ここはお江戸。歌舞伎町の一角に、その怪しげな職業の店は堂々鎮座していた。
“万事屋銀ちゃん”
金さえ出せば、迷子の子犬探しから旦那の浮気調査、表の人間にはとても頼めないような裏の仕事まで。
そう、邪魔者を始末するための情報集め。
真選組屯所のそばのアパートから望遠鏡でターゲットの動きを見張る。
それがたとえ顔なじみの弱みを見つけろという酷な依頼だったとしても、
万事屋坂田銀時は受けてたっちゃうんだもんねだって金欠だから!!!!
そんな、クリームパン生活22日目の事。
タバコ屋の明智さん(67歳)を見張りどんな客層がどんな種類の煙草を買っていくかを一か月調査せよ、という依頼を受けてから3週間が過ぎた。
つーかなんだこの依頼。
誰が得をするんだ。誰得だ。なんの依頼だ。
人間は意味を見出せない仕事は割増しの苦痛を感じるようにできているのだとか。なんつーか、このエンドレスクリームパンから俺を助けてくれぇぇえええ!!
そんなときだった。
「こんにちは明智さんっ!」
「あらぁ、こんにちは。よくきたねぇ」
「煙草くださいなっ」
「はいはい、いつものやつねぇ」
ターゲットのタバコ屋に客が現れた。会話からわかるように、なじみの客だ。
一体どんだけ吸うのやら。この客は少なくとも2日に一回は煙草を買いにこの店を訪れる。
カートンではなく1箱ずつ購入するのは、それでもすこしでも吸う頻度を減らそうとこまめにする作戦なのか。
「ちゃんは今日も可愛くて元気ねぇ」
「あはは、やだぁ明智さんたら!何も出ないですようっ」
手に持った双眼鏡のピントを合わせて、銀時は目を細める。
“いつもの”銘柄の煙草を懐にしまいながら笑顔で言うのは他でもない、真選組の雑用女中娘だ。
銀時だって伊達に彼女と面識があるわけではない。アイツが煙草なんて吸わないのは分かりきっている。
可愛らしい言葉を使うならばお使い、悪く言えばパシリだ。
「いつもありがとねぇ。副長さんにもよろしく頼むよ」
「こちらこそ!明智さんも、最近まだまだ暑いから体調に気を付けてくださいね」
「ちゃんもお仕事がんばって」
「はあいっ!」
大きく手を振りながらかけていく姿はまさに“おつかい”よろしくな子供そのものだ。
無邪気で、元気で、まぶしくて。
「・・・・・かぁーいー顔しやがって・・・コノヤロー・・」
銀時はため息をひとつつきながら、報告書の本日の売り上げの欄に「ちゃんなう」と記した。
**山崎HALのパン祭り!**
ちゃんちゃんちゃんちゃんなう!ちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんなう!ちゃんなう!ちゃんちゃんちゃんなう!ちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんなう!ちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんなう!ちゃんなう!ちゃんちゃんちゃんなう!ちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんなう!ちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんなう!ちゃんなう!ちゃんちゃんちゃんなう!ちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんなう!ちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんなう!ちゃんなう!ちゃんちゃんちゃんなう!ちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんなう!ちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんなう!ちゃんなう!ちゃんちゃんちゃんなう!ちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんなう!ちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんなう!ちゃんなう!ちゃんちゃんちゃんなう!ちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんなう!ちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんなう!ちゃんなう!ちゃんちゃんちゃんなう!ちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんなう!ちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんなう!ちゃんなう!ちゃんちゃんちゃんなう!ちゃんちゃんちゃんちゃんちゃん・・・・・
「ぎゃぁあああああああああああああああ!!!」
「銀ちゃんキモイアルゥゥゥううう!!!」
ばっちーん!と床にたたきつけられたノートを、新八も神楽も息を切らせて眺めていた。
なんていうか。呪詛だ。気持ち悪いっつーか、何かの念が込められていていっそのこと怖い。
ついさっき依頼人もノートを開いた瞬間逃げ去って行ったので、使われなくなったこのノートはすぐさま破棄したい。燃やしたい。
「どうしちゃったんでしょう銀さん・・・」
「張り込みは標的を恋愛対象と錯覚するほどに妄執することもあると聞くアル」
「さん別に張り込み対象じゃねェよ」
「アレアル。きっとここんとこロクな出番もとの触れ合いもなかったせいの欲求不満ヨ。溜まってるアル、いろいろと」
「コラ、女の子が欲求不満とか溜まってるとか言わない」
「どーするアルかァこの欲求不満天パ」
「どうするったって・・・どうしたもんか・・・」
その時、力なくごろごろと畳を転がる銀髪天パの侍を見下ろしながら息を吐く少年少女の後ろ・・・・
・・・万事屋銀ちゃんのベランダに、一つの怪しげな影が潜んでいたことに、この時の二人は気づかなかった。
「こんにちは。来てくださって感謝いたします」
「・・・えっと、・・・え?な、なんですか・・?急に呼び出したりなんか・・・」
「はい、少しご相談したいことがありまして」
・・・・山崎さん。
そう言って見上げてくるガラスの瞳に、真選組の監察青年山崎退は控えめに眉をひそめた。
ガラスの瞳とは何も比喩表現ではない。「ちょっと相談したいことがあるからお茶でも」と待ち合わせ場所に指定されたガソリンスタンドへ恐る恐る足を運べば、呼び出した本人であるカラクリ娘はクルリと表情の少ない顔をこちらに向けて小首をかしげる。
「山崎さんも一緒にどうですか、一杯」
「イヤ気持ちは嬉しいんだけど」
俺人間だから。ガソリン一気飲みしたら死んじゃうから。
ぷは。一気に手元の湯飲みに注いであったガソリン(ハイオク)を飲み干し、スナックお登勢の看板ロボ娘たまは改めて山崎に向かった。
「ご相談というのは他でもありません。銀時様の事でございます」
珍しい光景に出くわしてしまった。
結局部屋でごろごろしまくっていたところを新八と神楽に追い出されて、スクーターで散歩に行こうかとガソリンスタンドの前を通れば、珍しい二人が待合室の机に向かい合っていて、銀時は足を止めた。
なんとなく、二人の死角になる場所から気配を殺して会話をうかがう。
「旦那の?」
そう言って首を傾げた山崎に、たまはこくんと頷いた。
「単刀直入に言わせてもらうとですね、ウチの銀時様と屯所の猫 一発○○○(ピー)させてもらえませんか」
一体何の話をしてんだあのカラクリィィィイイイ!!!
