さてと。
違う空色の袴を身に着けて、真選組一番隊隊長沖田総悟は屯所の廊下を進んでいた。
今日は久々の非番だ。自然足取りも軽くなる。
しかし。
わくわくしつつも若干黒い笑みをたたえた総悟が立ち止まったのは、離れの一角にある鍵のかかった部屋の前だった。
毎日そこかしこが騒がしい真選組屯所の真昼間だというのに、そこは人っ子一人見当たらない。
外からの光だけでほんのり薄暗い廊下は、逆に暗闇の夜よりもこの場所に使用者がいないことを表しているようだ。
いつも日が暮れてからしか訪れないために新鮮さを感じる。
コンコン、とまずはノック。返事はない。
集中して部屋の中の気配を探れど、本当にまるで誰もいないかのようだ。流石である。
「沖田でさァ」
名乗ってみれども無反応。総悟の口角がにやりと持ち上がった。
どんどんどん!
「オーイ!いんのァわかってんだぜィ!」
どん!
ノックというには些か激しすぎるほどドアを強打しつつ大声をあげれば、何度目かのノックをする前に内側からどんっ、と扉が振動する音。
にんまりと総悟は歯を見せて笑った。いた。
「・・・静かにしなさい」
「あらら、まさかぁほんとにいるとは思いやせんでした」
「・・・・・」
その気配がわずかにむっとしたのがわかる。それにもまたニヤリ。嘘だ。自分の感覚の鋭さを舐めないでほしい。
耳を澄まさねば聞こえぬくらい小さくささやかれたそれは、まぎれもない女の声だった。
「いるなら返事くらいしなせェ」
「何の用です」
「開けろ」
鍵がないと開きません。
そう言ったに総悟はわざとらしくポケットから一つのカギを取り出す。
かちゃりと音を出して鍵穴を捻れば、中の気配がこわばったのを感じた。
「暗ッ!!」
扉をほんの少し開けたところで、中から伸びてきた細い腕に引きずり込まれる。
部屋の中は真っ暗だった。窓一つないのだからそれもうなづけるのだが。
総悟の手から取り上げた鍵で内側の錠を閉めたは、小さく息を吐きながら総悟の前に腰をおろした。
否、そんな気配がした。今まで明るいところにいた時分には小さな光一つないこの部屋の中では何も見えない。女の方は慣れているのだろうけれど。
「土方さんが許可したんですか」
「イヤ、不用心にもポケットに入れて大事に持ち歩いてるもんですから、隙を見て拝借してきやした」
「・・・・・・」
暗闇で目は聞かないとはいえ、相手が顔をしかめたのがわかった。
いつも余裕で無表情なこの女の感情の端を垣間見てなんだかしてやったりな気分になる。
「帰りなさい。何しに来たんですか」
「なんでぇ、勉強熱心な生徒に他にかける言葉はねェんですか先生」
「いつもいつも半ベソになって喘いでいる熱心な生徒は誰ですかね沖田さん」
「・・・・てめーやっぱいっぺん泣かしてやりてェ」
「沖田さん」
ふと、本当直ぐ近くで吐き出された声に、総悟がしまったと思うよりもはやく唇がふさがれる。
悔しいがこの女のテクニックは上手いを通り越してずるい。
のけぞった体を支えるために畳に手を突いた総悟の上にしだれかかった女は、もたれかかる体重を増やしながら総悟の髪を撫でた。
ぷは、と唇が離れた時、すでに自分だけ息が上がっているのが情けなく悔しい。
「何しに来たんですか?」
「っ、ふ・・」
「言いなさい。勉強熱心な生徒の復習ならお付き合いしますが、復讐なら受け付けてませんよ?」
「違・・・うおあ?!何でアンタもう脱いでんの?!」
密着した体を引きはがそうと押しやれば柔らかい肌の感触がして、総悟は慌てた。
何で脱いでんの何を始めようとしてるのどうして始めようとしてんの?!
