※注意※
屯所猫設定
伊東先生がキャラ崩壊(愉快なお方となっています)
伊東先生がお亡くなりになった後のお話です
ブツブツブツ・・・・
まだ真昼だというのに真っ暗な部屋の中。灯りは揺れる蝋燭のもののみ。
“ソコ”は異様な光景であった。
乱雑に見えるが計算されつくした位置に建てられた蝋燭の灯りが揺れて、そのたびに畳の床の色をゆらゆらと変える。
部屋の四隅に設置されたお香の煙が立ち上る中心、敷かれた大きな紙の上には、まだ乾ききっていない真っ赤な文字。
大きな円の中描かれた走り書きのような文字は、もはやわかるものにしか理解できない記号の羅列だ。
その部屋の中に、一人の男がいた。
色素の薄い流れるような髪。大きな小豆色の瞳にはチラリチラリと蝋燭の明かりが反射している。隣には分厚い本。
手に持った木の枝を決まった方向へ振る、男の口からはぶつぶつと謎の言葉が漏れる。
ピシャァァン!!
遠くの空がまばゆく光った。
=*先生は柿種がお好き!*=
2012.12.13 =HappyBurthday=
スパン!
暗く締め切った部屋の障子を開け放ちながら、真選組一番隊隊長沖田総悟は青く澄みきった空を見上げた。
真選組屯所の中でも比較的静かで人通りも少ない端の空き部屋。
今しがた行われた怪しげな儀式のせいで混沌としたその部屋をかえりみて、総悟は大きく息を吐き出した。
いい加減土方を亡き者にしたーい!
そう思った総悟は前々からやってみたかった呪い的な儀式的なアレに今回初挑戦だったわけなのだが。
古本屋で売ってた取説片手に本格的な材料を集めて、こっそり空き部屋を使って呪い殺す実験をしてみたのだが。
おそらく効果は怪しい。
ぴしゃーん!って雷は落ちたけれどもすっごい遠くの方だったし。音遅れて聞こえて来たし。
土方が急に心停止したァァァ!みたいな騒ぎも聞こえてこないし。
チッ、失敗かぁ・・・・。
やはり自分の手で葬り去る他すべはなさそうだ、なんて思いながら、とりあえず火事にだけはならないよう蝋燭の火だけ決して、総悟は部屋から出た。
片づける気?全くありませんが。そんなのこの屯所で働く雑用娘にでもやらせておけばいい。
おどろおどろしい部屋の雰囲気にびくびくしながら半泣きで片付けをするあの娘に後ろからそーっと近づいて、驚かしてやるのも楽しそうだ。
そんなことを考えながら一歩部屋から踏み出した総悟の足が、一瞬止まる。
「・・・・?」
一瞬、ほんの一瞬だけ、何かに躓くような、足を引っ張られるような感覚がしたのだけれど。
足元を見ても後ろを振り返っても特段変った事も無く、気のせいかと首をひねった総悟は中庭にでも行くかと足を進めた。
「よぉ、姉さん見てねェ?」
「あ、沖田隊長」
中庭にお目当ての姿を見つけられなかったため屯所内をぶらぶらしていれば、厠の前で偶然山崎とすれ違う。
「ちゃんなら副長室にお茶持って・・・・」ぽっけから取り出したハンカチで手を拭きながら山崎が言う。
ああ、最近女装の潜入捜査があったのか。癖が抜けきっていない上にそのハンカチピンクですけど。
そんなツッコミは面倒臭いのでスルーしながら適当に相槌をうてば、目の前の山崎が真っ青になって凍り付いているのが見えた。
「?どうしたィ」
「・・え・・・あ、あの・・・え・・・?」
がくがく、ぶるぶる。完全に血の気が引いた土色の顔にはだらだらと脂汗が浮かんでいる。
ちらりと視線を横に移せば、男子便所の入口の横・・・に備え付けられた鏡の中の自分と、
その肩の上でぼんやりと揺らめく、見知らぬ男と視線が合った。
ニヤリ。肩の上の顔が凶悪そうに微笑む。
叫び声をあげながらもうダッシュで走り去ってしまった山崎を見送って、総悟はゆっくりと鏡に映った“影”に向き直った。
「あららー。案外素人でもイケるもんなんですねィ」
鏡の中、自分の斜め上にぼんやりと浮かび上がる影に話しかければ、呆れたような返事が返ってくる。
自分と同じく色素の薄い艶のある髪はところどころ跳ねているが、決してどこぞの万事屋のようにわっさわさの天パというわけではない。
天然無造作ヘアーという奴だ。どこか人を見下ろしたような冷静な瞳をキリリと細めて、その男は上品な動作で眼鏡の位置を直した。
「いやァ誰かと思えば。お久しぶりで」
『というか何だいさっきのト書き。“見知らぬ男”って。失礼だな」
「で、どうしたんですか先生。わざわざ現世まで何の用で?」
『君が呼びだしたんだろうが』
かしこまったため息を吐きながら肩の上の影が手で顔を覆う。
「元」真選組参謀 伊東鴨太郎は『それはこっちの台詞だよ、沖田君』とこぼした。
確かに俺ぁ今しがた降霊術のマネごとしてたとこですけどねィ。
土方を抹殺するために。はたから見たらひとりごとのようなつぶやきを後ろの男に言いながら廊下を歩く。
「まさか先生が降りてくるたァ意外でさァ」
『意外も何もないだろう。君、散らかしたあの部屋が誰の部屋だと思ってるんだい』
もう使わないとはいえ無残な事となっている元自室を思い、やれやれ、と伊東は肩を落とす。
相変わらず考えの読めないこの少年はそれでいて降霊するために組んだ術式には抜かりがない。
とり憑いているとは言え主導権は完全に少年の方にあるようで、自分の意思じゃ離れることすらできないらしい。つまらん。
「だが、好都合でさァ。アンタも土方さんの事は良く思ってねェでしょう」
『今更のような気もするけれどね』
「まァまァそんなこと言わず、折角地獄からお越しなすったんでィ。土方さんに冥土からの歳暮でもスパーキングしてやりましょーよ」
『地獄は断定なのかい』
ニヤニヤとどす黒い表情を浮かべる総悟を見ないようにしながら、伊東は心の中で土方にうっすら同情すら覚える。
今更真選組を乗っ取ろうなどとは思っていないが、仮に近藤暗殺に成功していたとして、この子の上に立つのは骨が折れそうだ。
利害が一致している間は別として。こうもわがままで振り回されては、もしも自分だったら手におえない。
そんなことを考えながら、何度目としれない溜息を吐いていると、頭の下で亜麻色の毛並みがくすくすと揺れた。
「ひひひ・・残念だったなァ土方ァ。近藤さんの隣で姉さんの上は俺の席でィ」
ぽそりと聞こえてきた言葉に伊東は首をかしげる。「姉さん」?
