黒いレースをあしらったチェックのワンピース。
少し癖のある髪は、結んで両側におちょんぼになって揺れている。
長年染み付きうっすらと残るクマは、それも女の秘密へ―き「お化粧」でいとも簡単に隠れてしまうのだ。
真っ黒で大きな瞳をくるっと傾けて、サンダルをはき終えたは隣の神楽に抱きついた。
「行って来るアル銀ちゃん!」
「ぎんちゃん!いってきまーす!」
「おーいってらっしゃい」
ぎゅぅぅぅっ、っと神楽にしがみついて万事屋を出ていく。
そんな2人をたいして興味ないような体で見送った銀時は、
万事屋の窓から見える通りを歩いて行く二人を見降ろしながらくくっと息をもらした。
まぁったく、可愛らしいガキ共が。
**どこの親も考えることは一緒**
それまではぴったり神楽にへばりつき、もじもじしながら一言も発しなかったは、目的地に着いた途端にぴょーん!と飛び上がって待っていてくれた人物の胸へと抱きついた。
「あねごぉー!」
「いらっしゃい、ちゃん、神楽ちゃん。あら、ちゃん、今日は可愛らしいのね」
「しんぱちにやってもらったのよ」
「まあ、新ちゃんに?」
「気を付けた方がいいアルよあの眼鏡。ロリコンの気があるかもしれないヨ、姐御」
「あらあら」
にやりと笑って、新八本人が聞いたら大声でツッコミが入りそうな誤情報を吹きこむ神楽に、お妙はくすりと笑った。
弟が万事屋の可愛らしい仔猫を妹のように可愛がっているのは知っている。そしてこのチャイナっ子のことも。
神楽も本気で言っていないことをちゃぁんと読みとって、その上でにっこり笑顔のままお妙は言った。
「心配ね。最近幼女ポルノに関する法律が厳しくなったみたいだし、摘発されたら大変」
「違ぇからァァァァァアアアあああ!!!」
今度こそ、彼女の弟の見事なツッコミが、ここ恒道館に高々と響き渡った。
「美味しいお煎餅頂いてあるの。食べる?」
「「わーい食べる!」」
道場の縁側に腰掛けて、並んで煎餅を頬張ると神楽を見て、新八は穏やかなため息を吐く。
それに気づいた彼の姉は、彼の気持ちを代弁するかのようにぽつりと零した。
「二人でも、ちゃんと来れるようになったのね」
は極度の人見知り・・・というか、逃亡生活が長かったため他人に対する警戒心が高い。
最初の頃なんて押し入れから出てこず、神楽以外の手からじゃご飯も食べてくれなかった。
やっと出て来るようになったかと思っても、銀時の姿を見た瞬間風のごとく押し入れに飛び込んで行ってしまうなんて事も。
万事屋から外には一歩も出ようとしない。
それでも神楽の熱心な説得によって、万事屋3人全員と一緒、という条件付きでなら外に出歩くようになったのだ。
くすり、新八は眼鏡の奥で目を細める。
二人でも、ちゃんと来れるようになったのね。
姉の言葉が胸に染みた。
そう、一人で外出はまだ無理とは言え、
今はもう、万事屋の内誰かと一緒なら、二人で外を歩くことが出来るまでにも彼女は成長したのだ。
「しんぱちー」
鈴の音が響くような透き通った声で呼ばれて、新八は可愛い妹に振り返った。
は頬を染めて、木琴でも叩いたかのようにころん、と笑った。
「あのね、しんぱちが結んでくれた髪の毛、あねごに褒められちゃった!ありがと!」
良かったね、と頭を撫でてやれば、「また結んでくれる?」と尋ねてきたので、
ついに我慢できなく、新八はその顔をくしゃりとゆがませて笑った。
ふと、ぴくり、とが反応したかと思うと、光の速さで神楽の背中へと隠れてしまった。
それと同時に別の光がパシャリと響く。
何の光だとその方向を向いた新八は「げ」と眉をしかめた。
そこにいたのは彼の姉の天敵、真選組の局長、近藤勲だった。
「お妙さーーーん!!今の頬笑み素敵でした!もう一枚お願いできまぶへらっ!」
まるで本物のゴリラのように庭にある木に登ってこちらにゴリラ・・じゃなかった、カメラを向けていた近藤の眉間に湯のみが見事命中する。
姉の天敵、というか、寧ろ向こうにとって姉が天敵と化して来ているような気さえしてしまう今日この頃。
「どうせなら一緒に映りません事?新ちゃん、シャッター押して貰える?」
「ま、マジッすかァァアア!勲感激!新八くん、是非頼む!」
「・・ハイ・・」
「・・・・新ちゃん」
「・・・・」
メキゴシャァッ。