違う違う、これではいつものレッスンと同じだ。
寄せてくる体を押しのけほほに添えられた手を取り捻り上げれば、次の瞬間には上下が逆転していた。
「痛・・!」
「人の話を聞けや痴女がァ!」
ミシ、と嫌な音がしたので慌てて手を放す。いつも屈強な攘夷浪士しか相手にしないので力加減が難しい。
勝手に進められちゃ困りまさァ。俺はこないだの「ゴホウビ」を使いに来たんでぃ。
ようやく慣れてきた暗闇の先に見えた女は、いつも通りの無愛想な無表情で首をかしげた。
「・・やってみてープレイがあるんでさァ」
『一年もこんな狭いトコ閉じ込められて、平気なわけねェだろ』
部屋の外気配を殺し聞き取ったその言葉に、総悟が感じたのは驚き以上に納得だった。
一年も自分が自分たちが気づかなかったのには驚きだが、それならいろいろと納得がいく。
監禁まがいの事をしているのだって、きっと上の理不尽な意向なのだろう。
何を考えているのか知らないが、総悟はそういう上層部の汚い大人だけの都合というのが好きではない。好きではなくても見慣れてしまっているのだが。
そうしてその都合を気に食わなく思っているのは、上司であるあの男も一緒なのは長い付き合いからわかるので、総悟は息を吐いた。
わかる、けれど、それでも自分を殺して従順に大人の都合に流される土方の気持ちはまんじりともも分からないし、分かりたくもないし、この男のそういうところが総悟は大嫌いなのだが。
流されるこの女も大概気の毒なものだ。
「何でもひとつ、って言いましたよねィ」
この女のためではない。
普段から気持ちよくない思いを抱いている上の人間に軽く一矢報いるような気持ちで、総悟はの腕を強く引いた。
ニヤリと歯を見せて笑う黒いオーラは、こう見えても好奇心だ。
「青姦ってのが興味ありましてねィ。これからレクチャーしてくだせぇよ」
最後まで抵抗した女を強引に引っ張り出して、総悟たちは街へ出た。
がかたくなに顔を出すのを嫌がったのでサイズの全く合っていないパーカーがかぶせてある。
別に隠すような顔ではないと思うのに。
外見だけなら、色恋にまったく興味のない自分でもカワイイと思うほどなのだ。
女の考えることは分からん、と考えをそこで完結させて、総悟は半ば無理やり女の手を引く。
は事あるごとに一刻も早く戻りたそうにしていたが、握りしめた手の力を強めれば大人しくついてきた。
一応人通りは多くない道を選んでいるつもり。深くかぶったフードの端をつながれていないほうの手でしっかりと押さえながら、は不審者かお前、とでも言われそうなほどきょろきょろとあたりを見渡していた。
「どーですかィ外は。久しぶりなんでしょう」
「・・・・!」
「っと・・別に誰も取って食おうなんざ思わねェよ、ああ、別の意味でなら思うかもしれませんがね」
通行人とすれ違うたび、しがみつくように総悟の陰に隠れるに新鮮さを覚えて、総悟は顔をゆるませる。
内弁慶を無理やり外に連れ出して、弱みでも握った気分。いつもいつもあんあんひぃひぃ言わされている仕返しだ。ざまぁみろ!