聞き返すのも不謹慎だが、伊東の持っている情報の中では沖田総悟の姉はすでにこの世を旅立ってしまっているはず。
それに気づいた総悟が「あぁ」と言って頷いた。そう言えばこの男の前でこの呼び方をしたことはなかったっけ。
「姉さんっつーのは屯所の猫の事でさァ。先生も会った事あんでしょう」
『屯所の猫・・?』
「忘れたとは言わせやせんぜ。・・・あ、噂をすればホラ来た」
前方を指差した総悟に釣られて視線を上げる。
それと同時に耳に飛び込んできたのは、武装警官である真選組にはおおよそ似つかわしくない、高い女の声。
「あら、沖田さん!お疲れ様です。これから見廻りですか?」
『・・・・そうか、あの子は、生きていたんだな』
こちらにかけてくる小柄な女性を見つめながら目を細める伊東に、わずかに微笑みながら総悟も返す。
アンタがぶった斬った姉さんはしぶとく生きてますよ。
「見ての通り今はぴんぴんしてまさァ、アンタがぶった斬った姉さんは・・・」
『・・イヤ、悪かったと思ってるよ』
「アンタのせいで傷物になっちまった姉さんは、それでも傷物なりに今を精一杯・・『えぐってくるな君!』
生前の伊東が少なからずこの娘を気に入ったことも、勧誘がうまくいかず最終的に動揺を誘う材料として斬ったことも。
今となってしまっては変えようのない、過去の話だ。
一緒に生活した時間は長くはなかったが、伊東はこの娘に対しては大きく評価していた。
些細なことにも気づいたり、すれ違った時に交わしてくれる笑顔が優しかったり、入れてくれるお茶が暖かかったり。
それに加えてちょっとやそっとの事では動じない強い芯のようなものも持っている。
実際、伊東が江戸の屯所へ戻ってきて窮屈に感じていたのを見抜いたのは彼女だけだった。だから欲しいと思ったのだが。
列車の中でも思った事だが、自分には見せたことないような笑顔で総悟に慕ってゆく猫の姿に、軽く嫉妬を覚える。
?どうしたんですか沖田さん?
独り言なんかうぎゃぁぁああああああああ?!!
ぁぁぁぁ・・・うごふっ!
ごっちん。
「『・・・・・・』」
駆け寄ってきたと思ったら突如叫びだして回れ右したはよいが走り出ざま何もない場所に躓いて廊下へダイブ、おでこから煙を登らせながら目を回し伸びている、残念すぎる雑用娘を総悟と二人で見下ろす。
一連の流れをポカーンと見ていた伊東は、やがてげんなりと眉間にしわを寄せた。
隣で腹を抱えて笑っている少年に向かって、重苦しく口を開く。
『・・普段の彼女はこんなに騒がしかったのかい』
「当たり前でさァ。アンタが見てたのは姉さんの本気の3割にも満たねェですぜ」
『見た瞬間に叫ばれたんだが・・』
「そりゃァ、トラウマになってても不思議ねェでしょうね。自業自得でさァ」
『・・・そうかもしれないが』
若干ふてくされる“元”参謀殿を眺めながら、総悟はギラリンと目を輝かせた。そーだ!
「伊東先生」
『なんだい』
伊東鴨太郎の体が死んでしまっている以上、近藤を狙うことはもうないだろう。
そして伊東の政策面での頭脳は真選組に大きな利をもたらしていたことはまぎれもない事実。
この短髪眼鏡が屯所の猫に懐かれて、副長就任という総悟の願望すらもかなうようなミラクルプラン!
「土方十四郎に憑(な)って、もう一回真選組でご活躍なされる気はありませんかィ?」
なにその素敵プラン。
続きます。
>>next>>