「沖田君、沖田君」
「むあ、どーしやしたぁ旦那ぁ」
「見なかった?」
「は?」
僅かに顔色の悪い銀時に尋ねられて、団子屋でくるみだれ団子をほおばっていた総悟は首をかしげた。
「誰かと散歩中とかじゃねーんですかィ」
「朝起きたらいなかったんだよ」
「・・・・・・・・・・・」
「な、知らない?アイツが行きそうな場所でもいいんだ。最近依頼が立て込んでて構ってやれなくてさ、お前さんメールしてたんだろ?」
「行きそうな所、ねぇ・・・・んー・・さァ、分かんねェや」
「そっか・・悪かったな」
「見かけたら連絡しまさァ」
「助かるわ。今度奢らせて」
そう言ってかけていく銀時の後ろ姿を眺めながら、そう言う今日は仕事はないのだろうか、なんて総悟は息を吐いた。
「行っちまったぜぃ」店の奥に呼び掛ければ、恐る恐る顔をのぞかせる少女。
「ひとりで散歩たァ珍しーと思ったが、家でかィ」
おうい姉さん、コイツにもおんなじの一本くんな。あと、お茶。
店の看板娘に呼び掛けながら、総悟はに向けてちょいちょい、と手招きをした。
**嫌いの反対は好き?**
あーちくしょう。どこ行ったんだよ。
銀時は行くあてもないのに、全速力でかぶき町の道を走りまわっていた。
ああ見えてアレは猫のようなもので、路地裏や物影、狭いとこなんかが好きだ。その上身体能力は並み以上。
この街のどこかに隠れているとして、どこにいるのかなんて全然分からない。・・・・隠れているとして。
朝起きれば、真っ青になった神楽と新八が「がいない」と言い、本日の依頼をほっぽり出してこうして探しているのだが。
否、依頼は新八と神楽が二人でこなしている。のいそうな所を探すのが銀時が適役だったから、ひとり外して貰ったのだ。
そしてこうして先ほどから探しまわっているのだが・・・・。
くそう。ぎりり、と奥歯をかみしめる。
最近の体調の変化や、子供をつくれだのその後の反応だの、不自然な点はたくさんあったはずだ。
まさかアレ、本気だったのか?
恥ずかしそうに、困ったように笑いながら「変な事言ってゴメンね」と歯を見せるは、
その時は「変な事」を教えた総悟に対して腹の内で文句を言ってるとか、そんな適当な解釈をしていたのだが、
・・たしかに、捨てられた子猫のように、酷く悲しい目をしていた気がする。
本気でも応えてやれる自信はあんまりないが(だってどんだけ年は慣れてると思って)、それにしても言い方ってモンがあったはずだ。
・・・悩んでるのか?
・・・・・・。
後悔しているのか。
・・そうだ。ただの転がり込みの居候だったあの少女がいなくなっただけで、こんなに落ち着かない。
自分のせいで、大切な者が出て行ってしまったと。
アイツは確かに、俺にとって大切な存在だった。原因はコチラにあれど、自分の意思で出て行ったはずのあれを未練たらしく追いかけるくらいには。
悩む事はない。方法はある。
方法・・・・・いったいどんな?
何をいまさら・・・簡単な事だ。
「攘夷志士になれば、お前も簡単に幸せになれるぞ銀とkごへらッ!!」
「ナニ人の心の中の葛藤に勝手に入りこんで来てんだテメーはヅラァァァ!!かなり初期から紛れ込ませて来てただろ今の!!」
「ヅラじゃない桂だ」
「つかなにお前追われてんの?やめてくれよ知り合いだと思われる」
「桂ァァァァ!!」
ちらりと後ろを伺えば真選組のパトカーがこちらに猛スピードで突っ込んで来ていた。運転席には鬼の副長の姿。
隣の助手席には山崎が青い顔をして土方に何かを叫んでいる。恐らくは「スピード出し過ぎですよ!」後部座席から近藤も顔をのぞかせている。
何故そんな詳しく分かるのかと言えば、本当にそこまで見えるほど、猛スピードのパトカーは近くまで迫って来ていたのだ。
市民を轢き殺す気かお前らは!
「くらえやァァァァァ!!」
器用に片手でハンドルを操作しながら窓から半身を乗り出し、反対の手でバズーカを構える土方。
その照準には、間違いなく指名手配犯の隣を走る自分も含まれているような気がして、銀時はさーっと血の気が引く。
ちらりと隣を走る男を見やれば、桂は「ではさらばだ!」なんてぺろっと舌をだした。こちらはガチで引いた。
ばっ、と桂が腕を広げると、体を覆うように凧(ちなみに柄はエリザベス)が現れる。忍者とかが良く使うアレだ。
それと同時に土方の撃ったバズーカの弾が足元に着弾し、爆風で桂小太郎は大空へとはばたいたのだった。
ギャギャギャギャ!という車のブレーキ音。
立ちこめる爆煙の中運転席から飛び出してきた土方は大空に舞うエリザベス(柄の凧)を忌々しげに眺めながら舌打ちを打つ。
「チッ、逃げられたか・・・相変わらず逃げ足の速い奴め・・!」
「トシ!トシ!一般市民はね飛ばしてるから!」
「旦那ァァァああああ!!生きてますか?!副長!スピード出し過ぎですってば!」
血を吐きながら地面に転がる銀時は、目の前のにっくきニコチン中毒者を苦々しく睨みあげた。
今しがた気づいたかのように土方は銀時に視線を落とす。とってもムカつきますはい。
「なんだ、いたのかテメェ」
あんな馬鹿でも攘夷志士のトップが務まるし、こんな狂った奴等がこのお江戸の治安を守っている。
そして、自分はこんな風にパトカーに撥ねられても死なないのだ。
全く、この世界はどうかしている。
「そうご、わたしと赤ちゃん作って」
ぶっふうぅぅぅううううう!!!!