青姦などはただの建前で、こうしてこの女を外に連れ出して反応を楽しみたいというのが本来の目的だったのだが。いやはや、予想以上に面白い。
「なんならァついでに茶でも飲んできましょーか」
そう言えば傍らの女はふるふると首を横に振った。
そんな女を見やりつつ総悟は人知れず息を吐く。折角人が楽しんでいる時に。
女の手を握る強さも歩く速度も緩めぬまま、細めの路地へと角を曲がった。
二人の後をつけていた二人組の男は顔を見合わせ、いつでも抜刀できるように互いに鯉口を切った。
角をまがった瞬間に、そのうちの一人が声をあげて崩れる。
目の前に飛び込んできたのは、驚きに目を見開く女と、その女の手をしっかりと握りつつも反対の手で見事な斬り下げを構えたターゲットの姿。
チッ、気づかれていたか。
崩れ落ちる仲間を見て踵を返す。向こうは女連れ、逃げ足なら負けないだろう。
そんな考えに一歩踏み出した攘夷浪士の視界は、次の瞬間真っ赤に染まった。
足元にうずくまる男が腕を押さえて苦しそうなうめき声をあげている。
その声を聴きながら、総悟は体をすくませた。
逃げ出したもう一人の男が視線の先で突然血しぶきをあげて崩れ去る、その向こう側に見えた姿に。
・・・すげぇ怒ってる・・。
自分の足元、真っ赤な水たまりの中でピクリとも動かなくなった肉の塊を眺めた後、その男・・・土方十四郎は血ぶりもしないままこちらへと足を進める。
大声で叱られるかと思いきや、総悟の前まで来た土方はおもむろに剣を構え、総悟の足元に転がる攘夷浪士に容赦なくとどめを刺した。
刀を収めた土方は上着を脱ぎ、気まずそうに視線をそらす総悟はガン無視に後ろの女の頭の上へとそれをかぶせる。
その上から片手でガシリと女の頭を掴み、引きずるように歩き出す。
「・・片づけとけ」
絞り出すように呻かれた低い声にぞっとすした。
今の指示の相手はおそらく自分ではないだろう。どこかに隠れている山崎へだろうか。
この男の怒りの沸点が低いのは周知の事だが、これが本当に腹の底から怒っている時は怒鳴らない。
「来い。帰るぞ」
こちらを見ないままそう呻った土方に、内心怯えながら総悟は続いた。
「事情聴取のためにできる限り殺すな」
そう言っていつもいつも暴れすぎる総悟の事を叱るのは、土方の癖に。
助手席にを押し込み、後部座席に総悟を乗せて走り出したパトカーの中の空気は、ひどく殺伐としていた。
ものすごく怒ってる。そしてこの男がここまで激怒する時というのは大概私的なことではなく真選組関連だと解っている総悟はひどく動きづらい。
と、パーカーの上から隊服のジャケットもかぶせられてほぼ顔が見えなくなっているが、助手席から総悟をちらりと見やった。
「ひじかたさ・・」
ガァン!
呼びかけようと口を開いた女の言葉は、最後まで紡がれることなく大きな音によってかき消される。
女が口を開いた瞬間、土方の片手がその頭を掴み強化ガラスの窓へ思い切り叩きつけたのだ。
総悟は息をのむ。
ゴシャ、とも聞こえた。あんなひょろっちぃ女の体を、窓が割れるかと思うほどの力で。
「誰が、しゃべっていいっつった」
「・・・・・」
土方が手を放す。はぐったりとして無言になった。
意識が飛んでるのか、飛んでいないのか。
「総悟」
名前を呼ばれれ身構えれば、「ちゃんと後でカギ返せよ」とこちらも見ずに言われた。
「・・・アンタが、そんなんだから・・そいつも笑わなくなったんじゃねーの?」
口をついて出た言葉に、総悟はハッとなる。
昨晩の会話が脳裏をよぎって、どうしてもいたたまれなくなった。
土方は、いたのか、と舌打ちをうった後に、ぎりりと奥歯を噛み締めながら低い声で答えた。
「・・なんも知らねェ癖に、首突っ込むんじゃねェ餓鬼が」
屯所の車庫へとパトカーをつけた土方は「勝手に出んなよ」と言って、一人車を降りて行ってしまった。
社内に残された総悟に気まずい沈黙がのしかかる。
「・・すみません」
「・・え?」
「野外プレイは無理でした。ゴホウビはまた他のところでかなえてあげますから・・・」
「・・・・アンタ、頭大丈夫かよ」
絞り出すように総悟が答えれば、
「ちょっと痛いけど、もう平気です」とずれた答えが返ってきた。
HS!なのにエロさが皆無・・だと・・・
イヤエロくないのはいつもの事ですけど、エロなんて書けませんけど。(状況だけで言えば)えっちぃシーンがない・・だと。
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