「お前、熱あるんじゃね?」

一番初めに気がついたのは銀時だった。
「本当だ、ちゃん顔真っ赤」
ひょっこりと横から顔をのぞかせた新八に続いて、神楽も。
「ムー?熱はないみたいだけど・・・調子悪かったら寝てた方がいいアル」
なんて。

ぎゅーっと目を瞑って神楽とおでこをくっつけているの頬は赤く、
先ほどから見ていれば熱っぽい目でぽけーっと上の空。

「調子悪いの?」

心配そうに見降ろして来る銀髪の男を、は困ったように見上げた。







**好きの反対は嫌い**







銀時の布団に寝かされると、ぶるぶる、と枕元で携帯電話が震えた。
もぞもぞとそれを手にして開けば、それを見ていた銀時がしかめっ面をする。
誰からなんて分かりきってる。総悟からだ。

「体調悪いなら寝とけ」
「わかった」

素直に頷き、メール出来ない旨を簡単に打ち込んで送信。再び枕元に置いた。
銀時が風呂に立てば、もう一度ぶるぶるとバイブ音。
『調子悪ィの?見舞いにいってやろーか』
『いらない』と返事を打って、は布団にもぐりこんだ。
調子が悪い自覚はなかったが、言われてみれば何だかうまく頭が回らないような、そんな体がふわふわしてるような感覚がある。
今日は万事屋が依頼で出ている間定春と部屋の中で遊んで(暴れまわって)、めちゃくちゃ怒られたのだが、
もしかしたらはしゃぎすぎて疲れたのかもしれない。

眠ろうと目を閉じたが、なかなか眠れなかった。風呂から上がってきた銀時が隣に横になってからも、なかなか。
次の日の朝も、おんなじような調子だった。
その日も外せない仕事があったため銀時たちは出かけて行ったが、新八が残ってくれた。


「最近寒くなってきたからね、体がびっくりしてるんだよきっと」

ソファーに座った体の上にブランケットをかけてもらい、新八と一緒に午後のニュースを見る。
『指名手配犯がつい先日江戸で目撃されたらしい』なんてアナウンサーのお姉さんが言うのを聞いて、二人で怖いねーなんて顔を見合わせた。
温かいミルクココアを作って来てくれたので一口口に含むと、予想以上に熱くて、
「あつ」と言って舌を出せば、見ていた新八が笑って、も嬉しくなった。

「あのね」
「ん?なぁにちゃん」
「しんぱち、お願いがあるの」
「・・・安静にしてなきゃだめだよ?」
「わかってるよう。あのね、暇じゃない?遊んで?」

きゃいきゃいと鈴の音の響くような声で、無邪気に笑うに、新八はほう、と息をついた。なんだ、元気なんじゃん。
のおでこに自分の掌を乗せる。熱はない。
朝のようにボーっとしてもなければ頬も火照っていないし。
しょうがないなぁ・・・・と新八が箪笥の引出しから取り出したのは、アイドルの柄の描かれたトランプだった。




「ただいまー」
ー!生きてるアルかァー!」
「おかえりー!」

夕方、返ってきた銀時と神楽を迎えたのはすっかり元気になって飛び跳ねるだった。
「おかえりの「きす」!」なんて言って神楽、銀時の順にほっぺたにちゅうを落とす。
はしゃぎすぎてふらついた体を支えてやりながら、銀時はため息を吐いた。

「おーいまだふらついてんじゃねーか。飛ぶな、跳ねるな、はしゃぐな」
「あれ?、新八はどうしたアル?」

そのかわり、居間でお通ちゃんに囲まれて力尽きていたのは新八だった。
「銀さん・・・この子知らない間にテーブルゲームの腕が最強になってるんですけど・・・」

「何ィ?オイオイぱっつぁん、こんなちっせーガキにやられるとは情けねーなァ、情けねーよ」
「そうごにはいっつも負けちゃうけど、しんぱちには勝てたー!」
「なぬー!それは聞き捨てならないアル!もっと腕を磨いてアイツをけちょんけちょんにしてやるヨロシ!」
「UNOやろーぜUNO」
「立つんだ!わたしがオマエをプロのUNO師に育ててやるヨ!」
「UNO師って何だよ」
「つーことでぱっつぁん、メシの準備よろしく」
「オイィィィイイイイ!!」

