2点ってアレか?2点満点中の2点か?

「200点満点中です」
「国語のセンター試験かぁァァァ!!」


訳のわからないツッコミをしてしまった総悟を完全に見下して、変態講師はずい、と距離を詰める。
くっつきそうなほど詰められた距離から発射されたのは、何とも酷な言葉のオンパレードであった。

「何ですか今の?押し付けるだけ、しかも一瞬もいいところ」

「しかもガチガチに固まってて、壁か何かにぶつかったのかと思いました」

「さらには始終目を閉じてましたね。なんですか?女子高生のファーストキスですか?」

「・・・・・・・・・・・・・・」


「ただ、積極性という面では評価します。特別加点5点です」
「それ加点がなかったらマイナスって事じゃねーか!!」


すっとの手が総悟のほほに触れる。柔らかくて細い、女の指。
ゆっくりと女の顔が近づいてきて、総悟はびくりと目を閉じた。

「目を開けなさい」

ゼロ距離でささやかれて、はっと目を開ける。逃げるようにのけぞった総悟の上に覆いかぶさるようにして、女の唇が総悟の口をふさいだ。
ぺろ、と唇を舌でなぞられて、総悟は体を固くする。
イヤ、待て、馬鹿な。目の前にいるのは武器も持たない弱い女のはず。
それに対して自分がそんな感情を持つわけが。

ぬるりと生暖かい感触が唇の上を滑る。さらりと女の指が総悟の髪をかき上げた。
総悟の腰にまたがるように広げられた足元は、着物が少しだけはだけて太ももがかすかに覗いている。もたれかかるようにぴったり胸と胸をくっつけて、いつまでたっても動かない総悟にしびれを切らした女は冷たい視線を投げつけた。
「口を開いて」

「怖くないから、ホラ」
「・・・・・・!?」

見透かしたように女が目を細める。微笑むなんて柄じゃない、完全に見下した黒い笑み。
ぞくぞくと背中に這い上がってくる感情は、情けないが混乱と、ちょっぴり恐怖だ。

「・・開きなさい」
「ふひゃあっ!?・・んぅ・・・・っ!」

先ほどまでよりも固い声で言われるが同時に、すっと降りてきた細い手にぐあしっと中心をつかまれる。
何この女?!と思うよりも先に、間抜けな悲鳴を上げて薄く開かられた唇の隙間から、暖かくも冷たくもないの舌がねじ込まれた。
さーっ、と血の気が引く感覚がする。


「・・・・・・!!!」



ぴくりと体を震わせた女は、間もなくして総悟の中から舌を抜き唇を放した。
物事は「しまった」と思った時には大抵手遅れである。
口の中に広がるのは鉄の味。

「・・・・やってくれるじゃない」

うつむいているためその表情は分からなかったが、ものすごく不機嫌そうに寄せられた眉間のしわは見て取れた。
低くつぶやかれた女の言葉に総悟は身をすくませる。
とっさのこととはいえ血が出るまで噛んだのだ。痛くないわけがない。


「・・・とうしろう」
「びくっっ」


おもむろに開いた女の口から飛び出た名前に、飛び上がったのは土方ではなく総悟だ。
低っ・・・低ぅっ・・!!お、おんなってこんなに低い声が出るもんなのか?!
ゆっくりあげた女の視線とかち合う。超怖い。後ずさろうと身を引けば大きな胸板にぶつかった。そのまま後ろから延びてきた手足に両腕両足をからめ捕られる。
煙草のにおいが鼻をくすぐった。

「ひっ、ひじか、ひじかたさ、はっ・・放し」
「・・・悪く思うな、お前のためだ・・・」
「目ェそらしてんじゃねーよ完全に自分の保身のためじゃねーか!放せこの・・!」

クソマヨラーが!!そう言いたかった言葉はゆらりと立ち上がった目の前の娘にギョッとなり飲み込まれた。
何も感情を悟らせないような無表情で、女はゆっくりと総悟を横切り後ろ、土方の方へと回り込む。
何してるんだ?と思いつつも今のうちにとじたばた土方の腕の中でもがけども、悔しいことに純粋な力比べでは身長も体重も上のこの男にはかなわない。
ふぐぐ・・と全身全霊の力を込めてもがけば、耳元で土方の声がした。

