「ちくしょー!やられた!!」
「ちょいと銀時、うるさいよ」
「飲み過ぎでございます、銀時様」
ここ「スナックお登勢」は、その名の通りお登勢の経営するバーである。
毎日人のあふれるほどの人気はないものの顔なじみや古参の客、そのツレなどしっかりした「常連」が定着しているためそこそこのもうけはある。
・・・・二階の住居者がもっとちゃんと家賃を払ってくれさえすれば、もっと収入は増えるのだが・・・・。
ふう。お登勢はため息の替わりに加えていた煙草の煙を天井に吐き出した。
今現在目の前のカウンター席で酔いつぶれている人物こそ、家賃滞納の張本人、二階で「万事屋」なんてのを営んでいる銀髪の男坂田銀時である。
日付も越えて客も引いた遅い時間から転がりこんできて、ずっとこの調子である。
「一体どうしたというのですか銀時様、そんなに荒れてしまわれて」
「ニブイポンコツダナ、オマエ!コノ荒レ方ハ狙ッテタオンナカッ攫ワレタンダローヨ!」
「うっせー猫耳侮辱女!アイツはそんなじゃねーよ!!」
ああ・・・どうしてこんなことになってしまったのか。銀時は頭を抱えた。
酒を飲み過ぎたせいでぐあんぐあんする。目頭も熱くなって、俗に言う泣き上戸だ。
本当に・・・・・あああ・・もっと自分がちゃんとしていれば、こんなことにはならなかったのに。
どうして・・どうして・・。
ーー、とぐずぐず鼻をすすりながらつぶやく銀時の後ろで、からり、と「スナックお登勢」の扉が開いた。
**負け犬が遠吠えをするとは限らない**
「旦那ぁー遊びにきやした。コレ差し入れ」
私服の総悟が万事屋に現れたのは昼過ぎの事だった。
「ん、お。さんきゅー沖田君」
「今から出るとこですかぃ」
「そ。あいつから聞いてると思うけど、今日帰り遅くなっちまうから、沖田君適当に食わせてやって」
「りょーかいでさァ」
「どらァドSぅぅ!に変なことしたら承知しないアルからなァ!」
「しねーよ眼鏡じゃあるまいし」
「何でそこで僕ぅ?!」
ぎゃぁぎゃぁと騒ぐ子供らに銀時が呆れていると、居間から玄関に向かってひょっこりとが顔を出す。
総悟の姿を見たはにっこりとはにかんだ。「いらっしゃいそうご!久しぶりだね」
「・・・何ですかィ旦那」
「本当に久しぶりに来たんだな」
「当たり前じゃねーですかィ。旦那の許可がおりなかった間は一度としてこの玄関をくぐった事はありやせんでしたぜ」
「意外とそーゆーとこ律儀だよねキミ」
許可なく家に上がり込んでにいろいろ吹きこむのは禁止。という万事屋の新しい条件を、総悟は律儀にも守っていた。
電話は一日5分まで。10時以降のメールはNG。一緒に遊ぶ時には銀時に許可をとる事。
総悟はにひらひらと手を振って応えた後、銀時に向かってにんまり頬を緩めた。
「やぁっとお許しが出たんでェ。今日は存分遊ばせてもらいますよ」
遠出の依頼に出て行ってしまった万事屋が見えなくなるまで見送ると、は総悟を家へと招き入れた。
廊下を居間へと向かいながら、総悟がわざとらしい口笛を吹く。
「嘘は言ってねーもん」
「えへへーわたしもっ。“遊ぶのは”久しぶりだもんねえ!」
ちょくちょく屋根の上でおしゃべりしていたのは、二人だけの秘密。
「今日は何して遊ぶのー?」
「お医者さんごっこ」
「えー」
「えー?」
言いながら総悟が取り出したオセロ盤に、の瞳はぱあっ、と輝いた。
そこまでは良かったんです。
「・・・・え?」
オセロをやってトランプをやってUNOをやってツイスターをやって遊んで。
戸棚に隠してあった神楽のお饅頭に食用墨で顔を描いたり、
銀時の「結野アナのサイン」をこっそり額縁の裏に隠したり、いろいろやった。
は恐る恐る目の前の総悟を見上げる。
彼女の体は、ロープでぐるぐる巻きにされて床に転がされていた。
目の前の、さらさら栗色ヘアーの男の子はにこにこと笑っている。
その口元がニタァ・・・と歪み、爽やかスマイルに影が差した。
「そ、そうご・・なに、それ・・?」
「んー?書き置き。あらかじめ書いてきた」
あらかじめ?!
持っていた茶封筒を社長デスクの上に丁寧に置いた総悟は、ふっ、と悪い笑みを浮かべ・・・・、
おもむろにひょいっとを担ぎあげると、ぴゅーっ、と万事屋を飛び出した。
ええええええええ?!