「実は、銀時様がここの所いろいろ溜まってるようでして、仕事に支障が出て新八様も神楽様も困ってらっしゃるのです」
「・・・溜まってる??」
イヤ合ってるっちゃ合ってるけどどんな言い方?!
積まれたタイヤの陰から息を殺して見守る銀時は心の中で叫ぶ。
「そこで屯所の性玩具を貸してもらえないかと」
性玩具って誰だアアアアア!!
「性玩具って誰ぇぇぇぇ!!」
「ご存じのとおり銀時様は普段はあの体たらく。このままでは家賃も満足に取り立てられません」
「イヤそれは知ってるけど!!つかたまさん言葉遣い最悪じゃね?!何であの時の隊長の台詞の影響受けてんの!?」
「私は電脳カラクリですので、経験から知識を吸収して成長していくのです」
「何故そこの知識を吸収したァァァ?!」
屯所の性玩具ってアレか?の事か?!イヤふざけんな!
がっくりと机に突っ伏す山崎。しかしすぐに起き上がってプルプルと頭を振る。
いや冷静になれ山崎退!この際たまさんがどこのドエスの知識を誤吸収してしまってることはひとまずおいておいて。
「ウチのちゃんなんだと思ってんのォ?!んなの駄目に決まってるだろ!しかもいろいろ溜まってる状態で!!」
「引き受けてくださらないのですか?」
「う・・!」
わずかに顔をこわばらせる山崎の前で、くすりとたまが怪しげに微笑む。
・・・山崎さん、あなた、私に一つ大きな借りがあるんじゃないですか?
「善良な市民を一か月もの間監視して」
「え、と・・」
「本当の意味で戦略結婚のおつもりだったんですってね」
「い、いや・・・」
「いくらご親友のためとはいえ、いたいけなカラクリの心を弄ぶなんて」
「そ、それは」
「それに、あのお見合いに着て行った着物、結構値の張る一級品だったのですが・・・」
「うぐぐ・・・!」
何も言い返せない山崎は黙るしかない。見回り組とのひと悶着のその後から、山崎は寝ずに万事屋を監視していたのだ。
こちとら本気である。何せ相手はあの“白夜叉”だ。攘夷志士の情報は同じ攘夷志士がいちばんよく知っている。
姿を消してしまった親友を取り返すために、情報が欲しい。
桂小太郎・高杉晋助とも並ぶ伝説の攘夷志士。その銀時を見張っていれば、あわや中に入り込んでしまえばと動いていたこともあったのだけれども。
イヤ今更何を言ってもいいわけだろう。しかし。
「・・・む、無理無理っ!駄目だ!悪いけど、俺個人の借りにちゃんを巻き込むなんてできないよ!」
「・・・そうですか」
「その借りは、ホラ、なんか別の事で返すしさ。悪いけど断らせてもらうよ」
「別の事、ですか。じゃぁ・・・・」
「ん?」
んん?
様子をうかがっていた銀時は目を見張る。ゆっくりと弾から伸びた手は、山崎の頬へ。
くっつくかくっつかないか程寄せられた頭の上で、山崎が!とか?を多量に飛ばしている。
一体何をするつもり・・・・、
「な、ななな、たまさん?何・・・」
「私の眼をよく見てください・・・」
「眼?って、・・え?・・・・・・・・・え、」
え、
つぎの瞬間、バチィ!というショート音とともに、フラッシュをたいたようにあたりがまばゆく光った。
何が起こったのかはよくわからない。
覗き込んだカラクリ娘の瞳には目まぐるしくうごめく映像が映し出されていて、
流れる砂嵐、 一つ目のあるリンゴ、 粉々に砕けたパズル、
網膜の焼けるようなフラッシュと鼓膜の破れるような高音の機械音は、瞳と耳から侵入して山崎の脳をダイレクトに揺らした。
ぎゅいいいいいいいいいいん!
「銀時様と様の、新たな見合いを構築せよ」
目を回しながら呆然と虚空を眺める山崎の横髪に頬を埋めたたまは、怪しげに微笑みながら目を細めた。
「言って御覧なさい。あなたのご主人様は誰なのかを」
そして、銀時は力いっぱいツッコんだ。
電人か!!!
続きます。なんだこれw
ネウロ読み込んでない人にはなんのこっちゃすぎる。
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