「じゃ、行って来るね」
「行ってらっしゃい、しんぱち」
夕飯の買い出しに新八が出て行ってしまえば、万事屋は酷く静かになった。
今日は神楽は女友達と定春の散歩に出かけて行ってしまっている。
玄関で新八が出て行くのを見送ったはとてとてと居間へ戻ってきた。
居間のソファーでは、広げたジャンプを顔にかけてぐーすかと惰眠をむさぼるこの家のあるじ。
**飼い主はペットに似る**
ソファーの前の床に膝をついて、は銀時の頭を間近で見つめた。
と言ってもジャンプで隠れているので、そこからはみ出した銀色の癖っ毛を眺めていたのだけれども。
彼の顔にかかっているジャンプの表紙には髪の長い女の子が書かれていて、センスを片手にスカートをはためかせながら凛と立っている。
この男、坂田銀時の側にいる時は、不思議と安心できる。
最初こそ突然転がり込んできたに渋い顔をしてはいたものの、いつの間にか神楽や新八に負けず劣らずを可愛がってくれる。
そして自分も。気づけば拾い主である神楽よりも、いつも優しくしてくれる新八よりも、銀時に懐いてしまっていた。
不思議な人だと思った。
興味ないていを装っていつもそっぽを向いているにもかかわらず、大事なところはしっかりとみているのだ、この男は。
自分だけじゃない。神楽や、新八の事も。
が万事屋に来て随分たった後にも、夜眠れていない事を銀時は見抜いた。それだけでなく、
「誰も襲ってこないから、安心して寝ろ」と。
その頃はの素姓なんて何ひとつ知らなかったはずなのに。
過ごしやすい気候と豊富な資源から、地球はいろいろな天人の中継置に位置する。
様々な星の天人が集まるこの地球に研究員達とがやってきたのは、金持ちのコレクター達が集まる「裏オークション」に出展させられるためだった。
『かごの鳥』として出されたオークションは随分と好評で、「その美しい声を是非我が家のオーディオに」と中々の高値がついたよう。
研究員らが随分とご機嫌だったのを覚えている。
その彼らの気の緩みに付け込んで、は逃げ出したのだった。
監視を歌で眠らせて会場を飛び出し、なるべく遠くに行きそうな船へもぐりこんだ。
それからトラックや貨物列車などを乗り付いでたどり着いたのが、この江戸だったのである。
人前で声を発すればそれがいつどこで奴らの耳に入るのか分からない。
自分のようなメスは希少だから、“他の商品”のオークションが終わった後にでも、本格的に、血眼なって探すだろう。
夜眠ってる間に襲われやしないかと、朝目が覚めたら全て夢で、またあの悪夢のような実験室が待っているんじゃないかと、
それが恐ろしくて眠るのが怖かった。そのうち寝ようとしても眠れなくなった。目を閉じると、怖い。
突然連れてこられた万事屋の住人らが、悪いヤツらじゃないと分かった後でもそれは続いた。
遅くまで自分に構ってくれていた神楽が眠りにつき、そのいびきを聞きながら、毎晩黙って真っ暗な押し入れの天井を見つめていた。
は膝を付いていた位置を、銀時の腹の前まで移動させた。
そのまま、だらーんとだらしなく緩んだ着物の上にばふ、と頭をうずめる。
安心するんだ。この人だと。
引き締まった筋肉も、意外と温かいその肌のぬくもりも、ぎんちゃんの匂いも。
全部が全部、のトゲトゲになってしまった心の周りをやんわりと優しく包んで、離さない。
顔をうずめたまま、はふ、とため息をつけば、乗っけていた腹がもぞもぞと動いた。
ぐしゃ、と髪を掴まれる。
ぐしゃぐしゃと、撫でると言うよりかかき乱すようなその手のぬくもりも、どうしようもなくあったかい。
ちらりとうずめていた頭をもたげて伺えば、銀時がの頭を撫でていない方の手でジャンプを持ち上げた隙間から、こちらを覗き込んでいた。
再びジャンプで顔を隠す。「ふあぁ・・」という声が聞こえてきて、ぐしゃぐしゃ髪を掻き回す手が力を増した。
ごそごそとその体を動かす。
持ち上げたジャンプをソファの下にぽいと投げ捨てて、仰向けにしていた体を横に向ける。
そうして作ってくれたスペースに、も何も言わずに滑り込んだ。
「なーに、どーしたの、甘えんぼさん」
がしがしと自分の癖っ毛を掻きながら、
彼に比べたら可愛らしい、僅かに癖っ毛のかかったの髪を優しく手櫛でとかす。
はくすぐったそうに首をすぼめて、その頭を銀時の胸へ押しつけた。
あったかい、柔らかい、ぎんちゃんの匂い・・・・・ねむたい。
完全にリラックスしたを見て、銀時はほほ笑んだ。
「夜眠れなくなってもしらねーぞォ」
ぎんちゃんに言われたくない。このねぼすけさんが。
あと、わたしはぎんちゃんが隣にいればいつどこでも寝れるから心配無用ですぅぅぅー。
「まったく、誰に似たんだか・・・・」
何も言ってないのに、何に対してか銀時はそう呟いて、喉で笑った。
やっぱりぎんちゃんはえすぱーだ。
くすくすとも笑って、眠りに落ちた。
すやすやと胸の中で眠るを見ながら、銀時はゆっくり息を吐き出した。
さらりとその前髪を掻きあげて、のおでこに自分の唇を押し付ける。
あー、やっぱ沖田君にゃもったいねーや。
もうちょっと年が近けりゃ、絶対俺のモンにするのになあ。
いかんいかん、寝ぼけてるな俺。なんて頭をかきつつ、銀時ももう一度瞳を閉じた。
自分のものにしたいと思いつつも、この娘にボーイフレンドが出来たら出来たできっと手を叩いて大喜びする自分もいるのだ。
あ、自分のお眼鏡に適うような人物でなかったら、裏で工作して手を引かせるがな。
ぐるぐると寝ぼけた銀時の頭はからから空回りし、
最終的にがお嫁さんになって子供が生まれるところまで妄想したところで、ついに眠気が限界に達する。
お前が出てくとか、銀さん寂しーわぁ・・・・。
の体を抱きしめながら、銀時も眠りへと落ちていった。
「ただいま〜」
「帰ったヨー!」
「わんっ!」
丁度万事屋の下で合流した新八と神楽・定春が玄関を開けて帰って来る。
「外から帰ってきたらちゃんと定春の足の裏拭いてあげてね神楽ちゃん」
「エー自分でやれヨ眼鏡」
「散歩して来たのアンタだろ。晩御飯遅くなってもいいの」
「ちぇー」
定春の足の裏に着いた砂埃を綺麗に拭きとってやってから居間へ入ろうとした神楽は、未だ居間の前で突っ立っている新八に気づく。
ちらりと彼の顔を伺った神楽は、むぅーと眉間にしわを寄せた。
「なににやけてるアルか。口元緩み切っててキモイアル。キモ眼鏡。アイドルオタク!」
「毒舌酷いな!」
・・・いや、でも、キモイって言われてもどうしようもないんだけれど。
頬の筋肉がゆるみきって仕方がない。戻りそうにもないし。
首をかしげて居間を覗き込んだ神楽も、「およよ」といって目を丸くする。
そしてそのあと、にぃー、と目を細めた。
「っていうか、銀ちゃんの方がおっきい犬みたいアル」
「どっちがペットか分かんないね」
ソファの上で眠ると、それを囲って丸くなる銀時を見て、
新八と神楽はお互いの顔を見た後に噴き出した。
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OK。銀ちゃん。よしよし(何)