「銀ちゃん!」
「銀さん!」
万事屋へ戻ると、前の道で新八と神楽が待っていた。
銀時がを連れていないと分かると二人揃ってしゅん、としっぽを垂れる。
しかし、銀時の顔色を見て、賢い二人は直ぐに気を引き締めた。何か、あったんだ。
「詳しい事は中で話す。いったんウチに入れ」
真っ赤な夕日が万事屋の看板をオレンジに照らしていた。
万事屋の中に入ると、居間のソファーに桂が座っていた。
何かを思いつめたような表情で、手に持った湯呑みに視線を注いでいる。
銀時たちにゆっくりと振り向いた彼は、フ、と優しく笑みを零した。
「・・おかえり」
「おかえりじゃねーよ!!なんで当たり前のようにいんの?!ナニ我が物顔でソファー座ってんの?!」
「ヅラじゃない、桂だ」
「言ってねーよまだなんも言ってねーよ!」
「あぁ、俺の事ならお構いなく」
「勝手に茶ァ飲んでるしィ!その茶菓子俺んだしィ!」
**緊急時にこそ餅つけ、オチつくな**
銀時の話を聞いた子供たちの開口一番の言葉は、「のんびりしている場合か」だった。
攫われてしまったは、明日のテロ騒ぎに紛れて宇宙の遠くへ連れて行かれてしまうのだ。
「時間がないなら、早く探さなきゃ!」
「あっちのドSもこっちのドSも使えねー奴ばっかりアル!行くヨ、ドM!」
「オィィィィィ!ドMって何だよ!もしかしてメガネ?Mガネの略?!」
「落ち着けガキ共・・・チッ・・ババか」
言いながら銀時は二枚のカードを丁寧に良くシャッフルする。
目の前の桂との「二人ババ抜き」は、最終局面を迎えていた。
「何やってんだァァァァァアア!!」
ばっしゃぁー!
新八がテーブルをひっくり返す。上に乗っていた捨て札の山は大きく舞い上がってパラパラと舞い落ちた。
あいだにあったテーブルがなくなった今も、銀時と桂は手札をちらちら伺いながら睨み合っている。
桂が口を開いた。
「慌てるな。テロの混乱に乗じて出航する予定ならば、何も手がかりのない今動いても足取りは掴めまい」
「そーゆーことだ」
これだッ!と桂が銀時の手札から一枚カードを抜き取る。にやりとほほ笑む口元。「やるな」
桂が体ごと後ろを向いてカードをシャッフルしている中、銀時は納得いかなさげな新八と神楽に向き直った。
テロ予告が送られてきたものの、その予告状には時刻のみで、どこでどんなテロを行うかが記されていなかったらしい。
恐らく詳しい内容は直前になって知らされる。理由は簡単。警察を掻き回してやりたいのだ。
そしてもう一つ。そのテロ現場の近くをあらかじめ探られるのを防ぐためだ。
つまり、テロ予告の現場の近くに、落ち合う場所があるという事である。
「焦る気持ちは分かるが、今はその時が来た時直ぐに動けるように、身も心も準備しとけ」
シャッフルを終えた桂がくるりと振り向く。手には二枚のカード。
どちらのカードか見極めんと目を細める銀時の後ろで、新八と神楽は目を見合わせ、こくりと頷いた。
子供たちが出て行った居間で、桂と向かい合うようにソファーに腰掛けた銀時が二枚のカードをシャッフルしている。
銀時がひいたカードはまたしてもババだった。畜生、ほら引け、ババを引け。
差し出された二枚をよーく眺めながら、桂がゆっくりと口を開く。
「銀時、」
「今日、・・・・・街で高杉と会った」
「・・・・・・・・!」
自然と呼吸が押し殺された。
表情だけは互いに普段通りやる気のない皮を被って、万事屋の居間の空気は一瞬の間に硬いものになる。
桂の指が一枚のカードを引き抜いた。ババだ。
「へェ、俺を除け者に二人で何話したんだ?」
「会ったと言ってもすれ違っただけだ」
桂は銀時に背を向けて二枚になったカードを混ぜ合わせながら息を吐いた。
脳裏に浮かぶのは数刻前の事である。
ビルの屋上。手すりにもたれかかった包帯の男から、煙草の煙と一緒にかすれた声が漏れる。
『よォ、ヅラァ・・・・』
『高杉・・!貴様・・』
『人のモン“壊す”のは、楽しいなァ・・・』
その男は、心底愉快そうに肩を揺らしながら、にぎわう街並みを見降ろしてくつくつと喉で笑った。
「破壊活動など・・馬鹿な事を」
「そんだけ話しただけでお互いサヨナラたァつれねーヤツらだぜ。斬り合いの一つもなしかい」
「フン・・・生憎こちらも手が離せなくてな」
「ハッ!タコ焼きでも食ってて両手が塞がってたのかァ?」
挑発するような銀時の言葉に、背を向けてシャッフルしていた桂の手が止まる。
ゆっくりと顔だけこちらに振り返った桂は、ぽつりとつぶやきながら目を伏せた。
「タコ焼きではない、・・・・・・
「どんなシチュエーションんんんん!!?」
「何とか真選組をまけたはいいが、あいにく操縦に慣れていなくてな」
「オイィィィィイ!!台無しだよ!緊張の対面が一気にシュールになったよ!!」
逃走用の凧で空中遊泳中にすれ違ったの?!どんなすれ違い方!?