じたばたもがけども鍛えられた少年の体はびくともしない。
声を上げて助けを求めようにも、不特定多数の人がいる前で声を出すのはためらわれる。
そもそも助けを求められるほど親しい人間が自分には少ないのだ。そしておそらくそれを見越した犯行。
この男のことを疑っているわけじゃない。でも・・・・。
「・・そうごぉ・・・」
「んっ?」
小さく絞り出した声を聞いて、総悟はききー!と急ブレーキをかけた。
まさか、この娘が外で声を出すとは思ってなくて。
それ程切羽詰まってるという事だろーか。ちょっとまずかっただろうか。
立ち止まった総悟はちらりと横にある頭を見る。「なに?」
「どこいくの・・・?」と不安げに小さく囁いたに、総悟は観念した。やはり黙って連れ出すのには無茶があったのだ。
すとん、と隣にを下ろした総悟は「あー」とか「うー」とか言ったあと、「・・俺んち」と呟く。
「アンタに、俺の「かぞく」も、紹介したくて・・・・駄目かねィ?」
どうしても帰りてぇって言うんなら・・・・無理矢理連れてくけど・・。
なんて、申し訳なさそうな顔でロープを解きながらとんでもない事を発言する総悟に、は息を吐いた。
そうして、自由になった手で総悟の袴をぎゅっ、と握る。
総悟は一瞬目を見開いた後、にやりと歯を見せて笑った。
「心配しなくても、俺は強いんでね。なんかが襲ってきても返り討ちにしてやらぁ!」
それを受けて、もにこりとほほ笑んだ。
日も沈みかけたころ。万事屋に帰って来た銀時は置手紙を読んでわなわなと震えた。
「があのドSに誘拐されたアル!!」なんて神楽は憤慨している。ちなみに新八は直接家に帰ったためここにはいない。
『お宅の娘さんは今日は真選組屯所に「おとまり」します。え?外泊も許可がいるって?知りやせんでした。今度からそうしまーす』
要約すればそんなことがクソ丁寧につらつら書かれてある手紙をぐしゃりと握りつぶす。
雄たけびを上げる神楽を「落ち着け」となだめた後、深呼吸をひとつして、銀時は万事屋の黒電話をガチャリと持ち上げた。
その日、真選組屯所はいつもよりもざわざわと騒がしかった。
一番隊隊長のドS王子、沖田総悟が、女の子を連れてきたのだ!
はというと・・・・・がっくがくのぶるぶるだった。知らない人だらけだ!怖い!!
ふらりといなくなってしまった総悟を追いかけて廊下に出たはいいものの、さっきからすれ違う人すれ違う人好奇の目で自分を見て来る。
中には笑顔で話しかけてくれる地味な男の人もいたが、は真っ青になって顔をぶんぶん振り、ぴゅーっと駆けて行ってしまった。
と、いくつかの廊下の角を曲がった所でようやく見た事のある顔を見つける。
その相手はを見て目をまん丸にして驚き、加えていた煙草の灰がぽろりと落ちた。
「なんでこんなトコにいんだ?」
ひじかたさんだ!!
とててっ、と走って行ってその背に隠れ、はようやく一息ついた。良かった。知ってる人だ!
彼とは親しいとまではいかない仲だったが、昔犬顔の天人に見つかりそうになった所を助けてくれた事があった。
その後も万事屋で散歩に行くと、結構な確率で遭遇する事が多く、一応お互いに認識はある。やっと最近、数回だけ話した仲だ。
うーんと背伸びしてその耳に耳打ちをしたかったが届かないの様子に、気づいた土方はかがんで耳を近づけてやった。
(そうごを探してるの)
鈴の音の響くような声でそう囁かれて、土方は納得する。なるほど。ソレが原因か。
胸ポケットから携帯灰皿を取り出し吸い殻を押し付けながら、土方はため息をついた。
「折角懐かれたのに、そのうち嫌われるぞオマエ」
はっとが振り向くと、ニヤニヤしながら携帯を懐に突っ込む総悟と目が合う。
「おいで」と言われたは、やっと見つけた探し人の胸に飛びついた。土方は再びため息。なるほどね。それがやりたかったわけか。
そんな呆れ果てた土方を気にもせず、総悟はきしし、とご機嫌にほくそ笑んだ。これこれ、これがやりたかったんだよ!
志村家で神楽が叫んでいたセリフ「が屯所に遊びに行ったらガックガクのブルブル」を聞いて思わずそれだー!と心の中で叫んだ。
自分に懐いてきているとはいえ、まだまだ信頼度で言ったら万事屋の連中には遠く及ばない。いや、着実に近づいてきてはいると思う。けど。
総悟だって一度経験してみたかったのだ。この娘が周りを指し置いて一番に自分のもとへかけてきてくれるのを。
・・・もっとも、その前の、
知らない人に囲まれて、某消費者金融会社のCMのチワワ並みにがっくがくのぶるぶるなの姿も、なかなかに満足のいくものだったのだが。
「、、晩飯食おうぜぃ。俺があーんしてやらァ」
むぅ、と眉をしかめて、ほっぺを真っ赤にしてぷるぷると顔を振るに、くすりと総悟のほっぺたも緩む。
だってもう自分でお箸持てるのよ!
そう言いたげに、スプーンですくって食べるジェスチャーをする彼女に、それを見ていた土方も思わずふっと息を吐いた。
>>next>>
・・・・え、これ誰夢?