アレはいつもあっちにばっかりしっぽを振る。



廊下の角を曲がった瞬間そんなシーンに出くわして、総悟は舌打ちをうちながら再び角を引っ込んだ。

「はいっ!」

その男が一声そいつの名前を呼んだだけで、そいつは洗濯物を干していたにもかかわらずその手を止めてすぐさま振り返る。
しかもとってもいい返事付き。
ぱたぱたと干しかけの洗濯物をその場においてダッシュで縁側まで寄ってきたに、無意識にため息が出る。

「なんでしょうかっ!」
「今日昼から近藤さんに客だ。適当に茶ァ持ってってくれるか」
「わかりました。じゃぁ急いでお茶菓子買ってこなきゃですね」
「悪ィな」
「とんでもありません」

にっこりほほ笑むに土方の表情も幾分かゆるむ。そりゃそうだろう。
遠目から見てるのではっきりとは分からないが、おそらく今が浮かべている笑顔は普段総悟が見ているそれとは随分と違う種類のものだ。

「ねーさん」
「あら、沖田さん、こんにちは。また仕事サボってるんですかぁ?」
「・・違いまさぁ」

総悟に気づいたがぱっとこちらを向く。でもそれだけだ。
土方の時みたいに駆け寄ってくるでもなし。まぁ総悟もそれだけで機嫌を悪くしたりはしない。いつものことだ。

「違わねーだろ誰がシフト描いてると思ってんだテメェ」
「死ね土方」
「脈絡なしか!」
「あー!土方マジ死なねーかなァ!」
「沖田さん、そーゆうこと言っちゃいけません」
「うっせーだまれブス」
「酷い!」

ぷい、と総悟はあさっての方向を向いて歩き出した。後ろで土方がなんやわめいているが気にしない方向で。
あ、念のために言っておくが拗ねてるわけじゃないですよ。
ぶるる、ぶるる、と懐に着信音。
まさかではあるまいと思いながら開けば、もちろんそんなことはなく、
もはや迷惑メールと化してきそうになっていたとあるショップのメールマガジンだった。

いや、まてよ。

カチカチとメールをスクロールしながら廊下を歩く総悟とすれ違った山崎は、青い顔で振り返った。
なに、今の、どす黒い笑顔。







**なんたって人は見た目より中身より見た目よりやっぱり中身**







「隊長、隊長っ!」
「・・・ぅ・・・?」
「隊長!よかった、副長から聞きましたよ。急に倒れたんですって?」

目を覚ました先に飛び込んできたのは、スキンヘッドにちょび髭。10番隊の原田だ。
決して寝覚めによろしい顔ではない。
朦朧とする目をこすって、総悟はゆっくりと体を持ち上げた。

「原田・・・いつっ・・!ここ、どこだ・・?」
「医務室ですよ、屯所の」
「何でそんなとこで俺寝てんだ」
「副長室の前で倒れてたらしいですよ、副長が言ってました。熱中症じゃないですか?」
「・・・・・??」
「いやぁ、隊長も人の子だったんですねェ!熱中症で倒れるとか、なんか俺、安心しもごッ!」

突然片手で口元を握りつぶされた原田は間抜けな声を上げる。
いたい、いたい、隊長痛いっス!!
隊長・・・・・???

「オイ・・・・?お前、原田だよなァ・・・・??」
「えぇっ・・・???は、はい・・・」
「言ってみろ、俺は誰だ?」
「はいぃぃいっ?し、真選組一番隊隊長、沖田、総悟さん、デス・・・ゴハッ!」

原田をぽいと投げ捨てた総悟はペタペタと自分の顔や髪、隊服などを触った。
はっと総悟は飛び起きて、医務室の机をごそごそと探る。確かこのあたりにけがをした隊士が自分で自分の治療をする時のためにアレがあったはず・・・


「総悟ォォォオオオオオオオ!!!!」


手に持った“鏡”を握りしめたまま、総悟は医務室の扉をけ破って廊下へ飛び出した。
残された原田は疑問符を飛び散らせながら頭をかしげることしかできなかったのも、無理はない。





「オイテメェこれは一体どういうことだバカタレ!」
「・・なんだ、元気そうなんじゃねェか」

副長室で本を読んでいた男は、総悟が入ってくるなりしれっとそういった。
元気ならさっさと仕事行ってこいよ・・・・・・土方さァん・・?