きゃいきゃいと万事屋に笑い声がこだました。


しかし。
次の日。居間に起きてきたを見て、新八も神楽も顔を顰める。
寝起きだからとかそういうんじゃなくて、の様子はおかしい。
どこか遠くを見ているような、心ここにあらずな表情。火照った体。熱はないようだけれど・・・。
「眠れなかったの?」なんて新八の鋭い質問に、はもじもじしながらこくりと頷いた。

の種族は冬が弱いアルか?冬眠的な」
「無きにしも非ずだよねぇ。神楽ちゃんはお日様苦手だし」

どうなの?と聞かれて、前いた星は四季がなかったからわかんない、と答えれば、そっか、と新八と神楽は顔を見合わせた。

「どこも悪い事ないのよ?」

本当に本当。ちょっとボーっとする時があるだけで。


最近の万事屋は嬉しい事に依頼が絶えない。今日も3人で夫の浮気調査へと繰り出そうとする万事屋を、は「いってらっしゃいの「きす」!」で見送った。
フレンチキス事件があってから早1週間。説得に説得を重ね、ほっぺまたはおでこにちゅうするように躾けたのだ。
だって、本当に、神楽も新八も目を回して倒れるから。ほっぺも恥ずかしそうだけど。

銀時にキスしようと思いっきり背伸びをしたところで、バランスが崩れてぐらりと体制が傾いた。
新八や神楽は背伸びしなくても届くけど、銀時は背伸びしても届かない。
崩れた態勢を片手で支えて、むちゃすんな、と、その日は銀時がのおでこにちゅうをしてくれた。

「んじゃ、行ってくるわ」
「うん!行ってらっしゃい、みんなー!」

大きく手を振るに3人が3人とも笑顔で答えて、玄関の扉が閉められる。
カンカンと万事屋の階段を下りていく音が遠ざかって行くのを、は玄関に立ったまま聞いていた。

・・・・・・・・。

そして、

その場にこてんと横になった。





「・・・まさか玄関で体を差し出すように出迎えてくれるとは。だいじょーぶかィ」
「・・・・・・そうご・・」

なんで普通に鍵開けて入って来てんの?

そんなの想いを読みとった総悟は、にやりとどす黒い笑みを浮かべた。
いやあ。この俺に鍵を預けるなんて、迂闊にも程がありましたねェ旦那。
先日「複製」した銀色のカギを見せびらかしながら万事屋に「勝手に上がり込んだ」総悟は、倒れているの体をひょいと俵担ぎし居間へと向かう。

「え、なに?玄関で倒れるくらいひでーのに旦那ら出てったの?」
「違うよう。もう平気だからおろして」
「本当かィ」
「本当。そうごが来たら治っちゃった」
「・・・・そう」

言いつつも結局総悟は居間に着くまでを下ろそうとしなかった。
を居間のソファに座らせてその前にしゃがみこむ。
顔色も悪くない。言葉もしっかりしてたし、悪いところはないように思えるが。

「ほんとに平気なの」
「うん、今は大丈夫」
「今は?」
「あ・・・・うん・・」
「?」

急にしゅんと黙りこくったに総悟は首をかしげることしかできない。
「あのね」
鈴の音が響くような小さく綺麗な声で、その少女は怯えるように声を出した。
「ぎんちゃんたちには言わないで欲しいの・・・」



「ぎんちゃんのこと、好きじゃなくなっちゃったのかもしれない」



最近、ぎんちゃんが近くにいると落ち着かない。
一番最初にそう思うようになったのは、三日前の夕方だった。
一緒にソファでお昼寝していたのだが、新八が夕ご飯に呼びに来て、「んむぅー、後5分〜」なんて言いながらを抱き枕のように抱きしめる彼を見て、なんだか無性にそこから逃げ出したい衝動に襲われた。

