「お迎えにあがりましたよ、コノヤロー」

大江戸プリンスホテル最上階スイートルームの一室。
その入口を塞ぐように立つ銀髪の男は、鳴り響く備え付け電話を見やり、不敵にほほ笑んだ。

「電話、とらなくていーのォ?」

鳴り響く電話に見向きもせず、二人の子供を後ろにかばったスーツの女性がすらりと両手に抜いた刀を体の前で交差させる。
もっとも、彼女には電話の音は、例えでなくて本当に聞こえていないのだけれども。
銀髪の男は右手に持った木刀は構えもせず、スーツの女性の奥の少女に向かって笑いかけた。

「遅くなって、ごめんな」

ぎんちゃん・・・!!強く心の中で囁いた音のない言葉は、きちんと相手に届いたよう。
それと同時に、の首輪に繋がれた鎖がぐい、と、隣に立つ少年によって引っ張られた。

「そいつを返してもらおうか」
「それは出来ません。この子は元々旦那さまが落札された商品です」
「商品だなんて言ってる奴に大事な家族を大人しく渡すと思うか?」
「家族・・・そうですね・・、シグ」

「・・・娘さんを、僕に下さい」
「やらねーよ!!どんなプロポーズゥゥゥ!!?」

思わずツッコミを入れてしまった銀時は、はあ、と大きく一息吐いてから、真剣なまなざしを向ける。


「俺とそいつは、ずーっと一緒なんだよ」


何回か鳴った電話のコールは、いつの間にか消えていた。
その代りに。
張り詰めた空気を一瞬で台無しにするようなやる気のなーい声が、ホテルの全スピーカーから響く。

『旦那ァー。このビル爆破されるみてーなんでさっさとアレ捕獲して出てってくだせェ』

・・えぇ?







**いろいろなモノがぐるぐると回り出すこの時**







「いっつぁ!」
「アホかァァァァァ!!何してんだテメーはァァ!」
「何って・・・旦那らに教えてやろーと思って」

ようやく追いついた土方に後ろから拳骨を振り下ろされ、頭のてっぺんを押さえながら総悟は背後を睨みつける。
お前はただの馬鹿か!?いや馬鹿なのは知ってるけれども!

「大急ぎで客を避難させなきゃいけねェのに、なにややこしくしてんだお前ェェェ!」
「急いでるなら一石二鳥でさァ、土方さん。これで俺らが動かなくても客らは自主的に避難しまさァ」
「自主的に館内大パニックだよコノヤローォォォ!!」
「副長!予告時間まで10分です!」

ちィッ!!
咥えた煙草をぎり、と噛みつぶし、真選組副長は声を張り上げる。
「1番隊と2番隊は外で高杉を警戒、3から8番隊は一般客の避難に当たれ!」
「多少乱暴になっても構わん、どうしよーもねェ奴は気絶させて放り出せ!」
「残りの隊はビルの外にマットの準備!間に合わんヤツは飛び降りさせる!近藤さん!!」

「よォし、オメーらァ!!一人も死なせんじゃねーぞォォォ!!!」
「「おおおおおおおお!!!」」
「いけえぇぇぇぇえええ!!」

土方の目線に答えて近藤が隊士達に喝を入れるとともに開始の合図を行う。
それだけで隊全体の気迫が見違えるほど変化した。
やはりこの男は漢(のみ)に通じるカリスマを持っているようで、自分の役目もきちんと理解している。
言いようによっては、お互いの足りないところを補い合う良いコンビ。
そんな真選組のトップ二人は、一度だけ互いに視線を合わせた後、大きく頷きあって、それぞれの持ち場へと踵を返した。


