「コラァ定春!!食べちゃだめ!ったく、前みたいにレントゲンに人の手が映って怖い思いすんのはこりごりなんだよ!」
銀時はリードの先に繋がれた巨大な犬をたしなめた。
新八が「あのときはびっくりしましたよねぇ」なんて笑いながら言う。
「ていうか・・散歩っつうならあいつもつれてこなくて良かったのか?」
「押し入れから出たくないっていうんだからしょうがないアル」
「て言うか、何も言わないからね、あの子・・」
あの子と言うのは、先日万事屋に転がり込んできた少女の事である。もうかれこれ一週間は経つか。
神楽が路地裏で拾ってくださいと書かれたミカンの段ボールに入っているのを発見し(実際にはその中でカラスを食べていた)連れてきたのであるが。
一つ問題があった。
彼女は何もしゃべらない。
=目は口ほどにものを言う・・かぁ?=
定春の散歩が終わって万事屋に帰って来た銀時は、ふう、と社長椅子に腰を下ろした。
神楽が拾ってきた少女は何もしゃべらないどころか、連れてきて最初に押し込まれた押し入れから一歩も出ようとしないのだ。
飯を食べる時は神楽が持っていけばしばらく警戒した後に少しずつ食べるのだが、銀時や新八が持っていくと全身の毛を逆立てるようにしてこちらを睨んでいるだけで、食事には手をつけようともしない。
神楽はそれを見て、「男どもは信用ならないアル!私にだけな付いてるネ!」なんて得意げにしていたが。
「そういや、あいつのことは何て呼べばいいんだ?」
「そう言えば・・・」
入口で定春のブラッシングを終えた新八が帰ってくる。
「何もしゃべらないことには何て名前なのかもわからないですね」なんて言えば、ソファに定春と一緒にダイブした神楽が鼻息荒くこう言った。
「『』ネ!あいつの名前」
「おまえ、あいつとしゃべったのか?」
「私が付けたネ。昨日の夜ずっと考えてたアルよ」
「いや・・流石に野良猫とかじゃないんだから名前まで勝手につけるのはどうかと・・・」
そう新八が言えば、神楽は、あいつに名前なんてないネと言った。
どういうことだ、と新八と銀時は顔を見合す。
彼女を飼うか飼わないかの大会議が行われた時神楽が言った言葉通り、神楽は率先して彼女の世話を行っていた。
毎回の食事も、トイレの世話も(警戒して銀時や新八がいない時を見計らっていっているらしい。その時には男二人は追い出される)更には暇さえあれば押し入れに引きこもり、何とかコミュニケーションを取ろうとしている。
その甲斐もあってか、どうやって説得したのか三日前はついに風呂に入れることに成功していた。
そして神楽が言うには、昨日の晩に名前はあるのかと尋ねると、ぶんぶんと首を振ったのだそうだ。
眼を輝かせながら、じゃぁ自分が名づけてもいいかと聞けば、彼女は少し考えた後、控え目に頷いた。
そこで神楽は一晩かけて彼女にピッタリな名前をずっと考えていたというわけだった。
「、ねぇ・・」
「じゃぁ、神楽ちゃんが名付け親だね」
「ふふん、そういうことになるネ!」
「だか何だかしらねーけど、一週間だぜ?そろそろ押し入れから出てきてくれてもいーんじゃねーの。て言うかどんだけ警戒されてんの俺達ィ?」
銀時が面倒臭そうに溜息を吐く。
「なにアルか。銀ちゃん、もしかしてが私にしか懐かないのに嫉妬してるアルか。男の嫉妬ほどみっともないものはないってパピーが言ってたネ!!」
「ちげえよ」
「でも確かに、一週間たつのに僕たちの手からじゃご飯も食べてくれませんもんね・・」
「心をこめて世話してれば懐いてくれるものネ!銀ちゃんや新八には愛がなりないアル、愛が!!」
「けっ、関係ねえな!!別に俺あのガキに懐かれたいとか思ってなんかいねーし!!」
ぎゃぁぎゃぁとわめきながら、いつも通りの万事屋の一日は過ぎていく。
その晩は銀時が晩御飯を持っていくことになったが、やはり一口も食べてくれなかった。
いらいらしながら神楽を呼べば、にやにやしながら現れて変わってくれた。
その後ろから新八も現れて、銀時は疑問に思い声をかける。
「何だ?お前もこっちで食べるのか?」
「へへ・・まぁ。ほら、ご飯作ってるの僕でしょう?やっぱり、口に合うか気になって」
恥ずかしそうに笑いながらもが気になるのがみえみえな新八に銀時はあからさまにあきれて見せた。
これだから子供は。なかなか懐いてくれないものには意地でも懐いてほしいと思う。
そういうのがあるからこそ女の中にもわざとつんつんしといてたまにデレッとすることで男の心をつかもうとする計算高い奴が出て来るんだよ!!新八てめえはそういうやつらにまんまと引っ掛かってるわけだよ、分かってんのか??
なんて呟くのは心の中にしておいて、銀時はめんどくさそうに手を振りながら、一人リビングでご飯を掻きこんだ。
そんな日々が3日過ぎ5日過ぎ・・・ついにが万事屋に来て2週目を迎える日の昼過ぎ時、事件は起こった。
オオオオオオオオオオ!!!という声がリビングでお茶を啜っていた銀時の耳に届く。
何事かと和室の襖を開けば、部屋の真ん中に新八と神楽と・・・の姿。
神楽のパジャマを借りている彼女の肩を、新八は恐る恐る触れて「触れたァァァァァ!!」なんて叫んでいる。
というか、銀時は実はの全体の姿を見るのはこれが二回目である。
一回目に見た時は痩せこけて真っ黒で、まだ小さいガキだとばかり思っていたのが、こうやって日の光を当ててみればそこまで幼くはなかったことを知る。
神楽か新八と変わらないくらいの年のガキだ。ガキには変わらないが。
そんなことを考えていると、新八の腕越しにと目が合う。
は眼を大きく見開き、風のような速さで押し入れへと飛び込んで行ってしまった。
残された神楽と新八を見れば、冷めきった眼で銀時を睨んでいた。
「銀ちゃんが来たせいで逃げてしまったアル」
「そうですよ。折角触れたのに」
「何だよ新八、やっと飯食ってくれるようになったか?」
「何言ってるネ。そんなのとっくにクリアしたアル」
「え?」
話を聞くに、新八の手からご飯を食べるようになったのはもう随分前のことで、今では呼べば来てくれるようになったし、機嫌のいい時なら触れさせてくれるまでになっているとのこと。
いつのまに・・。
銀時は焦る。
これじゃぁ自分だけがのけ者にされているみたいではないか?
「よ、よし。今晩の飯は久しぶりに銀さんが持って行ってやろうかなァ」
決して焦っているのを出さないよう気をつけて言葉を発したつもりだったが、
その言葉を聞いて新八も神楽も噴き出してしまった。
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