「きす」するのにも勇気が必要になった。なんだか、胸が苦しくなる、嫌な感じ。新八や神楽は平気なのに。
「まだしてたのかよ」総悟が突っ込む。
銀時にだけしないのは流石に怪しまれると思って、ここ数日はハラハラしながらそのほっぺたに唇を押し付けているのだ。
別にしなければいいのに。「きす」が「大好き」を表現する方法だからと言って、「きすしない」のが「大好きじゃない」を現わすことにはならない。
というのは、この際置いておく。

一緒に寝るのも、何だか、落ち着かない。変に体が緊張してしまって、眠れない。
前は隣に寝転がってその体温を感じるだけでとろりと眠気が襲ってきたのに。
そして、追い打ちをかけるようにさっきの出来事だ。

銀時に「きす」された、おでこが、熱い。
頭がぼーっとして、思考がうまく働かないし、胸の少し上のあたりがきゅうきゅうと軋んだ音を立てながら渦巻いていて、気持ち悪いことこの上ない。
気持ち悪いと言っても、不快感があるわけじゃなくて、でも苦しくて、悲しくもないのに泣きたくなって。

なんで?なんで?これはどういう事だ?
考えれば考えるほど分からない。
ずっと考えても分からない。ずっと銀時のことを考えてても、どういう事なのか。ちんぷんかんぷん。


「ねえ、わたし、ぎんちゃんのこと、・・・・嫌いになっちゃったのかなあ・・」

じわり、と目に涙をためながら見上げて来る少女を見て、沖田総悟はキャラでもなくぽかんと口を開けたまま動けなくなってしまっていた。
嫌いって言うか、お前、それは、お前。
・・・・お前ェェ・・・。

「・・・恋・・じゃねぇの・・?」
「恋?恋って何?嫌いってこと?」
「イヤちげぇし。「好き」ってことだけど」
「今までも「好き」だったもん。でも今までとは違うの」
「今までとは違う「好き」になったってことじゃねーの」
「今までとは違う好き・・・?」

それって、どんな気持ち・・?
不安そうに見上げて来る瞳に少なからずぐっときながらも、総悟は悩む。
うーんと、家族の「好き」と恋愛の「好き」の違いは・・・。

「・・・・・・・・この人と、子作りしたいぜ、的な?」


ばっちーん!!


「・・・・・いや、正直悪かった」
「ぎんちゃんはあんなことしないもん!!」
「悪かったって」
「子作りなんてしたくない」
「そーゆーもんなの?俺は分かんねぇけど、女ってのはそーゆーのが夢なんじゃないのかね」
「夢?」
「おヨメさんとか・・・うわ自分で言っててキモイ」

「アンタ子供産んだことあるの?」
総悟がデリカシーのかけらもない聞き方で問えば、も「ある。痛かった」とこちらも身も蓋もない応えをよこす。
今は、という問いには、はしらない、と首を振った。
なるほど、総悟は頷く。土方から資料を借りて読んだが、本当に、卵を産むニワトリみたいなもんだったんだな。

「腹痛めて産んだ、好きなヤツとの子供は、大事にしたいもんなんじゃねーの」
そいつと自分の血を分けた、新しい家族が出来る訳だし。
総悟は頭を掻きながら言葉を紡ぐ。確かこの間見た「女子の本音!」とかいうバラエティでそんなこと言ってたような言ってなかったような。
(ちなみに↑は近藤がガン見していた)

「まァ、本当の家族になりたい、って思えるくらい好きってことなんだろうよ」


でも・・・、はー、ほー、旦那をねェ・・・。
ニヤニヤしながらつぶやく総悟に、は尋ねた。「駄目な事?」
「駄目じゃねェけど」総悟は答える。んー、難しいねェ。だって、オマエ今いくつよ。

「17」
「だろ?幾らなんでも離れ過、っえええええええ?!」
「なに?」
「17?!一個下?!嘘だァ!!もっとガキだろお前!」
「嘘じゃないもん」

いやいやいや!総悟は頭を振った。
ぷくう、とほっぺを吹くらませこちらを睨む顔は、明らかにチャイナ娘と同じかそれ以下の世代の香りがする。
しかし、こう見えて彼女は人間ではなく(神楽も夜兎だが)、遠い星の天人に遺伝子改造を施されたこれまた遠くの天人の血を受け継いだ半人半天人なのだ。
彼らの技術は自分達には到底理解しえないものばかり。そう言えばコイツ子作りもさせられてたんだっけ。
そう考えてみるとあり得ない話でもないが、イヤそれにしてもそれが本当だとしたら。

・・・成人しても幼女の姿を保つとか、研究者達の意図を感じずにはいられない。籠の鳥には丁度いいのか?




