夕食を食べて、風呂も貸して貰って、ぶかぶかの浴衣を着せられたは、総悟に手を引かれて彼の部屋までやって来ていた。
彼の手際は見事で、「飯食うぞー」「風呂入ってこい」「今日は泊まっていきなせぇ」
「旦那にはさっき電話で話したから」なんて言われてしまえば、は何も言えない。
それでもそわそわと体を揺すれば、総悟は一つ息を吐いて優しく頭を撫でてくれた。

「どうしても心細くなったら、夜中だろーが俺が万事屋まで送ってってやらぁ。な?俺と夜更かしよーぜぃ」

滅多に遊べない遊び相手からのお誘い(と言ってもその実結構遊んでるのであるが)に最終的には折れ、ぎゅ、と総悟の手を握った。
からりと総悟の部屋の障子が空けられれば、既に敷かれた二つの布団。
総悟の部屋に入って障子を閉めた・・・・とたんに、がばっ・・!と、は、総悟を振り返った。


「何してよふかしする?!」
「まくら投げしよーぜまくら投げ!」
「いいよ!!」
「一発でも俺に当てられたら、本物の「手錠」触らせてやらァ!」
「ええっ、あの刑事さんのあのあれ?!わあああすごーい!」
「はっはっは!すげーだろー!!逮捕しちまうぜい!」
「きゃあー!」


そうと決まってしまうと。今度はワクワクが止まらない。初めてのお泊り!







**遠吠えをしたのが負け犬とは限らない**







「銀ちゃんのバカヤロォォォオオオ!!何言いくるめられてんだヨォォォ!!」
「ううう、だって、だって!『あんまり拘束が激しいとグレますよ、嫌われますよ』なんて言われたら銀さん・・・!!」
「あほアルかァァ!!が銀ちゃんの事嫌うとかあり得ないネ!!」
「・・・・神楽・・オマエ・・・っ!!」
「うわ、キモッ。銀ちゃんキモイアル!そんな目でこっち見んじゃネーヨ!それだからに嫌われるネ!!」
「お前は銀さんをどうしたいのォ?!!」

四つん這いに泣き崩れる銀時を、虫でも見るかのような冷たい目で神楽が見下ろす。
まったく!どうかしている!の外泊を、それも真選組屯所で、しかもあの腐れバカドSと一緒にを許すなんて!!

「殴り込みに行くネ!今から!!今すぐに!!」
「あああやめろ神楽。今以上にアイツらに恨み買われちゃ気楽に散歩も出来ねーよ!歩く電撃いらいら棒が歩くウルトラ電撃いらいら棒になるよ!」
「銀ちゃんの意気地なしィィィイイイ!!」

のやつ、泣いてないカナァ、ドSに虐められて、おねーちゃんおねーちゃんって、泣いてるに決まってるヨ!
違うもん!は銀さんと一緒じゃなきゃ寝れないんだもん!銀ちゃん銀ちゃんって、泣いてるに決まってるもん!

〜〜っっ!!!


一方張本人のは、真選組屯所一番隊隊長の部屋で死闘を繰り広げていた。

「フッ・・!なかなかやるじゃねーか・・!」
「そうご!!そろそろ当ってよぉ!」
「やーだね!」
「むー!」

投げる力はないので避ける分には問題ないのだが、は素早さだけは無駄にある。
素早さと言うか、瞬発力だ。脚力がハンパない。だからこちらが当てようとなると一苦労だ。

「そこだあぁー!」
「あまァーいぃ!!」
「うるせぇええーー!!!」

ばあああああんんん!!!
鬼のような形相で障子を明け放った土方に、総悟は「すいやせーん、気を付けまーす」とやる気のなさそうに返す。
彼が去ると総悟はにやあぁ、と口元を釣り上げた。そして持っていた枕を自分の背中にばふり、と叩きつける。
「ふぎゃ」とねこが高いところから着地し損ねた時のような声が響いた。
「油断禁物でぃ」
そう言ってまくらをどかせば、総悟の背中に隠れながら頬を膨らませ真っ赤になったと目があった。