「てんめぇぇぇぇぇええ!今度は何のおふざけだコラァァァ!」
「やだなァたまには部下と同じ目線で仕事を見ることによって、上に立つものとしての何チャラを何チャラできると思いやしてねェ」
「ものそっごいあやふやじゃねェかァァァ!!」

畜生・・・!!がっくりとその場にへたり込んだ『総悟』は頭を抱えた。お察しの通り中身は土方である。
まじめに仕事に行ったかと思いきや突然戻ってきた総悟に妙な薬を飲まされ、気づいたら医務室。それからは見てのとおりである。
目の前の『土方』は飄々と懐から取り出した煙草をくわえ、ライターでその先に火をつけた。
ふー、と白い煙を吐き出しながら、にやり人の悪そうな笑みを浮かべる。

「つーわけだ、薬の効果は半日。せいぜい部下の気持ちを味わってみてみろよ総悟」
「ふざけんな半日だァ・・?そんな間テメーに副長なんざ任せたら真選組が潰れるわ!」
「あらら、信用ねーなァ・・・げほ。煙草まじぃ」
「未成年がタバコ吸うなボケ」
「この体は未成年じゃねーもん」
「もん、とかいうな俺の体でキメェ!!」

まぁまぁそう興奮なさらずに。火をつけたばかりの煙草を灰皿に押し付けながら『土方』が口角を釣り上げる。
そろそろアレたちが戻ってくるころだ。
アレたち・・・?『総悟』が首をひねるのと、副長室の前に人の気配が現れるのとはほぼ同時だった。

「副長、失礼します」
「土方さん、お茶お持ちしましたよう・・・あら、沖田さん。もう、またお仕事サボって」

扉を開けて入ってきたのはと、一番隊の隊士だ。
からお茶をもらった『土方』はおう、とそっけなく礼をして、傍らの隊士にちょいちょいと総悟を指差した。

「コイツ、平気そうだから見回り連れてけ。さぼらねぇようちゃんと見張れよ」
「はいっ!ささ、隊長行きますよ!今日こそはちゃんと仕事してもらいますからね」
「オイィィィイちょっとマテ!!てんめぇぇコラァァァ!」
「・・たく、往生際悪ィぞ総悟。テメェも一番隊隊長ならその辺もうちっと自覚しやがれ」

てめぇにだけは言われたくねェんですけどォォォォォオオオ!!!


ぎゃんぎゃんわめく総悟が無理やり連れだされていくのをぽかーんとみていたは、ハッと我に返ると「私もこれで」と立ち上がった。
その腕を『土方』の腕が掴む。「お前は残れ」

「・・・え?」
「もう少し、ここに居ろ」
「・・・・・・ぇっ・・」
「ここに居ろ、副長命令だ」
「ぁ、はっはいっ・・!」

かぁぁ・・・、と頬を染めたは慌ててその場に腰を下ろす。
あれま、なんともまぁ従順なことで。


そう呼べば、雑用娘は“いつもの笑顔”でにっこり微笑んで・・・・、

「今度は何の悪戯ですか?沖田さん?」

あれえええ?!バレてる?!