いや「ビルの屋上」ってとこからもう引っかかりはあったけれども!!
つかもうそれすれ違ったっつーか高杉がカッコ付けで屋上から街を見降ろしてたら風に揺られてなんか漂ってきた的な!!
「『銀時にもよろしく伝えておいてくれや』だと」
「そんなシュールな場面でよくそんなシリアスな会話できたな。すげーなお前ら、お構いなしだな!」
それにしても・・・。銀時は苦々しくため息をついた。『人のモンを壊すのが楽しい』?
それは明日破壊する場所なり物なりの事なのか。それともターゲットであると銀時との絆か。
「貴様の番だ、銀時」
目の前に差しだされた二つのカードを一瞥し、銀時は舌打ちを打った。
冗談じゃねえ。
「いででででででで!!」
突然手首を掴まれそのまま腕をひねりあげられた桂が悲鳴を上げる。
その手から零れ落ちた二つのカードは、どちらも「ババ」だった。
「裏でこそこそとォ・・・・・バレバレなんだよ、この詐欺師が!!」
「ち、違うぞ銀時!実はこれは「ババ抜き」ではない、「ジジ抜き」だったのだ!」
「アラ不思議ー!それならとっととあがれやこの馬鹿!さっきからずっと揃ってんじゃねーか!!」
「らーめんって、話は聞いたことあったけど、食べるのは初めてだったね。美味しかった」
「そうですね」
「も食べればよかったのに、もったいない」
広くてふっかふかのベッドの隅っこに膝を抱えて縮こまり、は一言もしゃべらない。
なんとか隙をついて逃げ出したかったのだが、生憎そんなチャンスはなかった。
「ご主人様は、いい人だよ。いい子にしてれば」
ダークグレーの髪をした男の子がすい、と寄って来る。
近づきたくなくて離れようとすれば、それより早く距離を詰められ手首をとられた。
「ねえ、僕、ご主人様に買いとられて良かったと思ってるんだよ」
「逃げ出した君のことでいつもイライラしてたけど。生活は実験室の中よりもずーっとマシ。ご飯もおいしいし、名前も、友達だってもらえた。ねえ、恩返しするの、手伝っておくれよ」
「イヤ・・」
「ねぇ?痛くしないから。やり方も、いっぱい教えてもらったから、キモチ良くしてあげられると思うけど」
「イヤ!」
「もう!」
ぷくう!とほっぺを膨らませて、真っ赤になった男の子は後ろの女の人に抱きついた。
「仲良くなりたいのに。何が駄目?」
「いきなり話が直接的過ぎます。大事な事ですから、簡単じゃありません」
「なーんでぇ。イロイロ教えてくれたのはふぁぃ・・・うぷ」
「・・・・・・・・」
じたばた暴れる男の子の口を仏頂面で押さえつけていた女の人は、ぽかぽかと数回たたかれた後に呆れたような溜息を吐きだして、その手を放す。
その頬は、ほんのわずかに染まっていた。
「きゃぁ!」
急に飛びつかれてのしかかられて、は短い悲鳴をもらす。
飛びついた男の子はの体をベッドに押しつけながら、その耳元で不機嫌そうにつぶやいた。
「ねえ、お願い。良いよって言って。ちゃんとやらないと、叩かれるのはファイなんだ」
「シグ」
「むう」
「そういう事を言うのは、彼女を困らせるだけです」
「・・・なぁんでこういうのは聞こえちゃうわけ?ファイ、本当は耳聞こえるの?」
「貴方の考えることなどお見通しです」
ファイと呼ばれた女の人は、ちょっと困ったような色を含んだポーカーフェイスでに向き直って言った。
「我々としてもなるべく合意の上で行っていきたいのです」
“なるべく”を僅かに強調されたのが、そのうち我儘が通用しなくなる事を遠まわしに言っているのだと感じながらも、
は二人の姿を見て万事屋の住人たちを想わずには居られなかった。
元々言えばが勝手に家を飛び出してきてしまったのが全ての原因。でも。
怒ってるかな。心配してくれているだろうか。
居候がやっと出て行ったって、せいせいしてるのかもな。そんなわけ、ないか。
会いたい。
帰りたいなぁ。
想いを馳せていたが引き戻されたのは、不貞腐れたシグの声だった。
「嘘だあ、それもう超能力者じゃん。じゃあ、今僕が何考えてるか当ててみてよ」
「はいはい」
ファイは立ちあがると壁際のボタンを押した。
そのボタンは照明のスイッチだったらしく、一気に部屋の明かりが小さくなる。
「もう寝ましょうか。今日はたくさんはしゃいで疲れましたもんね」
返事がなかったという事は、見事正解だったという事なのだろう。
>>next>>
ここにきてまさかのギャグ回、いやカオス回?ギャグってほどでもない・・のか?