「総悟・・・・・・悪いことは言わねェ」

ごそごそと土方の傍らで女がうごめいているのが気配でわかる。いったい何をしているのか。

「ちっと大人しくしてた方が・・・」

ずり・・ずり・・と嫌な音を立てて、総悟の目の前に女が戻ってくる。



「身の為だぞ。マジで」


女の手に重そうに握られているのは、後ろから総悟を羽交い絞めにしている男の腰に刺さっているはずの、ヤツの愛刀だった。

・・ッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああ!!!
ドスッ!
重そうに振り下ろされたそれは総悟の股ギリギリの畳に突き刺さる。もちろん刃は総悟を向いてだ。無理に動けば刺さる!斬れる!もげる!

「・・・もう一回さっきみたいなオイタしたら、貴方の金玉引き裂くわよ」
「アンタ本当に何モンでィ?!!」

傍らに腰を下ろした女にぐい、と顎をつかまれ、再び唇をふさがれる。
「口開け」耳元で苦々しい土方の声が聞こえて、総悟は恐る恐る唇を開いた。


ぬるりとの舌が入ってくる。総悟の足りない成人誌情報によれば、ディープキスは口の中で相手と舌をからませたり、吸いついたり、互いの唾を飲ませ合ったりとなんかもう聞いただけでグロテスクなものだったのだが、実際の感想としては「そこまで気持ち悪くはない」だった。
というのも、もっと激しくひどい扱いでぐちゃぐちゃにされるかと思いきや、のキスはとても丁寧だったからだ。
奥で縮こまる固まったままの総悟の舌は一度ぺろりと舐めただけで無理やり引きずり出されることはなかった。
一本一本歯茎をなぞられて、むず痒いような、ぞわぞわした感触が首元を駆け上がる。幾分も経たないうちにゆっくりと唇を放しながら胸を撫でられた。

「息。ちゃんと吸って」
「・・っは・・ッ!・・んっ・・っ」

“息継ぎ”を何度もさせながら、は総悟の口内を隅々までなぞった。ゆっくり、丁寧に。
時々ちゅっと音を立てて軽く吸い付いたり、唇を甘噛みされる。痛くない絶妙な加減でカリ・・と噛まれた下唇が熱を持ってじくじくとしびれた。
最初はぎゅぅぅと閉じられていた瞳もうっすらおそるおそる開かれる。
薄く閉じられた女の顔が間近にあって少し驚いた。まつ毛長ぇ・・。
そんなことを思っていると、気づいたが目を細める。形の良い大きな瞳がふっと三日月形を作った。


「舌、使ってみなさいな」

“息継ぎ”の時にそう言われて、再びくっついたときにおっかなびっくり総悟も舌を動かしてみる。
唇をはむの唇をおそるおそるぺろ・・と舐めれば、侵入してきたの舌が総悟の舌先を舐め返した。これも無理やりからめ捕るようなことはしない。
しばらく待っても動く素振りがなかったので、そのまま総悟はゆるゆるとの舌をなぞっていった。たまっていた唾をごくりと飲み込む。の分も入っていたかもしれない。
細い指がさら、と目の上を撫でる。反対側の手でつうっと横腹を撫でられて、総悟は身じろぎした。
固く固定されていた土方の片手が外される。片方だけ自由になった腕で、総悟は女の着物の裾をつかんだ。

だんだん“息継ぎ”も自分から行っていけるようになって、招かれるようにの口内へ舌を入り込ませる。
先ほど彼女がしたようにぎこちないながらも歯茎をゆっくりなぞれば、は「いいこいいこ」をするように総悟の髪を手櫛で梳いた。

「流石。覚えが早い」

含みのある声色だったが一応褒められているのだろう。
背中に回した手をグイと引き寄せれば、女は足を開いて総悟の上にまたがるようにして正面から唇を合わせた。畳に刺さっていた土方の剣はさっき手を離したときに抜いたのだろう。