18歳ともなるとそろそろ大人だ。大人から見たらまだまだ子供かもしれないが、18も20も正直変わんないと俺は思う。
そんな大人な沖田総悟が、あろうことか口に含んだ茶をすべて吐き出し、イヤ喉を通ろうとしていた分もだな。因みに手に持っていた湯呑みは粉砕しました。
口や鼻から「残骸」をぽたぽた垂らしながら、げほげほと、呼吸困難に陥っているわけですよ。
「・・・・・なんで?」
「・・・ぅ・・・!」
「理由聞いただけだろィ!?泣くな!」
イヤ、コイツの考えそうなことくらいなんとなくわかる。けしかけたのが自分なだけに、いや、けしかけたつもりはなかったのだけれど。
まさか、旦那にもそう言ったのか?そして駄目だったから家出?餓鬼か!・・と言いたいがそこまでは分かる。
何故俺?!誰でもいいのかお前コノヤロー!
・・いや、そんなことはないだろうとは思うし、“ぎんちゃんの次”が自分なら、光栄なことこの上ないのだが。
気の利く団子屋の娘が慌てておしぼりを持って出てきてくれたので、そちらに右手を差し出す。
手についたお茶や湯呑みの破片を吹きとってもらいながら、総悟はゆっくりを振り返った。
「そうごもわたしなんてイヤ・・・?」ぽろりと女の武器を零しながら見上げて来ると目が合う。
えぇぇぇ・・・!?と総悟は心の中で情けない声を出した。
いやいや、別にイヤって訳じゃねェけど、でもあれ、赤ちゃんって、・・・・・・あー、うーん、赤ちゃん・・・子供か・・・。
・・・残念ながら、少なくとも今の自分にそんな甲斐性はない。
団子屋の娘は看板娘にしておくにはもったいないほど優秀で、既に総悟の隣には新しい湯呑みに湯気が立ち上っている。本当、何モンだあの娘。
「とりあえず、それ食いなせぇ」
無様な振られ話に華を咲かせるのはそれからだ。めいっぱい笑ってやるから。
そんな皮肉いっぱいなセリフをため息交じりに吐き出せば、くすん、と鼻をすすって、少女は素直にくるみだれ団子に手を伸ばした。
「いたのか、じゃねぇよォォォ!!死ぬとこだったわ!!」
「チッ」
「舌打ちしてんじゃねーよ!!てめー俺様に借りがある癖にコノヤロー!」
「借り?借りって何です」
「うっせーなァ、その件ならこれでチャラだ。今日にでも寄ろうと思ってたんだよ、たく・・・警察脅してんじゃねェよ」
懐から取り出した大封筒を銀時に投げつけ、土方はやれやれと息を吐きながら新しい煙草をくわえた。
「結構大変だったんだぜ?それ手に入れるの」
「おおー、はね飛ばした分はチャラに出来ねーけどありがとう多串君」
「どうしようザキ、俺ら付いて行けてねェよ!」
「こんな協力的な二人・・・キモイ!」
「「うるせえ」」
「なぁ・・・、見てねェ?」
「イヤ」煙草に火を付けながら土方が目を落とせば、銀時は早くも受け取った封筒の栓を破いて中の書類を取り出し眺めていた。
「どっか行ったのか?」返事はない。無言の肯定と言う奴か。「総悟には」「さっき聞いた」
「その書類にヒントになるような事は書かれてねーと思うけど」
ふう、と煙を吐き出せば、灰色のそれは渦をえがいて空へと消えた。
「って、副長、この書類・・!」気づいたように山崎が声を上げる。
銀時の持つ封筒の表には『宇宙警察資料複写』と書かれていた
昔々、宇宙の果ての果てにとある獣の天人が住んでいて、彼らはとっても美しい鳴き声を持っていた。
その美声を気に入った他の星の天人が遺伝子操作を施して生まれた地球人とのハイブリット、それがたちの種族である。
もともと短命な美声を持つ天人は地球人をかけた事によって寿命は延び、鈴の音が響くような歌声だけではなく言葉を操る能力も得た。
現在は宇宙警察に見つかってしまったために中止されてしまったが、この研究はまだ発展途上だった。
効率良く愛玩動物・・・「籠の鳥」として繁殖させるために解決すべき問題が二つあったのだ。
ひとつはメスの個体が生まれにくくなってしまった事。
これは生命の繁殖に置いてあり得ない事であるが、遺伝子をいじくった副作用だろう。
そしてもうひとつ。体が生殖機能を持つ機関が、人間と交配した事によっても変わらなかった事である。
「どーだった団子は」
「美味しかったー」
その頃総悟は、ようやく落ち着いたと江戸の道をぶらぶらと歩いていた。おしゃべりしたかったから、一応一通りの少なそうな道を選んで。