「おー、ただいま。体は平気か」
「おかえりぎんちゃん!」

総悟が帰り、銀時たちが帰って来た。
その姿を見た瞬間に、ぎゅぅっ、と胸が締め付けられたような痛みを感じる。
どきどきと心臓がやかましい。でもそれは一緒にいるのが気持ち悪いんじゃなくて、一緒にいるから離れるのが苦しいのだ。

はどっかりとソファにくつろぐ銀時を、改めて観察してみた。
杜撰(ずさん)で適当でやる気なくてぱちんこがすきで御金遣いも荒くて、昼まで寝ててお酒飲んで、駄目駄目なぎんちゃん。
でも、優しくて、おっきくて、あったかくて、大事で、好きで好きで好きで。
見てるとドキドキする。全部好き。ドキドキ。
「きす」したいけど勇気が出ない。でも、そもそもきすしたいというだけで自分にとっては考えられない事だ。


銀ちゃんは私の事好き?

「・・・・なんつー顔してんの。

にっこり笑っての腕をとって引き寄せた銀時は、その前髪を掻き上げて、のおでこに自分の唇を押し付けた。

「ほーれ、これが「だーい好き」なんだろ」

ぎんちゃんの顔が直視できない。おでこが燃えるように熱い。
おでこ以外も体全体が熱くて湯気が出そう。
そしてさらに唇の離れたおでこが熱い癖に物凄くさみしい。全体的にあれを思ってこれを思って、とっても忙しい。
これが、恋。

「ぎんちゃん」
「んー?どした」

わしゃわしゃと前髪を撫でられる。
大きい手。温かい手。大好きで仕方ない手。
総悟にけしかけられたわけじゃない、けど。
・・・・・・・もう誰にも“とられない”赤ちゃんが貰えるとしたら、それはぎんちゃんとのが良いなぁ、なんて思えた。

「あのね、」

何より、『本物の家族』なんて、・・・・・・・・・今まで微塵たりとも考えたことなかったけれど、
・・・・憧れる。


「わたしと、赤ちゃん作って欲しいの」


頬を赤くしながら必死の思いで伝えたみゅうの言葉を聞いて。
ぴしり、
笑顔でを見ていた銀時の表情がそんな音を立てて凍りついた。

え?は?・・・・・・・・・・・・・はァ?!

「な、何言ってんのお前?」

俺を犯罪者にでもする気ですか??!
心の中で銀時はひきちぎれんばかりに頭を振る。
い、いやいやいやいやいや!!
確かにの事は好きだ大好きだでも今のままで銀さん十分満足って言うかえ、なに、いきなりどうして?!
まさかまたあれか、あの餓鬼か!あの野郎なんつー悪戯を教えるんだまた本当にもう、いやでもさ、乗ってやってもいいけどさ、
嫌駄目だろ無理だろ赤ちゃんってアレだろつまりはこんな神楽の年にもいかないようなちっさいガキに、
いや、

「無理無理無理無理無理!何考えてんの?!アホか!」

第3者から見れば、銀時の反応が圧倒的に正しいだろう。
でも、第1者からしたらそうはならない。例えどんなに正しかろうと。
が体的にも精神的にも子供だと銀時が思っている事をは理解していないし、
が精神的にはともかくとして彼女らの種族の中ではほとんど成人しかかっている事を知らなかろうと。


「そっか」

えへへ、とが笑う。
眉を寄せて可笑しそうに肩を震わせるその姿に、また嵌められたのかと銀時は肩を落とした。
「あんまり驚かすなよ、銀さんびっくりしちゃった」

「そうだよね、何言ってるんだろうね、わたし!」


そして、次の日の太陽が昇る前に、は万事屋から姿を消した。





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なんか急展開過ぎて何が何やら。あと重過ぎた気が。あと長い。