不意に侵入させていた舌を噛まれた。ぴくりと肩を震わせる間もなく、女の舌がきゅっと絡まり、きつく吸われる。
思わず鼻にかかった裏返ったような高い声が出て、驚く。吸いつかれた舌が、まるでやけどをした時のようにじんじんと痺れた。
口元から溢れ出た、どちらのものともつかない唾液を女が音を立てて舐めとり、総悟の口内へ返す。膝立ちになったに上向きに喉を傾けられて、総悟はごくん、とその唾液を飲み込んだ。
ちゅぱ、と音を立てて離れた唇からは粘度の強い透明な液体が糸を引いており、てらてら光る女の唇から目がそらせない。
女の親指がなぞるように総悟の唇をぬぐって、その動作ひとつにもぞくぞくした。

いつも無愛想なはずのその女講師は、その時だけは艶やかに微笑んで、とてもきれいに見えた。


「あらあら。キスだけでそのザマじゃ先が思いやられるわ、このドヘタレ童貞が」


のに。
次の瞬間飛び出た女の言葉に唖然となる。
アレ?さっきまで口づけを交わしていた色っぽい女性はどこに行った?

「全くだ。レクチャーさせて正解だな。さっそく骨抜きか?機密情報一発でダダ漏れじゃねーか」

すぐ後ろから聞こえた声にびくりと総悟は肩をこわばらせた。そういえば土方がいたのだ。(忘れてたけれど)
そして自分の状況を見て愕然とした。片方の腕はの背中に回されており、いつの間にか解放されていたもう片方の腕も女の腰に回されその着物をしっかりとつかんでいる。
「もっと、もっと」もいいところだ。かぁぁ・・・!と耳まで赤くした総悟はいまだ整わぬ荒い息を必死に落ちつけながら女を睨み付けた。
ハメられた。どう考えてもおかしい。キスだけで骨抜きになってたまるか。
コイツ、なんか盛りやがったな・・・!

「それはどうも。最高の褒め言葉だわ」

完全に普段の愛想皆無な無表情に戻った女は「今日はこの辺にしておきましょうか」と言って回された総悟の手を払い立ち上がった。
今まで密着していたせいか、隙間のできた部分の体が妙にうすら寒い。
「くくっ」とすぐ後ろから押し殺したような笑い声が聞こえてきて、総悟は本当に後ろの男をぶん殴りたくなった。
恥ずかしい。

今まで女がまたがっていたため見えなかったが、キスをしただけなのに総悟のものは熱く硬くなっており、着物越しにもその必死さが伝わってくる。
それをゴキブリでも見るかのように冷たく見下ろしたは、もう一度「じゃぁ今日はこれで」と言った。この鬼!!!

「あ・・あんたぁ、セックスのせんせーなんだろィ・・。自分で勃たせといて、抜いてくれても、いーんじゃねーのォ?」
「残念ですが、お断りします」
「ハッ・・なんでぇ、イかせられる自身がねーんですか、いぃっ?!!」
「・・生意気な餓鬼。あなたのためを思ってですよ沖田さん?」
「い、あ、あっ、あ」

冷たく見下ろす視線はそのままに、ガッと振り下ろされたの足が総悟を踏みつぶす。
ぐりぐりと踏みつぶすようなその感覚にすらぞくぞくと体が震えて、総悟は混乱する頭で必死に耐えた。
ちょっとマテ!ここでイったら変態だ。イヤ変態っつーかMだ。

「この段階で私が抜いてあげたら、アナタ、私なしじゃ生きられなくなるわよ?」
「・・・!!!」
「どうしてもって言うなら、そうねえ。土方さんに抜いて貰いましょうか、ねえ土方さん」
「・・・・・」
「ぜってえいやだ!!」


急激に萎えていく自身を感じながら、コイツ本当にいっぺんしばきてえ!と本気で思った総悟であった。









レッスン1。キスだけでこの疲労感・・・。
本当に連載していけるのだろうか・・。

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