「土方さんはそんなこと言いませんし、沖田さんも様子変でしたし、あとは女の勘です」
「女の勘すげェな」

まぁ、なんにせよ。『土方』はごろーんと畳に寝っころがった。
なーんだ、まだ何も遊ばないうちからバレてやんの。つまんねぇ!総悟は心の中で溜息を吐く。
せっかく天人製のなんでも屋さんに行って面白い薬を手に入れて来たのに。メルマガポイントふんだんに使って購入してきたのにっ。
不満げに罪もない雑用娘を睨み付ければ、視線の合ったがささっとあわてて視線を逸らした。
・・・・あれ。

「・・・・?」
「ふ、ふあいっ!ぁ、ぇと・・・」
おや。
「中身は沖田さんって、わ、分かってるんですけど、だ、だからこそなんか、変な感じというか・・・」
ほっほーう。
「あんまっ、まじまじ見ないでください恥ずかしい」
これはこれは。

「・・・・
「・・・・〜っや、や、やめてくださいよ沖田さん!ちょ、楽しんでるでしょ!!」
「ガッツリ楽しんでまさぁ」
「ちょぉぉぉぉっっ!」

どうも、ご馳走様です。
ゆでダコのように真っ赤になりながら部屋を出て行こうとする娘の手を取り引き寄せる。
体が大きいってのはなかなかいいもんだな。リーチの長い土方の体ではいつもよりも簡単にを腕の中に閉じ込めることができた。



「・・・ねこ・・」
「・・・・・!!」



できるだけ普段の土方に似せて、むかつくすかした表情で、余裕を持った声色でそう呼べば、はたちまち“ねこ”の顔になった。
耳まで真っ赤にしてとろんとうるんだ瞳。難しそうに眉を寄せ必死に脳内でいろんなものと戦っているのだろうが、今現在の総悟の姿が『土方』である以上結果は目に見えている。
例え、中身が悪戯坊主であることは分かっていても。

「難しく考えねェでも、中身が俺の今こそ普段以上に甘えられるんじゃねェですかね」
「そ、そ、そぅ、かな・・・・・・」
「そーでさぁ。今の俺なら何でもしてやるぜ、ホレ何がして欲しい」

ぱっと押さえ込んでいた手を放して広げれば、は真っ赤な顔で自分を納得させるように何かをぶつぶつ呟いた後、「じゃ、じゃぁ・・・」と口を開いた。

「な・・・・撫でてください」
「よしきた」

ここのところ土方の方が忙しくてろくに甘えられていないのだ。中身が総悟なら土方に迷惑がかかることはないし、ちょっとくらいなら、撫でてもらったって罰は当たらない・・・・はず・・。
とかなんとか考えているのだろーか。このおバカな子猫ちゃんは。



「じゃぁ撫でてやるからここに来い」

そう言って『土方』は自分の膝の上を差しながら、内心ニヤつきっぱなしだった。せっかくの機会、ただで甘えさせてやるのはもったいない。
なっなんで膝の上なんかっ・・!撫でてもらうだけなら、横に座っててもできるじゃないですかっ!
恥じらいながらそんなことを言うを想像して心躍らせていた総悟の膝の上に、は躊躇なくストンと腰を下ろした。

ええええええ、迷いねぇぇええええええええ!!

不思議そうにこちらを振り向きながら、せかすようなせがむような目で見られ、総悟はごくりとつばを飲み込んだ。
ね、姉さんのこんなもの欲しそうな顔見たことねェよ!オイ!どーなってんだコレ!どーなんだ土方ァァァ!!
さらり、髪を撫でてやれば、の体から面白いように力が抜ける。
全身の体重を預けてくる、総悟にはめったにそんなことないのに。この体にはいつもそうなのだろうか。撫でていないほうの手を腰に回し、ぐっと抱き寄せる。
髪の先っちょをいじりながら、こてんと胸板の上に預けられた髪に鼻を埋めれば、洗濯物と太陽の匂いと、あと甘い香りがした。

髪を撫でる手で耳をくすぐれば、は「ひあ」といってくすぐったそうに首をすぼめた。
猫みたいだなんて思いつつ、輪郭を伝って頬を撫でてやる。
頬に触れているだけなのに、すりすりとの方からほっぺたを摺り寄せてきて、総悟は左胸のあたりがきゅーんとするのを感じた。
お、オイオイ、これは、想像以上に・・・・、

・・・・・・・重症じゃないか・・・?!

