さて、ここは早朝の万事屋銀ちゃん。
チュンチュンと窓際にとまった小鳥がさえずりながらこちらを見ている。
銀時はその小鳥を・・・何の恨みもないのだが・・眼で追い払って、くるりと座っていた椅子の向きを変えた。
彼の視線の先にはソファに向かい合って座った神楽と新八の姿。
神楽は明らかに不機嫌な様子で、机に足を乗せている。新八は苦笑いでそれを眺めていた。
銀時は先ほどから何度目か分からないため息をついて、何度目か分からない議題を口に出す。
「えっとぉ・・今日皆にこんな朝っぱらから集まってもらったのは訳がある。昨日神楽が拾ってきたガキだが・・」
=子猫とカラスとミカンの段ボール=
「捨ててくるなんて嫌アル」
「ちょっとォ。まだ銀さん何も言ってないんですけどッ!」
銀時は頭を抱えた。拾ってきたのがまだ猫や犬ならどれだけよかったことか。
とりあえず昨晩は遅いし朝話し合うことにしてお開きにしたが、いざ話し合おうにも全く話が進まない。
「とりあえず神楽。飼うにしても訳も分からんまま置いておく訳にはいかねーんだよ。どういう経緯で拾ってきたか話せ」
「犬や猫じゃないんだし、もしかしたら家族が心配してるかもしれないでしょ」
「むぅ」
新八の言葉についに観念したのか、神楽はぽつぽつと語り出した。
一週間ほど前、よくいく駄菓子屋さんの隣の路地裏で3匹の子猫を見つけた。
まだ歩くこともままならないほど幼い子猫達は、よく見るミカンの段ボールに入れられており、お約束のように「拾ってください」の文字。
拾ってくださいっていうくらいならこんな人目のつかない路地裏に置いておくなよと心の中でツッコミを入れながら、神楽はその子猫を放っておくことができなかった。
駄菓子屋のおばちゃんに頼んで売れ残ったミルクをあげたり、万事屋の冷蔵庫からソーセージをくすねて持っていったりして。
この一週間は毎日その子猫の様子を見に行くのが日課だったのである。
「オイぃ〜ちょっと待て。あのガキの話してんだろうが。何で子猫の話になってんのォ?」
「うるさいネ。ここからが本題アル」
「まぁまぁ銀さん、黙って聞いてましょうよ」
銀時が黙ると神楽は再び話し始めた。そう、それは子猫を見つけて丁度一週間がたった時・・・つまり昨日のことである。
神楽は楽しみにしていた。そろそろあの子猫たちは自分の力で歩き、走れるまでに成長していた。
もうすぐ訪れる別れの日を残念に思いながらも、神楽の心は弾んでいた。
いつものように万屋の冷蔵庫から銀時のつまみ用のサラミを拝借して神楽は駄菓子屋へと向かってい「待てェェェあのサラミ!やっぱりテメェかぁぁ俺楽しみに」しかし、彼女を出迎えたのは昨日までの光景とは違う、奇妙な光景であった。
昨日までと同じく、ミカンの段ボールはそこにあった。しかしその中で動いていたのは子猫ではなく、一人の少女だった。
その少女は、いつから変えていないのかぼろぼろの布切れと化したワンピースで身を覆っており、眼の下には大きなくま。
手足は棒のようにやせ細っていて、浮き出るように開かれた大きな目は光を移さずに、こちらを見ている。
「彼女の両手と口元は血でまみれていて、段ボールのそばには一匹の子猫の亡骸とカラスの羽が・・・」
「怖ェェェェエエエえええ!!!!!!何だよそのホラー!!!!!怖エエよ!!!」
「そんな光景見といてよく拾ってくる気になったな!!!」
「だって・・・・ほっとけなかったアル・・」
神楽は下を向いてつまりつまりそう言った。銀時と新八は黙ってしまう。
少女は一瞬今にも噛みつきそうな攻撃的な表情をつくり、しかし何を思ったのかくるりと向きを変えて路地奥に消えていこうとした。
その足取りは不安定で、今にも倒れそう。
人をだれも信用していないような目。一人ぼっちで着てきた。仲間なんて友達なんて、家族なんていない、いらない。
そんな気配を神楽はその少女から読み取ってしまった。
それに、
ふと覗き込んだミカンの段ボールの中には息の絶えたカラス。物音がして振り向けば、物陰に揺れる2本の尻尾が見えた。
・・つまり、子猫たちを逃がし襲っていたカラスを攻撃していたのだ。この少女は。
残念ながら3匹全員は助けることができなかったが。
神楽はその背中に声をかけていた。
「待つアル」
「う・・ウチに来るネ」
少女は眼を見開いて、足を速める。しかし弱り切った体ではゆっくりと歩く神楽のスピードよりも遅かった。
嫌がる少女を無理やり引きずって万事屋に連れ帰り、押し入れにかくまっていた、というわけだ。
「ご飯も・・ちょっとは我慢するネ。世話も私一人でするから・・ちょっとの間ウチにおいてやって欲しいアル」
困ったように眉をハの時に曲げて頼み込む神楽を見て、銀時は盛大に溜息をついた。
向かいに座る新八は小さく息を吐く。しかしその顔は困ったような表情をしながらも微笑んでいる。
この少女は重ねてしまったのだ。人を信用せずたった一人で生きていこうとしていた時の、どこかの誰かさんと、彼女を。
銀時はその後しばらく黙っていたが、新八はその後の銀時の言葉をなんとなく予想することができた。
神楽がたまに物凄くお人よし、お節介になるところがあるとすれば、それは確実にこの男の影響なのだ。つまり。
「あーーー・・・ったく・・しょうがねェなァ・・」
ガシガシと頭を掻きながら、ついに銀時は折れた。
つまり、この男も果てしないお人よしのお節介なのだ。
「その代り、もしあのガキが家出とかで帰るうちがあるんなら、ちゃんと返すんだぞ」
「やたぁ!!銀ちゃん大好きアル!!」
「くっつくな!ったく、都合のいい奴だなお前!!」
ひしっと銀時の顔に抱きつく神楽とそれを引き剥がそうとする銀時を見て、新八はくすりと笑ってしまった。
そう、これでこそ万事屋。このお人よしさだからこそいつも金欠、問題ごとに追われているのだ。
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