姉の思考を優秀にも読みとった弟によって、近藤のゴリラ・・じゃなかった、カメラは、前回のデータもひっくるめて完全に粉砕される。
「俺のゴリラがァーーー!!」といってゴリラ・・じゃなかった近藤は、ゴリラ・・じゃなくてカメラに向かって跪いた。
「大丈夫ですよ近藤さん・・じゃなかった、ゴリラ・・じゃなかった、カメラなんて、また買えばいいじゃないですか」
「イヤ間違え過ぎですよ姉上」
「ん?」
ふと近藤は気づく。
ちらりと見た先にいた、地に伏せたゴリラなどまんじりとも興味ねーよ、な態度で縁側で煎餅を食べ続けている万事屋のチャイナ娘。
・・・の後ろに隠れ、恐る恐るこちらを覗いている、一人の女の子。
見ない顔だと思っていると、近藤の視線に気づいた女の子は、目を見開いて風のごとくぴゅーっと部屋の奥に引っ込んでしまった。
それを受けた神楽が目を吊り上げて怒る。
「オイゴリラぁ!テメーが驚かすからが逃げたアル!」
「え、えぇぇえっ?!俺のせい?!」
「ー!大丈夫アル!アイツああ見えて地球人ネ!ゴリラ星の天人とかじゃないヨ」
「酷くないそれ?!」
恐る恐る奥の扉から顔だけ出した娘は、まだ警戒した様子でこちらを伺っていた。
その様子になんだか既視感というか、デジャヴを感じる。
と、一つの考えが近藤の頭にひらめいた。もしかして・・・・
「総悟の、ツレか?」
「!」
そうご、という言葉に、部屋の奥にいた娘はピクリと反応する。
警戒はまだ解かないまでもおそるおそる奥から這い出して来て、ぴったり神楽に寄り添ってこちらを睨む彼女に、近藤は確信した。
そして笑顔がこみ上げる。
そうか、そうか。この子が、例の。
近藤が率いる真選組の中でも一番の問題児(二番が自分と言うのが情けないところではある)、
サディスティック星の王子こと沖田総悟。
付き合いが長いため近藤も弟のように可愛がっている彼に最近大層お気に入りの遊び相手が出来た、というのは、屯所の中では有名な話である。
「最近機嫌いいな、どうした?」と聞いた自分に、「オトモダチができやした」と返した奴が黒い笑みをたたえていたことは言うまでもないが、
それでも嬉しそうに目を細めながら「オトモダチ」とメールする総悟を見て、なんとも言えないほほえましい気持ちになっていたのだ。
万事屋に居候している女の子とは聞いていたが、なるほど、この子か。
そうかそうか、と、自然と緩んだ頬で近藤は声を上げて笑った。
「多少捻くれ者だが、アイツも根はいい奴なんだ。これからも仲良くしてやってくれな」
似た者同士、なんて言葉を総悟が言っていたことがあったが、なるほど。
既視感なんて思ったのは間違いじゃない。
ぎゅっと神楽の服の裾を掴んで後ろに隠れながらこちらを伺う彼女の姿は、初めてであった頃の彼の姿を彷彿とさせた。
「アレだ!男ばっかのムサいとこだけど、屯所にもいつでも遊びにおいで」
「行かせるかボケェェェええ!!」
「うごほォ!」
「知らないムサい男たちに囲まれたら、なんてガックガクのブルブルネ!」
志村姉弟と神楽にボコられる近藤がふと視線を上げると、縁側でこちらを見るが見えた。
その口元が緩んでいる事に気づいて、ほうっと心が温かくなる。良かった。ちゃんと「オトモダチ」だったんだ。
・・・微妙に一方的じゃないかと少しだけひやひやしていたのだけれど。
近藤の視線に気づいたは、僅かに頬を赤らめて俯いてしまった。
「なにに見とれてるアルかこのロリコンんんん!!」
「まあ!確実に犯罪よそれは!新ちゃん、警察呼んで!!」
「イヤ姉上この人警察です。それもトップ」
ぎゃいぎゃいと騒ぐ庭を眺めながら、はくすりとほほ笑んだ。
なんとなくだけど直感した。近藤?ゴリラ?良く分かんないけれど、この人は。
・・・・きっと、そうごにとってのぎんちゃんみたいな人なんだ。
そして、「オイてめぇサボってる暇があったら近藤さん探して来い」なんて土方に言われてふらふら探しに来ていた総悟が、
先程の「屯所に遊びに来る来ない」のくだりを聞いて、
(それだァァァァァアアアーーーー!!)
なんて、目を輝かせていたことは、誰も知らない。
そしてさらに、その事がこれから起こる大事件の引き金になるとは、
からだの前で力強くガッツポーズをしている総悟本人ですら、予想だにしていなかった。
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