「この家に灰皿なんてないアル。分かったらとっとと煙草消せ臭くなるネ」
「アァ?!うっせーよ俺今タバコ吸ってねーじゃねーか」
「きっと土方さんの命のともしびをもみ消せってことでさぁ。介錯してやりましょーか」
「総悟・・・・テメェぶっ飛ばされてェみてーだな」
「ま・・まぁまぁ、沖田さんも神楽ちゃんも」

お茶を出そうとしたら、いらねェ、すぐ帰る、お前もだよ総悟!!と土方に遠慮されたので、行き場をなくした二つの湯気が新八のお盆の上でゆらゆらと揺れた。
万事屋の居間。ソファーに胡坐をかいた神楽と、傍らに新八。土方は入り口付近に立ち、総悟はその隣で柱に体を預けていた。
くるり、と社長椅子に座った銀時がいらいらしながら真撰組二人に体を向ける。


「で?どういうことだァ?説明してもらおうじゃねーのォ」








=ネむれぬ夜にコ守唄を=








「・・・・なにやってんの?」
「・・・ってえええ!!何すんだ総悟!」

額にくっきりと青筋を浮かばせて、新撰組副長は傍らの一番体隊長を睨みつけた。
万事屋はただただ呆れるばかり。

土方が口を開いた瞬間に、総悟が突然土方に向かってロケットパンチをお見舞いしたのである。

ロケットパンチと言っても総悟の腕が煙を出して放たれたわけではなく、腕を垂直に伸ばした状態で土方の顎に向けて総悟が飛び込んだだけで。
顎を押さえながら今にも斬りかかりそうな形相な土方に、総悟はさらりと言った。

「いやァーすいやせん。が土方殴れっていうもんですから」
「はァ?」

「エ?もう一発殴れって?」と言う総悟の後ろでは、が困った顔をして立っていた。
は万事屋に帰ってきても一言もしゃべらなかった。彼女のボディーランゲージを適当に解釈した総悟が、土方を殴ったのだ。

の手はきゅう、と総悟の上着の裾を握っている。総悟は、皺になるだろーが、と思ったが、なんだか悪い気分はしない。
それを見て万事屋の旦那がいらいらしているのが分かるし。
ザマミロ俺だってチョコなくてもたまにはくっついてきてもらえるんでぇ。
・・とまでは思わなかったが。

総悟にはの気持がなんとなく読めた。お互いひねくれ者通しだからだろうか。
この娘は今、総悟しか頼れる人間がいないのだ。
ここにいる人間の中で、一番第三者である、総悟しか。
土方を殴れとうけとった今の解釈も、あながち間違いではないだろう。
この娘は土方に喋らせたくないのだ、自分の事を。



その様子は銀時も見てとれていた。
いらいらいらいらいら。

何でだ。
何で自分にではなく総悟に頼るのか。どうして頼る人がいないような顔をしているのか。
眉間による皺を必死に和らげようとしたが、ギリ・・と無意識に歯に力がこもる。

「銀さん」と新八にたしなめられた。あーちくしょうコイツたまに俺よりも大人なんだ。
神楽も、自分が口を出すと話をこじらせるだろうとだんまりを決め込んでいる。いや、我慢して何も言わないのだ。
新八も神楽も、大事な大事な妹が心配で仕方ない状態のくせに。一番冷静になれていないのは一番年上の銀時だ。

情けねェ、俺・・。はァ、と一つ息をついて、銀時は土方を見た。

「悪ぃ、土方君。話してくれ」
「・・・・・」

土方はちらりと万事屋を見た後に、総悟に隠れる娘を見た。
自分が口を開こうとすればぎゅううっと総悟の上着を掴む。

あのな、
土方はに向かって言った。
ここに置いてもらっている以上関係ねェ話じゃねぇだろ?



そんな土方を見て、ああ、この人は全部知ってるんだ。とは思った。

何の気まぐれかさっきは助けてくれた。
万事屋に対しては嫌な顔をしているが、自分を、を、ただ数回見かけただけの娘を気遣ってくれている。
・・・何か裏があるんじゃないか、と思ってしまう自分は、きっと相当ねじ曲がってしまっているんだろう。
しかしここまで来て考えを変える気はない、と、自分にも言い聞かせるようにして。

は土方の言葉に対してゆっくりと、大きく頷いた。
握っていた総悟の隊服を離し、すたすたと歩いて行って万事屋3人の前に立つ。



それからの銀時たちへの言葉を使わない会話が始まった。

いや、会話とは言わない。一方的にが伝えているだけで、万事屋は黙ってそれを見ている。
長く一緒にいた人間だからこそ読み取れるそのボディーランゲージは、総悟も土方も何を言っているのかは分からなかったが、黙って彼女の音のない言葉を聞いている万事屋の表情から、何を意味しているのかは想像がついた。


ここを出ていく、と言っているのだ、彼女は。きっと。


「理由、俺達には離せないのか?」

「迷惑かけたくない、つーあほな考えならやめとけよ?」

「俺たち皆、のこと大好きなんだぜ?」

喋らない新八と神楽を代表するかのように、銀時がぽつりぽつりとに言葉をかける。



「これからも一緒にいてくれよ、な?」

「・・・・」



は、結局最後まで首を縦に振らなかった。







「出ていくのは止めないネ・・・でも、最後に今晩は泊まってけヨ」
「そうだよ。もう暗いし、今日は体力付くもの作ってあげるね」

ぽつりとつぶやいた神楽と新八に、は申し訳なさそうにうつむいた。
すり寄って来る定春にも後ろ髪をひかれたのか、ぺこりと深くお辞儀する。
それを見て新八も神楽も、ほ・・と少し微笑んだ。

その日は新八も外泊の許可を貰い、万事屋3人と定春で、を囲むようにして布団を敷いた。
すかーすかーと隣で眠る神楽のいびきを聞きながら、はボーっと天井を眺めていた。

眠れない。

万事屋に来てからも、来る前も、夜を安心して眠れたことなんてなかった。
銀時とのお昼寝は何故か割と安心できて眠りに落ちることができたが・・・。
そう思いながらは体を持ち上げた。

上半身だけ起こした状態で、窓から外を見る。
半月が夜空の真ん中で静かに輝いていた。遠くで猫の鳴き声が聞こえる。





突然名前を呼ばれたのに、はびっくりしなかった。
聞き慣れた、声。

あんしんする。



だいすきな万事屋の、だいすきな、ぎんちゃんの声。


声には出さず、は心の中だけで呟いた。今までありがとう。


「・・どーいたしまして」


ふっ、と笑って、確かに銀時はそう言った。
声には出していないはずなのに。ボディーランゲージもしていないのに。

腕が伸びてきて腰を掴む。
ぐいと引っ張られれば、銀時の布団へと引きずり込まれた。




いいか、よーく聞いとけ、な?

もしも、本当にどうしても助けて欲しくなったら、俺を呼べ

ぎんちゃん、って。本当に困ったら、呼ぶんだぞ?いいな




は頷かなかった。
嘘でも頷いて安心させてやればよかったのかもしれない。
ちらりと銀時を見ると、以外にも優しく微笑んでいた。
急に出ていくって言ったのに。迷惑なんて計り知れないほどかけているのに。

「最後の日くらい、ぐっすり寝ろ」と言って抱き寄せられる。
ぎゅううっと抱きつき返せば、「お前は俺の大事な大事な家族だよ」と頭をおでこでぐりぐりされた。


その言葉はものすごく嬉しかったのに、涙は出なかった。









>>next>>