一気に息を吹き返したようにてきぱきと動き始めた真選組を、少し離れた高い位置から見降ろしているひとつの影があった。
ほほう、と掠れた声が漏れる。

「思ってたより随分と優秀なヤツもいるじゃねェか・・・真選組・・・」

くくっ、と頬を歪ませる。
その影は動きまわる黒い隊服の男たちを楽しそうに見降ろし、にたりと目を細めた。




「へぇぇ・・あっちのビルを囮にこっちを爆破する予定だったとはなァ」
「・・・・・・・・」
「この混乱に乗じて逃げるつもりだったってワケか。まァこんな土壇場じゃァ宇宙船ひとつ出航するのにも構ってられねェだろうなァ」
「・・何が言いたいのですか」

銀時の言葉にスーツの女性・・・ファイは、怪訝な顔で鋭い視線を送る。
目の前の銀髪の男が言っている言葉は分かる。が、言っている意味が分からない。
耳が聞こえないが、唇の動きで相手の言葉を理解する彼女は、喋り手の顔が見えない館内放送は聞きとりようがなかった。
しかし、彼女の背にかばわれながら、癖っ毛の少年・・・シグは首をかしげ眉をひそめる。
このビルを爆破する事が本当だとしたら、それは打ち合わせとは、違う。

協力者、高杉晋介との落ち合う手順はこうだった。
本日、江戸の中心の「大江戸センターシティービル」が小規模な爆破テロによって爆破。
真選組と呼ばれる対テロ用武力警察は、幕府の重要人を介して裏で仕組む事によって、避難客を一時的に向かいの「大江戸プリンスホテル」に避難させるだろう。
そして、急な増客でごった返した混乱に紛れて、「大江戸センターシティービル」が大きく爆発するのを合図に屋上で落ち合うと言う予定だったのだ。

そもそも、最初の爆破のタイミングからして予定とずれていた。
そして、この部屋の時計は、現在11:59を指している。ホテル内はどたばたと騒がしいが、向かいのビルが大きく爆発する様子は、ない。
ぎゅ、とスーツの裾を掴めば、スーツの女性が目線だけを寄こして、目が合った。

「このビルは、爆破するんだね」
「おーそうだ。アイツらの鼻なめてちゃァ痛い目見んぜ」
「・・まさか」
「銀さん!」
「銀ちゃぁん!は、はいたアルかぁ!」

スーツの女性が少年と銀髪の男の会話から何かを悟った瞬間、部屋の扉の外から新たに二つの影が飛び込んできた。


!!」
ちゃん!」
「・・・・!!」
「お前・・・声が出ないアルか。・・お・・まえらァァァ!絶対許さないネ!!」

うごあああああ!なんて女の子は絶対上げないだろう的な雄々しい雄たけびと共に、神楽は流星群のように大量のスリッパを投げつける。
しかし、それらはすべてスーツの女性のもとに届く前に撃ち落とされた。
細みの刀身に、二刀流。剣の腕はなかなか。
最後の一つを撃ち落とした直後に、弾かれた様に女性はサイドを睨みつける。
そこには、既に距離を詰めた眼鏡の少年が大きく振り上げた竹刀を振り下ろす直前だった。

がきん!

こちらは真剣に対し、竹刀とは思えないような重い一撃に、スーツの女性の顔が顰む。
片方の刀で何とか横からの攻撃をしのいだ彼女の手から、その刀がずり落ちた。
すかさず二発目を打ちこまんと竹刀を振り上げる新八に、スーツの女性はもう片方の剣を床に思いっきり突き刺す。
そしてその柄を両手でしっかり握って、剣の上で逆立ちをするように体を逆向きに持ち上げ、振りあげた頂点にある竹刀を蹴り飛ばした。
驚きに眼を見開く少年の腹に、そのまま回転を活かした蹴りを入れる。
一瞬の出来事だったが上手く両手でガードした新八は、入口の方へと吹き飛ばされた。

「新八!」
「平気!」

飛ばされざまに拾い上げていた竹刀を再び構えて、新八がガバリと起き上る。
落ちた刀を拾い上げ、突き刺した刀を抜きながら、スーツの女性は万事屋三人を睨みつけた。

「どいてろ」

今度こそ木刀を真っ直ぐに構えた銀髪の男に、ファイは苦々しくため息を吐いた。
今の二人も中々、二人同時に相手にするには骨の折れる相手。そしてこの男は、今の二人を足した強さでは足りないだろう。
「もう、けがしないで」
耳は聞こえない筈なのに、自分の背から心配そうにつぶやく男の子の声が聞こえた気がした。聞こえない筈なのに。
思わずくすりと笑みが漏れてしまった。