そろそろ寝るか、とうつ伏せにもぐりこんだ布団から頭だけ出して、再び土方に怒られぬように小声でおしゃべりをする。
・・と言っても、はまくら投げの最中も小声で叫んでいたのだが。
「楽しかったー」と言うに「そいつぁよかった」と言えば、は目を輝かせてあのね、と総悟に頭を向けた。

「こんどうさん、ってここの偉い人なんでしょう。その人にね、この間会ったの!」
「ほほー、そーだったのか」

実は知ってましたけども。
「どんな人だった」と聞けば、「変な人だったけど、いい人だった!」と帰って来る。
どうしてだと聞けば、は笑顔で答えた。

「そうごのこと、かぞくみたいに心配して笑ってたから」
「・・・・・・・」

「そーかぃ」言いながら総悟は目を細めた。近藤さんはそんなこと言ってたのか。
それにしても・・・・。何より心がくすぐったかったのは、が近藤のことを「いい人」と思った理由が「そうごのかぞく」だったから。

「あのね、こんどうさんがね、そうごと、これからもオトモダチでいてやってくれって」

鈴の音の響くような声で、ころころとが笑う。小さなその音はとても心地よく総悟の耳に届いた。
自然と頬が緩む。ほんとに綺麗な声。

「なあ」

ずいっ、と体を近づけて、悪戯っ子のような顔で総悟はを見た。


「オトモダチもいいけど、・・・コイビトになってみねぇ?」





「コイビト?」
きょとん、とは総悟を見上げた。「コイビトってなに。どんな関係?オトモダチとは違うの?」

「オトモダチよりも、ずっとずっと特別な関係でぃ」
「特別?そうごはわたしが特別でいいの?」
「・・・・・・・」

ちゃんと意味は分かっていないとはいえ、ストレートな質問に流石の総悟も照れる。

「・・・・・アンタが、どうしてもって言うなら」
「えー?」
「何でィ、文句あんのか」
「えへへ、ない!いいよ、そうごは特別ね!」
「旦那らの次で構わねーぜぃ」
「あはは、ぎんちゃん達は勿論特別だよう!」

ころころ笑うの頭を撫でてやれば、は猫のように頭をすぼめてくすくすと喉を鳴らした。
自分から言い出した事とは言え、「トクベツ」という言葉がむしょうに嬉しく感じる。

「な、じゃぁさ、キスしていい?」
「きす?きすはどんな関係?」
「キスは関係じゃねーよ」

じゃーなに?と聞いてくる可愛らしい仔猫に、どう答えようかと総悟は悩む。
お口とお口が・・うーん・・・いや、こればっかりは。

「説明よりも、やってみた方がはえーや」

布団から伸ばした手でその頭を捕まえ、の唇に自分のそれをそーっと重ねた。




ジリリリリリ、ジリリリリリ、
万事屋の黒電話が鳴る。寝床に着こうとしていた神楽は一瞬にして居間まで飛んできた。

ネっ!きっと寂しいから迎えに来てって電話アル!ハイもしもしアルかッ!!」
「貸せェ神楽ァァ!!!無事か!アイツらに変な事とかされてねーだろーな?!」
「行けェ!やっちまえぇ!!銀ちゃぁん!そこだァッ!がんばれぇえー!!」
「え?!はい、はい、あ、はい・・・・・・・・間違い電話、だった」
「死にさらせェェえええっっ!!!」
「何で俺ッッ?!」

・・・・・その頃の万事屋は随分とにぎやかだった。




総悟がオトモダチを連れてきた!!あの捻くれ者の悪ガキが!!
そんな近藤の、息子が彼女連れて来ましたようっひょう!明日は赤飯だァァ!的な親心満載の語りを長々と聞くこと数時間。
副長土方十四朗は未だ感極まりまくっている局長をなだめすかし、その部屋を後に自分の部屋へと向かっていた。

