「こんの、泥棒猫がぁぁァア!!」



『へい、沖田です。皆さんは、そんな言葉を言われたことがありますか。
 まァ「泥棒猫」だなんて、言われたことある人間の方が少ねえと思いやす。
 もしあったとしても、恋人を取られたなんやで逆上した「同性」から言われるのが普通でしょう。
  「こんの、泥棒猫がァァァ」
 初めて面と向かった「女」から、出会い頭にいきなりそう言われたのを、 今でもしっかりと覚えています。』(〜ここまで全て棒読み〜)






***泥棒猫と呼ばないで***






「おはよーございます近藤さん!今日もいい天気ですね!」
「おォちゃんじゃないかァ!今日も遊びに来たのか?総悟の奴なら道場にいたぞ」
「えへへ。ありがとー近藤さーん!」

頬を染めてにっこりとほほ笑み、ぱたぱたと真撰組屯所の廊下をかけていく少女を見送っていた近藤の後ろから、額に青筋を浮かべた土方が現れた。


「今日も遊びに来たのか、じゃねェよ近藤さん・・いつもいつも部外者の侵入笑顔で黙認すんな!」
ちゃんは部外者じゃないだろトシぃ。総悟のコレだろ、コレ!!」
「コレでもどれでも部外者ホイホイ招き入れていい場所じゃねーだろーがココはァァ!!」
「だって!トシ!!総悟にコレだよ!?普通のコレだよ!?お父さんもう嬉しくて・・・!!」

目を潤ませながらばばっ、と大きく体で気持ちを表現する真撰組大将を、土方は呆れた顔で眺めることしかできなかった。額の青筋はもう消えている。

普通のコレ、ねぇ・・

どこでどう知り合ったのかは定かではないが、先ほどの娘・・・ が総悟を慕って真撰組屯所にちょくちょく顔を出すようになり、はや半年が過ぎようとしていた。
土方も最初はたまげた。あの総悟が、女を、”普通に”相手していることに。
廊下を転べば笑顔で手を差し伸べ、二人きりで総悟の部屋にいるとき外を通りかかっても、中からは笑い声しか聞こえてこない。
外で二人で歩いている姿を目撃したことがあるが、の首には首輪も鎖も付いていなかった。
先ほどは土方もああは言ったが、でいつも笑顔で、気のきくとてもよい娘だ。年は総悟と同じで、歌舞伎町の隅っこにある和菓子屋で働いている。
その店の和菓子もとても美味で、たびたび差し入れでが持ってきてくれるどら焼きも、いつもおいしく頂いていた。

ふう、土方は空を飛ぶ鳥を眺めながら思った。
あのガキに彼女、ねェ・・・





「おぅ、じゃねェか」
「総悟くん、おはよう!今日お休みなのに、稽古?」

道場へ行くと総悟がひとり竹刀で素振りをしていた。
正確には一人じゃなくて、彼の周りに稽古相手の隊士たちだったモノが屍のように積み重なっていたが。
はポーチからタオルを取り出し、しゅばんっ、と総悟へ差し出す。
悪ぃな、と言ってそれを総悟は受け取り、額の汗を拭いた。

「まーなァ。アンタが団子持ってきてくれるっつーから、ちぃと腹空かしておこうと思いやして」
「そうなの?嬉しいな!いっぱい持ってきたからたくさん食べてね!!」

にこにこと頬を朱に染めて笑うに、総悟も仄かに赤くなり、にこりとほほ笑んだ。
「だ、誰だアンタぁ・・」と、彼に向かって屍のどこかしらからそんな声があがるが気にしない。


「さっそく食いやしょう。俺の部屋来ますかぃ」
「行く行く!!お団子食べよっ」

慣れた手つきで竹刀を手入れし、壁に立てかける。
「テメェらも刀の手入れはしっかりすんだぜぃ」なんて屍たちに言い残して、総悟はと道場を後にした。



「悪ぃが汗かいちまったもんで、ちょっくら風呂いってくらぁ。ここで待っててもらっていいかぃ」
「わかったー。さっぱりして来てね!」

ついでに茶でも持って来まさぁ。ふっと笑って総悟は去っていく。
綺麗に片付いた総悟の部屋の座布団に腰かけ、は笑顔で見送った。

どことなく浮足立った総悟の足音が聞こえなくなるまでその音を聞いていたは――、




――――にたァ・・・、と突然口角を釣り上げて犬歯をのぞかせた。



先ほど廊下で近藤とすれ違った後に聞こえてきた言葉が蘇る。

が総悟のコレ?笑わせないでほしい。

総悟はの事を恋人だと思っているかもしれないが・・・、


は、総悟のことが大ッ嫌いなのだ!!





