スーパーで大根が特売だったので、今日の晩御飯はふろふき大根とわかめの味噌汁だ。
すっかり主婦と化してしまっている新八が「こんどの日曜はトイレットペーパーが特売らしい」なんて言いながら銀時の茶碗にお代わりを盛り付けている時だった。
神楽がこんなことを言い出したのは。
「銀ちゃぁん。猫飼ってもいいアルかぁ」
=玉ねぎは猫にあげちゃだめ。あれ犬だっけ=
「猫?」と新八が聞き返す。
神楽がそれに対する返事をする前に、銀時が返事をした。
「駄目に決まってんだろォ。いつも言ってんだろうが。ウチにはおめーと定春の食事代稼ぐだけでいっぱいいっぱいなの!」
そのとおり。ここ数ヶ月分の家賃だって溜まっているのだ。毎日万事屋への階段を上る時にお登勢に出くわさないかひやひやしている新八は、銀時の言うことももっともだと思いながら、ふとある事に気づく。
「あれ、神楽ちゃん・・・どうしたの?ご飯全然手つけてないじゃない」
「アァ?ほんとじゃねーか、珍しい・・どっか調子でもわり―のか」
くわねーなら俺が貰うぞ、と伸びてきた銀時の手は、パシンとはたかれた。
ってーな、と睨む銀時をスルーして、神楽は新八の持ってきたお盆に自分の分の食事を乗せていく。
「調子は悪くないアル。でも今日は一人で食べたい気分だから。向こうで一人で食べるアル」
「待てェェェェエエ!!全部一人でくおうとしてんじゃねーか!!」
最後に、中央にあったふろふき大根の鍋そのものもお盆に載せて。
銀時の叫びもむなしく、神楽は居間から出ていってしまった。
残された銀時と新八。「ったく何だアイツ」「どうしたんでしょう」なんて言葉を交わしたのち、二人の間に電流が走った。
・・・・・まさか。
それは確信に近い嫌な予感。
確かに予感の域を超えないが限りなく確信に近い、その考えに、銀時と新八は顔を見合わせた。
「神楽ちゃん!猫は玉ねぎ上げちゃだめだよ!!」
「そこじゃねーだろうが!!テメェ急に猫飼いたいとか言いだして、まさか拾って来たんじゃねーだろうな!」
やれやれと銀時は腰を上げる。まったくあの娘にも困ったものだ。
自分は自分で大量の食物を胃に突っ込まなければ気がすまずいつも文句ばかり言うくせに。
神楽の寝床(押し入れ)のある和室へと足を進める。案の定神楽は少しだけ隙間の空いた押し入れに向かって座っていた。
何かに向かってぶつぶつ言いながら箸を動かす・・・しかしその端は彼女の口ではない方向へと動いている。
やっぱりか。
可哀そうなのは分かるが、もといた場所へ帰して来なさい。
押し入れを開けてそう言おうとした銀時は、その場で固まった。
かわりにつんざくようなエエエエエエエエ!!!という叫び声が万事屋に響き渡る。
「どうしたましたか銀さん。・・・まさか猫じゃなくてゴリラとかでも拾って来たんですか神楽ちゃん・・」
様子を見に来た新八の目の前を、神楽に蹴り飛ばされた銀時が通り過ぎて行った。
「急に大きな声出したから怯えてしまうネ!!」なんて神楽は起こっているが、自分もその大きな声を出していることに気づいているのだろうか。
いや、それよりも。
仁王立ちで眼を釣り上げている神楽の後ろの押し入れは開かれていて、そこでうごめいた影に新八も動作を停止させた。
そこにいたのは。
猫でもゴリラでもない、
痩せこけて肌は浅黒くなってしまった、一人の人間の少女だった。
「な、な、
何つれてきとんじゃぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!」
新八の叫び声で万事屋が揺れた。
「か、神楽ちゃん、その子・・・・?!」
「見つかってしまったネ。今日路地裏で捨てられてたのを拾ってきたアル」
「ぎんちゃぁん・・・」神楽は甘えた子供のような声を、壁際にうつぶせになっている銀時にかける。
「この子ウチで飼ってもいい「駄目に決まってんだろうがァァァアアアアアアアアアアア!!!」
本日何度目か知らぬ騒がしい叫び声に、「スナックお登勢」のママは眉間に青筋を立てながらため息をついた。
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