とある宿の一室にて、その男は派手な紫色の着物を着崩しながら、窓から見える空を眺めていた。
ここ、江戸の中心部は背の高いビルが立ち並んでいて、昔と比べて随分と狭苦しくなってしまった空は余計に狭く見える。

そんな高層ビル達に囲まれる中、ただ一つ目立たずひっそりと経営している古ぼけた宿。そこを男が利用している理由は、隠れ家としてぴったりなのと、江戸の中心部である事、
そして、部屋が畳だという事である。
高級ホテルのふかふかのベッドも悪いとは思わないが、やっぱり畳が落ち着く。
窓の外は、江戸の中心街なだけあってにぎわいの声が飛び交っていた。

曇天。昼間だというのに薄暗い中電気もつけずに、
男は懐から取り出した煙管に火をつけ、紫色の甘ったるい煙を宙へと吐き出した。

その口元を、僅かに歪めながら。


「俺は、この腐った世界を、」







**ただ、壊すだけの厨二**







『こちら10番隊。最後のフロア客の移動、完了しました!』
『こちら6番隊!従業員も全員避難完了!怪我人ありません』
「ご苦労。だが全員油断はするな、気を引き締めろ。いつヤツが現れるやもしれん」
『『ラージャ!』』

江戸中心部にそびえ立つ最高層ビルディング、「大江戸センターシティービル」。
その接客の豪華さは江戸の中でも群を抜き、
多くの星のセレブ達が訪れバカンスを楽しんだり、また天人の主要人物達が交渉を結ぶ場として利用されている。

土方をはじめとする真選組の面々は、この「大江戸センターシティービル」を苦々しい表情で見つめながらたたずんでいた。
ビルの一角からは鼠色の煙が上がっている。
大した損傷ではなかったが、ビルの一部が突然爆発したと通報が入ったのだ。
時計の針が正午を指す、半刻前の出来事だった。


「真選組の頭脳」土方十四朗率いる真選組の手並みは、それはそれは見事なものだった。
まるで予想でもしていたかのように颯爽と駆けつけ、的確な指示と統率された動きで、
怯える客人の天人達を、優しく、厳しく、時に刃で脅しながら瞬く間に避難させてしまったのだ。
滞在途中の観光天人、商談途中のセールスマンたちは、速やかに向かいの(江戸で二番目に)最高級ホテルに移動させる。
天人達へのアフターサービスも完璧だ。

「チッ・・・上層部め・・・いつもこんくらい素早い対応みせろっつーの」
「あはは・・今回は商売相手の天人が多いに関わってきてますからねぇ・・あらかじめテロが起こるって言うのが伝わってたからってのも大きいんじゃないですか」
「都合のいい奴らめ」

「大江戸センターシティービル」を追われた客人たちの臨時の受け持ち先として利用された最高級ホテル(大江戸プリンスホテルなんていうらしい)は、幕府の上層部が緊急で用意してくれたものだ。
苦笑いで山崎が零した通り、状況が状況なだけに今回は助かったが、その動きだし、判断の速さを普段からもっと発揮して欲しいところではある。
まあ、そのおかげで20分足らずでスムーズに避難を完了できたのだから、今回は幕府さまさまだ。

「おかしいな・・」
「何がだ、トシ?」
「テロだよ。ヤツがこんなもんで満足するワケがねェ。そもそも予告しといて時刻より30分も早く起爆するなんて不自然だ」
「うーん・・・予定が変わったんじゃないか?爆弾だって、上手く連鎖しなかっただけじゃねェの?」
「相手はあの高杉だぞ?油断はできん」

「もうビルを爆破する必要がなくなったから、じゃないですか」
恐る恐る山崎が口をはさむ。
もともとこのテロは宇宙船の出向をごまかすためのもの。
つまり、この状態が意味することは、高杉は既にターゲットと合流してこの星を後にしている、と言う事ではないのか。

「・・・その可能性も、ないこともない、な・・」

口ではそう言いながらも、土方の表情は浮かばれなかった。
政府が最も危険視するような人物が、破壊と破滅を求めるあの男が、こんな行動をとるとは思えない。少なくとも自分だったら絶対にしない。