初めて食べたくるみだれの団子をは気に入り、朝食前に飛び出て来た事もあってぺろりと2皿平らげてしまったのだった。
「ぎんちゃんにも食べさせてあげたいなぁー」なんてぽつりとが零して、ハッと気づいてしゅんとする。
そんな様子を横目で見て、隣を歩きながら総悟は目を細めた。
この娘は「ぎんちゃん」が世界で一番。
ちなみに二番は「おねーちゃん」、三番は「しんぱち」。
でも、「ぎんちゃん」関連で悩んだ時は総悟に来る。
前にもあった。
自分の正体がばれそうになった時、万事屋を面倒事に巻き込みたくなかったからそれを隠したかった時、この娘は自分を頼ってきた。
振られた!=もうぎんちゃんを好きでいちゃいけないんだ、みたいな構図がそのすっからかんの頭に出来上がってるらしいその娘に、
自分にしとけよ、なんて言いたい気持ちもほんのちょっとだけ無きにしも非ずだが。
「なァ、」
「ん」
「今この時点で、旦那と俺、どっちが好き?」
「ぎんちゃん」
「くくっ・・!そーかぃ」
「・・・なあに・・?」
お前はおもしれー奴だなァ。ひひひ、と歯を見せて笑いながら、総悟はちらりとを見やる。
即答かィ。
「アンタが旦那を嫌いになるなんて無理だよ」
「でも・・」
「あのな、いいこと教えてやろーか」
「おんなじ奴に二回告白しちゃ駄目って決まりはないんだぜィ」
その言葉に、ふわりとの表情が和らいだ。
つかアンタ告白の仕方下手過ぎ。てか行動もアホ過ぎ。
どうしてもって言うなら俺が告白の仕方レクチャーしてやっても良いぜィ。ただし、授業料はたんまり頂くがなァ。
・・ふふ。そうご、そういう企み事とか計画事得意だもんね。
そんな声が下から聞こえてきたもんだから、ふっと息を吐きながらそのおでこにデコピンをくらわせてやった。
「授業料って、また変な事考えてるんでしょー」
「合ったり前でィ。普段は手加減してるがお前にやらせてみたい事がこちとら山ほどあるんでィ」
「ええー」
二人で笑いあえば、前方から対向者が近づいてきて、は口を閉ざす。
心の中でちぇ、と舌打ちを打った総悟は邪魔すんじゃねェなんて逆恨みをその歩行者に向け・・・・・・ようとして、ぱちぱちと瞬きをする。
そして、にやりと口角を持ち上げた。
二人組だったその歩行者らが通り過ぎるのを見計らって、ちょいちょい戸の肩をつつく。
「そーそー、授業料でああいうのやりたい」
(えー?!)
「ひひひ」
声には出さずともの抗議の声が聞こえた気がした。
綺麗で透き通ってて、鈴の音が響くような音。その声で歌う歌は思わず眠気を催すような・・。
「いーじゃねーかぃ、言っとくがポジションは、ぎゃ・・・・く・・・・・・・?」
ばた。
会話の途中でふわりと意識を持って行かれ、総悟はひざから崩れ落ちた。
「『』」
びくり、振り向いたは目を見開いて動けずにいた。驚きで言葉も出ない。
相手がの名前を知っていたからではない。総悟が突然倒れてしまったからではない。
その、
自分を呼ぶ、声が。
「今はそう呼ばれてるんだってね。良い名前じゃない・・・・『験体5425』」
そう言ってくすり、と笑うのは、と同じくらいの身長をした少年だ。ダークグレーのショートヘアがところどころ跳ねている。
彼の首には白い革の首輪。そこから伸びた鎖は隣にたたずむスーツの女性の左手首のリングに繋がれていた。
じり・・・無意識に後ずさる。ジワリと浮かぶ汗。
しかしそれは少年の言葉によって阻まれた。
「そのおにーさん、」
「真選組の隊服だね、顔見知りだったとは意外だな。彼らは、僕たちも相手したくない」
「・・・・・・」
「流石の真選組も、まさかこんな風に奇襲される訓練は受けてなかったみたいで良かったよ。眠らせてしまいさえすれば、どうだって出来る」
「!」
少年の視線を受けてすらりと剣を抜いたスーツの女性に、は青くなって総悟に駆け寄り、その首元に抱きついた。
「ね?いい子にしてたら、そのおにーさんには何もしないよ」
にっこりと、少年が笑う声が鳴った。
「付いてきてくれるよね?」
それは、鈴の音が響くような ―――――――― 、
「僕と、・・・・・・・・君を、“落札する予定だった”、ご主人様のもとへ」
>>next>>
急展開!そしてオリキャラが出てきてますご注意(事後警告?!)