・・・え?
目を覚ましたは一瞬何が何だか分からなかった。
体が、ロープでぐるぐるに縛りあげられている。
「ようーお譲ちゃん、お目覚めかい?」
見知った天井に見知った畳、見知った部屋。
ぐるぐる巻きになって転がるを見降ろしていたのは・・・、
めちゃめちゃどす黒い顔をした、万事屋のメンバーたちだった。
=猫の心親知らず=
確かに最後の夜は銀時に抱かれて数年ぶりにぐっすりと夜を眠ることができたのだが・・・。
はぱちくりと目を瞬かせながら、必死に頭を回転させた。
ぐっふっふっふっふ・・、なんて悪い笑みを浮かべながら銀時と神楽がを見降ろしている。
いつもあんなにやさしい新八までもが顔に影を作ってひぇっひぇっひぇっと笑っていた。
・・・・え?
「ぶァかめェ!!出ていくなんて言って大人しく出て行かせると思ったアルか!」
「残念だったなァー!ちゃんと理由話すまでここから出られると思うなよこの猫がァー!!」
「僕たちそんな話の分かる出来た人間じゃねーんだよォ」
ぶあっはっはっはっは!!と仁王立ちで笑う万事屋のメンバーを見上げながら、は身じろぎひとつせずに瞬きをした。
ぎり・・・と歯に力がこもる。
体を縛られて監禁の真似をされているにもかかわらず、温かい気持ちで心が締め付けられて、泣きそうになった。
「ぶあっはっはっ・・・あ、あれ大丈夫か?オイ神楽お前縄きつくしすぎたんじゃねーのォ?!」
心配そうに自分を覗き込む銀時をこれ以上見ないように瞳を閉じ、はすぅっ、と息を吸い込んだ。
歌舞伎町の下道を、土方について総悟は歩いていた。
万事屋に向かっているんだろうということは分かっていた。
ついさっきまで歌舞伎町の観光をしていた犬顔の天人が、急に帰ると言いだし船にに戻って出向の準備を始めたのだ。
嫌な予感はしなくはないが、万事屋の事だ。昨日は止めはしなかったものの、大切な猫が出ていくのを
指を咥えて大人しく見ているような素直な人間たちではない。
いっそ縄でぐるぐるに縛りあげて監禁してるのではないか、と思ったところで、ちらりと後ろを向いた土方と目が合った。
「なんでさぁ土方さん。折角奴らが帰ることになったのに、うかねェ顔してら」
「急に帰るなんてぬかしやがったんだからな。怪しんで当然だろ」
「奴ら諦めたんでさぁきっと。万事屋があんな不安定な娘放りだすとは思いやせん」
「諦めた、があるわけねェってのはお前も知ってんだろ」
それは・・。正論を突かれて総悟は言葉を濁した。
昨日の晩の出来事が頭によみがえる。
「どうも、真撰組副長。明日のルートについて少し話があるのだが」
土方とともにくぐった門の先で待っていたのは、例の犬顔の天人であった。
「アァ分かった。俺の部屋でいいか」
「申し訳ないが、煙草の匂いが好きではなくてね。別の部屋にしてもらえるとありがたいのだが」
眉を寄せて答える天人をちらりと見て、自分には関係ない話だと先に行こうとした総悟の腕を、その天人ががしり、と掴んだのだった。
その天人は、すん、と鼻を動かし、総悟の・・・僅かにしわになった隊服の裾を見やって・・・掴んだ腕の力を弱めずに総悟に言った。「失礼ですが、本日はどちらに行かれましたか?」
「はァ」何食わぬ顔で適当に返事をして、ちらりと土方を見る。
土方は、こちらも何事もないような顔をしながら煙草を取り出し、火をつけている最中だった。
なるほどねィ。万事屋の旦那に煙草押しつけたのは匂い付けてごまかすためか。
ちらと目があった土方の目はこう言っているような気がした。適当にごまかしとけ。できんだろ?
上から目線のものいい(この場合目線だけだが)にカチンときたが、無表情のまま総悟は口を開いた。「どちらってぇ言ったって、色々な場所へ行きやしたからねェ」
「女に会いませんでしたかねェ。これくらいで、黒い髪の」
「女、ねェ・・」
うすうす気がついてはいたが、それがはっきりと確信に変わる。
小娘一匹に何を目くじらを立ててさがしてるのだか。
「申し訳ありやせんが、俺に言いよって来る女なんざ星の数ほどいるんで。どれのこと言ってるかわかんねぇや」
あいつが、だけが例外だが。
ちなみに神楽はカウントしない。あんなの女じゃない。
そんなことを想いながら顔色一つ変えずにそう言えば、天人はぎり、と歯を噛みながら舌打ちをした。
確かにアレはちょっとやそっとじゃ諦めるような質には見えなかった。
しかしちょっとやそっとじゃ諦めないというのなら、万事屋だって同等か、それ以上だ。
そんなことを考えているうちに万事屋に着く。
玄関が僅かに開いているのを見て、嫌な予感が膨らんだ。
土方は舌打ちをし、家の住人を呼びもせずにずかずかと中に上がっていく。
人気のない居間を通り越して、先にある和室の襖を開けたところで、土方は停止した。
「ちっ、やっぱりか・・情けねェ奴らだ」
「うわぁ・・・こりゃひでェや」
土方に続いて和室を覗き込んだ総悟は眉間にしわを寄せ、息を吐いた。
その和室には、
万事屋三人が大の字になって横たわっており、大きないびきを立てながら眠っていた。
はぁ、はぁ、はぁ、
は体にぐるぐるにロープを巻きつけたまま、歌舞伎町の裏路地を飛ぶようにかけていた。
ごめんなさい、ぎんちゃん。
ごめんなさい、おねーちゃん、しんぱち。
四方八方から犬の鳴き声が聞こえる。
向かいの路地から犬顔の天人が現れたためあわてて向きを変えようとしたところで、ガチンと足元で金属音が響いた。
「!!!!!――――ッ」
激痛。
下を見ればの左足にがっしりと噛みついた鉄の歯。罠だ。
痛みに顔をゆがめる間もなく、は後ろから押し倒された。
「捕らえたか。直ぐに口を塞げ。また逃げられるぞ」
「むぅっ、んんーーー」
バタバタと複数の足音。頭に、口に、体中に伸びて来る無数の腕。
足に走る激痛と、押しつぶすように体の上に乗った体重に意識が飛びそうになる中で、
が銀時の名前を呼ぶことはなかった。
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