には、とっても仲のいいおねえちゃんがいた。
おねえちゃんといっても、血はつながっていない。
でも自分の事を実の妹のように可愛がってくれた、そんな大事な大事な姉のような存在。
やんちゃなと違って、おしとやかで、綺麗で、優しい。
そんなおねえちゃんが、は大好きだった。
自分が男に生まれたら絶対にお嫁さんにした。イヤ寧ろ、何でもアリの江戸だ。
そのうち女どおしでも結婚できる法律ができるんじゃないかと、それまではおねえちゃんは絶対にが守ると!そんなことまで考えていた。
でも・・

おねえちゃんが、自分より5つも年下の真撰組隊長に恋をしてしまった。
は最初ショックを受けたが、それがおねえちゃんの幸せならと、泣く泣く!泣く泣く手を引いたのだ。
しかし―――、

ちゃんちゃん、私汚されちゃった・・あの男に(ピーー)とか(ピーーー)とか、(ピーーーー)まで使われて、汚されちゃったよぅぅ・・・」


・・・・。
な、何だってえェェェェぇええええ!!!???


もう、その時のの衝撃と言ったら。

大好きなおねえちゃんを泣かせた。殺す。沖田殺す。

しかし相手は武装警官の腕っぷしNo.1。
殺すは流石に無理だとしても、手痛い仕返しをするためにはまずは沖田総悟に警戒されないポジションにつかなくてはならない。
調べれば調べるほどその男は扱いづらい人間だった。警戒心が強く本当に親しい仲間にしか心を開かない。
だからと言って真撰組に入隊できるほどの腕なんて持ち合わせてないし、組織に入ったら入ったで色々と掟に縛られて動きにくい。

それで苦肉の策がこの作戦だ。

ちょろいものだった。
おねえちゃんの話では道を歩くときは首輪と鎖を装着させられるとか、
わざと躓かせ、跪く女を上から見下すのが好きだとか、そんな恐ろしいことばかり聞いていたが。
流石の沖田総悟も、の美貌にイチコロだったのだろう!!
・・いや、自分で言うのも何か嫌だけど。
道で会っても廊下で転んでも、とても優しく接してくれる。見回りがてらにお店にもよく顔を出してくれる。

ここまで来るのに長かった・・・!
最初こそいきなり懐いてくるを疑問の目で見ていたものの、今でははたから見ても立派な彼女。こうしてたびたび関係者でもないのに真撰組の屯所内に無断で入れてしまうまでにもなったのだ!

そしてこの部屋にも。


はきょろきょろとあたりを見回した。
ヨシ、人の気配なし。

はごそごそと、ポーチの中から手のひらにすっぽり収まるくらいの隠しカメラを取り出した。
これであの男のどす黒い(であろう)プライベートを握ってやる!ネットにばらまいてやる!
それで少なからず心が不安定になったであろう時に彼女であるが引導を渡すのだ。

「総悟くんってそんな人だったんだね。嫌い」

ネットに晒され彼女にも振られ、生きながらにして地獄を味わうがいいわァ!!ほっほっほっ!!


どす黒い笑みを浮かべながら、これまたどす黒い笑い声が、の心の中だけに響き渡った。



どこにカメラを設置しようかと、うろうろと総悟の部屋を眺める。
何もない部屋。生活に必要な最低限の物しか置いていない。
もっとごちゃごちゃ散らかっていてでもくれたなら、もっと簡単に隠せるのに。そんなことを思いながらが立ち止まったのは、押し入れの前だった。


やはりここか。毎日布団を取り出すために開け閉めするというリスクはあるものの、引っかからないよう天井の隅にでも仕込んでおけばいけるだろう。


そんな気持ちで押し入れを開けたは固まった。


「な・・・なにコレ・・・」


押し入れの中にあったのは、「玩具箱」とかかれた段ボールにぎっしりと詰め込まれた素姓のよくない物体たち。
何だこれ?!何だこれ?!あれか?!あれなのか?!

これがおねえちゃんが言ってた(ピーー)とか(ピーーー)とか(ピーーーー)かッッ??!!

蝋燭や手枷足枷はもちろん、鞭に目隠しに、三角木馬まである。
名前だけは知っていたが実際見たことなんてない、大人の玩具的なアレまであった。

は耳まで真っ赤になったが、次に青くなる。

これは、誰用だ・・?!

が知っている総悟は凄く優しい。いつも自分ににこにこしてくれる。
そんなにも、総悟はこんな恐ろしいものを使う気満々だったということだろうか?
それとも、自分以外に、この恐ろしいものを使う”専用の女”がいるということだろうか?それとも”専用の男”だろうか?!

真撰組は男世帯だから、あるいは・・・!!なんて赤くなり青くなりその場から一歩も動けないでいるの後ろで、ゆらりと影が揺らめいた。


「なぁにしてんだァ・・」


!!!!!
急に耳の、息がかかるほどすぐ裏側で響いた声に、の心臓は肩と一緒に飛び上がった。
が振り返るその一瞬より早く、伸びてきた手がを通り越して押し入れの中の段ボールに突っ込まれる。
あッと声を上げる暇もなく、気づいた時にはは畳の上に転がされていた。

・・・体を、両手ごとゴム製のベルトで縛られたまま。


「そ・・そそぅご、くん・・?」
「あらあらどーしやしたァ・・?そんなに怯えてぇ」


真っ青になった顔で苦笑いを浮かべ、冷や汗をだらだらと書きながら震えるの目の前・・いや、上で。



真撰組一番体隊長沖田総悟は、先ほどのと負けず劣らずなどす黒い笑みを浮かべてを見降ろしていた。










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