さて。
困ったことになった。

すっかり暗くなった屯所の庭を眺めながら、土方は煙草に火をつける。
土方は自分の鼓動を少しでも抑えようと大きく煙草の煙を吸い込み、体中にニコチンを充填させた。


が、捕まった。

ああ、っていうのは、まぁ、俺の・・女なわけなのだが。






***貴方の心の取り調べ***







今しがた切られた電話の向こうで総悟が言っていた言葉を思い出す。

「攘夷志士に情報を売っていたとみられる民宿の経営者を10名程捕らえやしたが、ええと・・・ってアンタの女じゃありやせんでしたっけ」

いつも通りの憎たらしさに、僅かな戸惑いと憐みが入っていた。

土方の女が捕まったというのだから、もっと楽しそうにざまぁ見やがれ的な反応をしてもおかしくないと思う、のに。
考えにくいことだが、珍しく気を使われているということだろうか?
隣に立つ山崎は心配そうな目でこちらを見ている。
青い顔をして電話を持って来た時は何事かと肝を冷やしたものだ。

「副長・・あの・・」
「・・・俺ァそんなに今情けねェ面してるか?」
「いえ・・・だから余計に心配というか・・」

そうか、ならよかった。
土方はもう一度大きく深呼吸した。
喉の奥に煙が溜まり、すうーと気持ちがまた一つ落ち着いて行く感覚を得る。


もうひとつ、もうひとつどうしても解せないことがある。

どうしてお前ら知ってるんだ。が俺の女だってことを。


確かに隠していたわけではないが、特別広めてもいなかったはず。
そもそも自分は真撰組副長という立場上そんな毎日会えるわけでもないし、休日も必ず一緒にいるというわけでもなかった。
仕事多いし。部下が仕事持ってくるし。こなしても金にならない余分な仕事ばっかり増やすし!!

そしてさらに言うなら、こいつらはいったい何を心配しているのだろうか?
俺を誰だと思っているんだ?
真撰組副長ともあろうものが、たかが自分の女が捕まったごときで心を痛め不安定になるとでも思っているのだろうか?
だとしたら余計な心配である。
警察という立場上、幕府にたてつくものを斬るのが仕事上、付き合う女もいつかは斬る時が来るかもしれないという考えで臨んできた。
し、それが当たり前だとも思う。
そんな覚悟なしじゃこの場所では働けない。

だから、今回も別に動揺などしていない。確かに、ちょっとはびっくりしたけど。

そんなことを考えていたら、心底心配した顔をしている山崎と目が合った。


「大丈夫ですか、副長・・?」
「もう一度きかせてくれ。俺は今どんな面してんだ?」
「いつも通りです。怖いくらいいつも通りで、怖いです」
「少なからずそう言うのは覚悟して親しくしてたからな。行くぞ」

「え?」山崎は聞き返す。「行く」って、どこに?

総悟のヤローがもうすぐ帰ってくんだろ。そいつら絞め上げるの手伝いに、だよ。
そんな上司の声を聞いて、山崎はすくみあがった。何を考えているのだこの男は?
覚悟してたからとか立場上気にしてちゃいけないとか、そんな問題ではない。場合によっては自分の女が首をはねられる事になるかもしれないのに。

しかしながら土方の言動からは強がりで言っているのか本気で言っているのかすら読み取れず、
ただただ山崎は青くなりながら隣について行くことしかできなかった。





「土方さん・・仕事に私情をはさむのはよくねぇですぜ」
「ア?んなつもりねーよ。こいつら今から吐かせるんだろ。テメェ一人に任せちゃ朝になっちまう」

罪人を屯所の監房に連れ込んでいた総悟は予想通り驚いた顔をして、 隣にいた山崎に眼で訴えかけた。おい、何でこいつがここにいるんでぇ。
知らない、知らない。だって自分から行くって言ったんだもん。山崎は声には出さず、ぶんぶんと首を振る。
眼で会話する二人の前で、最後の抵抗をしようと腕を振り上げた民宿の主人を、土方は思い切り殴り飛ばした。


「無駄な抵抗はよしなァ・・・順番にたっぷり絞め上げてやる」


本当にいつも通りの空気、いつも通りの顔、声色、言葉で倒れた男を無理やり立たせ、蹴飛ばすように牢に入れる。

そんな土方の姿に、山崎はもちろん総悟までもひきつった顔のまま動きを止めた。






>>>next>>>