そろそろ日付も超えようと言う頃だ。まったく、あの人も友達連れて来たくらいで喜び過ぎだ。
これでは本当に総悟に(まぁ当分ないような気もするが)彼女が出来た時なんてどうなることやら・・・と思いながらも、彼と同じく弟分に友人が出来た事を素直に喜ぶ心が土方にも会った。あの餓鬼に友達、ねぇ。物好きもいたモンだ。

先程手洗いに立った時にあまりにもうるさかったもんだから怒鳴り散らしたのだが、その時のことを思い出す。
いつも馬鹿でガキだが、あんなに年相応にはしゃぐ総悟はここ数年見た事がない。
大人に囲まれ甘やかされて育っているとはいえ、同世代の友人が奴には皆無というのが現状。
あのこさえ良ければこれからも仲良くしてやって欲しいもんだ・・・・とそこまで考えて、これでは近藤と全くおんなじだと気づき、呆れ笑いがこぼれた。

そんな時だった。

風のように突然現れた小さな黒い影が、土方のみぞおち向けて突進してきたのである。
「ぐふっ、」いきなりの衝撃に驚きつつもその影の首根っこを捕まえてぐいっと引き剥がす。

・・・・・・?!

土方は驚いて声も出せなかった。自分の手に掴まれた影は、だ。
真っ青な顔で、震えて、泣いている。
さっきまで、総悟と悪ガキの親分子分みたいにはしゃいでいた、この娘が。

バシン。
思い切り腕を叩かれ、掴んでいた手が放される。

「どう、した・・・・・?」
「・・・・・・・・・」
「・・・・総悟が、何か、したのか・・?」

びくりと飛び上がった娘は、カタカタと震え、ひらりと身を翻して走り去ろうとした。
その腕を素早く捕まえる。
「ゃ・・・!放して・・」
小さく漏れた鈴の音が響くような声に、ぎゅうう、と土方の胸が痛んだ。

「・・か、える・・・」
「あ・・?」
「よろずや・・・かえ、る・・・」
「・・・・・・」

ぽろぽろと泣きだしてしまったに、土方は大きなため息をつく。
「送ってってやるよ」そう言えばは青くなってぶんぶんと頭を振った。
土方は掴んだ腕の力を緩めない。「いいから、送らせろ」
どうせここ来るまでは無理矢理連れて来られて道わかんねェんだろ。
それに。

「・・・アンタにもしもの事があったら・・・・アイツら、マジで真選組潰しにかかってきそうだ・・」

それだけは、阻止せねば。


結局、は大人しく土方に送ってもらう事になる。
秋口も終わり、夜は寒い。
出かける前に寄った自分の部屋で、土方は自分のコートを羽織り、にはマフラーを巻いてやった。
星がきれいな晩を、小さな娘と手をつないで歩く。
は始終震えていたが、土方の「寒いか」という言葉に首を横に振って返せば、土方はそれ以上何もいわなかった。




カタリ、と開いた「スナックお登勢」の扉。半分閉じかけの瞳でそちらを伺った銀時は、目を見開いて思わず立ち上がった。
そこにいたのは、寒さで目もとと鼻を真っ赤にした可愛い猫の姿。
酒の飲み過ぎで幻覚でも見ているのかと目をこする。「」と呼べば「ぎんちゃん」と返って来た。

「なんで・・・・戻ってきたの?」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・?」
「・・・・・・・ぐすっ」

鼻をすすって返事したによたよたと近寄って、銀時は酒臭い体で小さな体を抱きしめてやった。

「わかった。やっぱり銀さんと一緒じゃないと眠れなかったんだろ」
「うん、ぎんちゃん・・・」
「たぁく、やーっぱりそうだったか。おいで。子供は寝る時間だ」

はぎゅうっと銀時にしがみつき、店の店員たちはそれそれ顔を見合わせて息を吐いた。





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・・・なんか・・・銀すぷの総悟可愛いなオイ。