「シグ」

「もし、私と・・・・・」

その言葉を遮るように、
ビルのどこかが爆発し、爆音とともに床が大きく揺れた。





!」

突然の揺れに、両手を後ろ手に縛られバランスの取れなかったはうつぶせに倒れ伏した。
その体はすぐに抱き起こされる。
大好きな人の腕によって。
例え一回や二回、三回四回拒否されたって、ぜーったいに嫌いになんてなれない、大事な、家族。

数日前万事屋を飛び出してきた時は、次会う時はどんな顔して会えばいいのだろうなんて考えていたのに。どんな冷たい表情で見降ろされるのかと肩を震わせていたのに。
見上げた銀時の表情は凄く優しかった。優しくて、すっごく、あったかかった。

「こーら!泣くのは後だ」

きゅっ、と鼻のてっぺんをつままれ、力強く抱きしめられた瞬間に再び大きな爆発音。再び揺れる地面。
片手でを抱え、もう片方の腕で柱にしがみつきながら、銀時は新八と神楽も無事かを確認する。
ちらりと見やった窓の外は、遠くの方を飛ぶ黒いハンググライダーが見えた。
誘拐犯たちは、結局ターゲットは置いて窓の外に逃亡したのだ。

ドーン・・・
またもや鈍い音。先程の輩のようにハンググライダーでもパラシュートでもない限り、最上階の自分達が助かるのは容易なことではない。
畜生が・・!
ぎりり、と奥歯をかみしめて、銀時は再び窓の外を見た。下の方では真選組がマットを敷いて飛び降りる人間のフォローをしているが、ここまで高いところからでは十分な効力は望めまい。パトカーにひかれても死なない自分はともかく、残りの3人は。
何か手はないかときょろきょろあたりを見渡す銀時の視界に、先ほどの黒ではない、真っ白な何かが“漂って”・・・・・・・・。

「・・・・・・・・・」

思わず力が抜け過ぎて、腕に抱えたを落とすところだった。
銀時が必死に最上階から街を見降ろしているところに風に揺られて漂ってきたのは、

真っ白な、

気球。

「ヅラァァァァアアア!!!」






腕の中で震える小さな男の子を、黒いスーツの女性は優しく撫でていやっていた。
彼女のそばには脱ぎ棄てた黒いハンググライダー。無事に着地は済んだはずなのだが。

「シグ」
「・・・・・・」
「・・・もう、いい加減に」

「笑うの止めなさい」
そう零した女性の方も、苦々しくも緩やかにほほ笑んでいた。
腕の中の少年は、肩を震わせて笑っていた。
『・・・・シグ』


『もし、私と・・・』
『二人で一生逃亡生活なんて、イヤですか』


「面白い事言うんだね、ファイは」
ダークグレーのはねっ毛を揺らしながら、女性には顔を見せずに、地面を見つめたまま少年は口を開く。
「この任務、本当は必要ないのに僕がこっそりついてきたのは、なんでだと思ってたの」
ずっと一緒にいたいからに、決まってるでしょう。


「・・そーですか。それは本当に・・・・、良かったですねィ」

「えっ?」
「アンタら二人とも、これから仲良く一緒に牢の中でさァ」

ぴくりと顔を上げて視線を向けた先には、
薄茶色の髪をなびかせながら、黒い隊服を着た一人の青年が静かにたたずんでいた。
瞳の色は吸いこまれそうな暗い赤。

「真選組一番隊隊長、沖田総悟」

その大きな瞳の中で、瞳孔が、すぅ、と細められた。


「先日の礼、・・・・きっちりと返させていただきやす」







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沖田さんキター。あの、全体的にカッコいい感じで妄想しながら読んで頂けると・・・orz