触れている頬をぐい、と持ち上げてこちらを向かせれば、とろろーんとまどろんだ瞳。その眼は今、自分である『土方』しか映していない。
うっすら開いた唇は妙に艶めいていて、上気した頬が何とも・・・・この娘に似合わず・・・・色っぽい。
この娘が土方によくなついているのは総悟も重々承知している・・・・つもりだったのだが、これは、明らかに想定の範囲を超えている。やばい。
ちょ、まじ一回死んで来い土方!!!

いつ怒られるかひやひやしながらも、髪を撫でていないほうの手を上に持っていき、中指をの口の中にねじ込む。 の口の中はぬるぬるしていて、湿っていて、温かくて、人差し指もねじ込んでその舌をつまめば、ぴくりと娘の体が跳ねた。

「ん、ふ・・・ちょっ・・おきた、さ・・・何」
「・・・ねこ」
「はぅ、ぅ・・・・ん・・」

なんてこと。たった二文字でこのありさま。にわかに信じがたい。
わずかに抵抗しようとしていた力さえ見る間に無くなる。ちょぉぉコレやべぇってレベルじゃねーぞ。
そしてこんな状態のコイツをいつもいつも涼しい顔して、手も出さずに、あやしている土方は不能としか!


「ねえさん」
「ぅ、ぁ、ひ、土方さん・・」
「今は中身は総悟でさァ。ねえさん、もっといろんなトコ撫でていいですかィ」
「沖田さ、ぇ、いっ、いや、あの・・・」
「・・・俺の言うことがきけねぇか?」
「ぅぅ・・・・!」

「なァに、悪いようにはしねェよ・・・・もっとずっと、全身で甘やかしてやる・・・なァ、ねこ・・?」
「ぉ・・・おにいちゃ、ぁ・・・」
「・・・・・・(うーん)、まぁ、それでもいっか。ほれ、目ぇ閉じろ・・・・」
「ぁぅ・・・」


「まァてェコラァァァァァ!!!!おめぇら二人とも何やっとんじゃぁァァァああああ!!!!」


と『土方』の唇があわやくっつくかという瞬間、すぱぁぁぁんと副長室の障子が開かれる。
汗を滴らせながらゼイハァ肩で息をし、真っ赤になって怒鳴るのは中身は土方の『総悟』だ。
チッ、いいところだったのに。
しかし。今現在の勝率は完全に総悟の方に部があると見たり。
何せこっちには最終兵器『土方の体』というものが存在しているのだからッ!
ところがしかし、ぐいっとの体を抱き寄せようとした手は無情にも空をつかんだ。アレ。

「土方さァァァァァんんん!!ごめんなさいッほんと御免なさいっ!!見なかったことにして今のなかったことにしてぇっ!!!」
「うおっ?!どうしたお前」
「違う違う違う!私そんないやああああああ!だめぇぇぇぇぇ!何でもしますからァァァ!」
「おちつけバカ!どうせ総悟がなんか言ったんだろ?気にしてねェから・・」
「うわぁぁぁぁん土方さぁぁぁんんん!」

『土方の体』になど見向きもせず、“全力”で飛びついたにむぎゅう、と胸に顔を押し付けられている自分自身の体を見て、思う。


ま、マジで死ねばいいのに・・・・!!










はい、お疲れ様でした!
甘染病糖一周年フリーリクエスト第一弾「総悟と土方が入れ替わって、見た目おにいちゃんな総悟にメロメロなヒロインを見て総悟が土方マジ死ねコノヤロー」なお話、でした!
うん、まとめるとこんな感じのリクエストの筈・・・!!
総悟「全身で甘やかしてやる・・・」・・・・・・ふぐっ・・・!(笑)なんじゃそら・・・www

じつは半年ほど前に出だしだけ書いて行き詰って没倉庫に放り込んであるこんな話が・・・・(途中までです注意)これは土方さんと銀さんが入れ替わって死ねコノヤローになる予定でしたw
リクエスト本当にありがとうございました!


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