「いいや、その可能性は、ないこともないことはありえナイ、だな」


顎に手を当てて考え込む土方の後ろから、こちらのやる気も抜けてしまいそうな間延びした声が響いた。

「!旦那!」

振り向いた先にいた銀髪の侍は、ぼりぼりと頭を掻きながら不満げな顔をこちらに向けた。
アイツがそんなんで満足するわけねーだろーがバカヤロー。





「騒がしくなってきたね」
たっぷりバターの塗られたトーストを頬張りながら、ぼさっとはねたダークグレイの髪が欠伸交じりに零す。

「ほら、も、早くご飯食べて、支度、して、むぐ」
「シグ。食べながら喋るものではありません。ほら、腕」
「ふい」

既にスーツに着替えた女の人が上着を差し出す。それに袖を通しながら、男の子はちらりと時計を見た。

「もう20分で出発だね」
「そうですね。はい、歯、磨いて」
「はい」
「ほら、あなたも」
「・・・・」

「申し訳ありませんが、逃げられるなどと思わないで下さい」
鋭く睨まれて、はぐぅ、と拳を握る。
ごそごそと鞄から取り出した「首輪」をにはめながら、男の子が言った。
「ちょっと痛いけど、我慢してね」


「           」


「!!」

「ごめん。落ち合う時に騒がれて目立っちゃ悪いからさ」
声、でないでしょう。
男の子の、鈴の音の響くような声がくすりとはねる。
「あ、今の、合言葉ね。っても、君は声が出ない状態だから、自分じゃ解除できないんだけど」
「合言葉」に反応して突然首輪から付きだした針は、声帯のツボをついたらしくだそうとしても声が出ない。

ぴたり、と喉元に付きつけられたのは、銀色に輝く細みの剣先。
男の子が後ろに回って、の手をまとめロープで縛っていく。
ばさり、とオレンジのポンチョをかぶせられ、腰に固定された両手を隠す。どこからどう見ても普通の子供だ。
縛られているなんて誰が疑うだろう。

「10分後、出発します」

ポーカーフェイスの女の人が硬い声でそう言えば、男の子は頷いて、緩やかにほほ笑んだ。





「さーて。あのビルがテロのビルね」
「この近くにがいるアル!」
「やみくもに探しても駄目です。上手く混乱に紛れ込める場所を探さないと!」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ旦那!」

細い煙を上げるビルを一瞥し、きょろきょろとあたりを見回す(突然現れた)万事屋に、山崎が食いつく。
なんで高杉がこれでテロを終了する可能性が「ありえナイ」なのか。どうしてまだ出航していないと言い切れるのか。
それには答えずに、銀時は土方に向き直った。
ただ、心の中では「あたりめーだろがこちとらてめーらよりあれとの付き合いなげーんだよ」なんて思いながら。

「アレ何」
銀時が差したのは、爆発が起こったビルの向かいにある高級ホテル「大江戸プリンスホテル」。
「なんであそこにもお宅らの仲間がいんの?」

「爆破が起こったビルから追い出すことになってしまった人を、一時的にあのビルに避難させてるんです」
「何人くらい?」
「えーと・・」

「200人弱でさァ」

振り向くと薄茶色の髪の少年が相変わらずの読めない表情で立っていた。
そのポーカーフェイスが僅かに揺らめく。
銀時は気にはしていなかったが、少年は銀時、神楽、新八をちらりと見やって、居場所なさげに視線をそらす。
それを見て神楽は、ケッ、と吐き捨て、ぷいっと顔をそらした。

「うざいアルお前」
「うるせェや」
「男ならやられたらやり返せってパピーが言ってたネ」
「あっそ」
「おーい神楽ヤメロ」

急な増客。混雑した向かいのビル。上出来じゃないか。
新八と神楽に視線を向ければ、二人とも心得たとばかりに力強く頷いた。
は、おそらくそこにいる。

「オイ、チャイナァ・・」
駆け出そうとした瞬間呼びとめられた神楽は、でもこいつのために立ち止まってやる義理もないし何よりドSとではを選ぶに決まってんだろうコノヤローな気持ちで視線だけで振り返った。

「言われなくとも」
「・・・そーかヨ!」



ぞくり、と。
一瞬のことだったが、背中が粟立つのを感じた。
見つめる、なんていうよりは、睨みつける、の方が正しいような。
前を走る銀髪の侍を追いながら、神楽は自分が笑っている事に気づく。

んべっ、と、誰に対してでもなく舌を出した。


の友達に腑抜けはいらないヨ!
腑抜けが染る!!







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腑抜けは染るそうです。