が真選組にお泊りもどきに行って結局帰って来た事件があってから、はや一週間が過ぎようとしていた。
最初の2、3日の間はは万事屋の住人にべったりでそれは大変だった。
仕事で外に出ようものなら返って来るまでずっと押し入れまたは定春の腹で震えているものだから、
誰か一人残るか、大急ぎで終わらせてダッシュで帰宅なんて日々だった。

「なー、オマエ沖田君と何かあったの」
「まじか!ついに尻尾を現わしやがったなあのくそドS!!」
「んー?んー・・・」

聞いても言葉を濁すばかり。
しかし、今ではそんなことも大方なくなり普通に暮らしている。
ただ、彼女の口から「沖田総悟」の名が出る事はなくなり、彼から貰った携帯電話も彼女の部屋(神楽の押し入れの下の段が彼女の部屋(私物置き場?)になっているのだ)に、電源を切った状態でしまわれっぱなしになっていた。







**猫と犬が仲が悪いは欧米の言い伝え**







ー!んじゃちょっと行ってくるから」
「いってらっしゃーい!」
「返ってきたらいっぱい遊んでやるネ!」
「ひとりで平気?」
「うんー!平気!」

その日は午後からの依頼で迷子の仔犬探し。
抱きついてきたをぎゅうっと抱きしめ返した神楽が心配そうに聞いてくる。
「本当に大丈夫アルか?最近、元気ないヨ・・・・」
それもこれも・・全てはあのにっくきドS男のせいアル!と神楽はほっぺたをふくらませ、は困ったように笑って返した。


銀時たちが出て行ってしまってひとりになったは、さて何して時間をつぶそうかと考える。
先週まではだいたい総悟とメールして時間が過ぎて行ったのだが、それも出来ない。
居間に戻れば定春が丸くなって眠っていた。
起こすのもかわいそうだと、その頭を優しく撫でるだけにしていると、がらがらと玄関の開く音が耳に飛び込んできた。

鍵はかかっているはずだから、開けて入ってきたという事は銀時たちだろうか?
忘れ物でもしたのかな。

とてとてと駆けて行って今の入口から玄関を覗き込んだはびくりと飛び跳ねた。
・・・そこに立っていたのは、今最も会いたくない人物だったから。


今最も会いたくない人物 ――― 沖田総悟は後ろ手に玄関を閉めると、ご丁寧に鍵までかけた。
こちらに背を向けて、どっかりとあがり場に腰を下ろす。靴を脱いでいるのだと分かったは真っ青になって居間に引っ込んだ。





「邪魔するぜぃ」
ずかずかと居間に入ってきた総悟はきょろきょろとあたりを見回し、がいないとわかるとためらいもなく奥の和室の扉に手をかける。

和室の箪笥の影に隠れていたは息を殺した。
来た。総悟が家に、来た。
考えられない事でもなかった。以前生活していた場所でも逃げだせば追いかけられたし、与えられた事を拒否すればそれなりの仕打ちが返ってきた。
今回も・・・。
ごくり、と喉が小さく音を立てる。

総悟が和室に足を踏み入れる。気を張って辺りの気配を探れば、この男ならの居場所なんて一発で分かりそうなものなのだが。
警戒心のかけらも感じられない。一方こちらは警戒心の塊な訳なのだが。

ごくり、はもう一度唾を飲み込んだ。
伊達に一ヶ月研究員達から逃れてきたわけではない。視線の先には男の無防備な背中。
息を殺したまま、狩り真っ最中の猫のように体中の神経を集中させる。
そしては、自分にとっては大き過ぎる獲物の喉元を外さぬように狙いを付けて、思い切り地を蹴った。

やられる前に・・・!





突然物陰から飛びかかって来た少女に、総悟は呆気なく押し倒された。
「ぐぅ」と唸って崩れた態勢は重力に従って落ちていき、畳に頭をぶつける。
喉にもろに食い込んだ牙に総悟は顔を顰めたが、抵抗はしなかった。
がり、と噛む力が強まる。「うぐ」と言う息が自然に漏れた。

「あ・・・あー、ごめん、な」

ぽそりとつぶやかれた言葉に、ぐしゃりと混ぜられた髪に、噛みついていた少女ははっと驚いて噛みついていた口を離す。
総悟はゆっくりとを見た。首が熱い。あと痛い。完全に狩る気で噛みつきやがってこの女。

「・・・避けられた、でしょう?」
「まーな」
「・・・・なんで・・・・う・・?」
「・・なんでって・・」

ぐらりとの視界が揺れる。
そして、そのまま倒れた総悟の隣に、も横になった。


・・・・・・否、動けない。


「いやァ・・・ふつーに話しても聞かねーだろーと思いやしてねィ・・」

「警戒して襲われるのは予想済みでさァ。痺れ薬塗って来て正解でぃ」

ここまで本気で襲われるとは思ってなかったけど、なんて言いながらニヤリと口元を上げる総悟に、の血の気がさーっと引く。
総悟があらかじめ塗っておいたという薬は中々優秀で、体が痺れてほとんど動かせない。
やばい、やばい、やばい。
しかし、いくら待てども総悟は何も言わなかった。そのままのしかかられて、ビンタの一発や二発三発四発・・・くらいは来ると思っていたのに。
総悟は天井を見たまま動かない。



「・・・き、傷口から入ったみたい・・俺も動けねェ・・」

「ばかなの?!」



思わず大声でツッコミを入れる。
かと思うと総悟はぐりん、と顔だけこちらに向けた。
「あァ、そーでィ」

「俺は馬鹿だから、何も知らずにあんたの事傷つけた」
「・・・・・」
「イヤ、良く考えればそんくらい分かったのかもしんねーんだけど」
「・・・・・ぅ・・」
「もっかい言うが、俺馬鹿なんで」
「・・・だって、あんなこと、する、から」
「・・・大事な説明すっ飛ばしちまった俺が悪ィんでぃ」

はは、と笑って、総悟は改めてキスについての説明をにしてくれた。
たしかに、そーゆうことする時にもキスするけど、愛情表現っつーか、
ものすごーく大好きな人に自分の好きって気持ちを伝える手段って言うか、
あ、でも、そうやって表ヅラ好意を見せつけといて、裏で腹黒い事考えてる奴も無きにしも非ずだから、アンタみたいな世間知らずは気を付ける必要が・・・

「ねぇ」
「あん?」
「・・・そうごは、わたしのことものすごーく大好きなの?」
「・・・・・」
「・・・・大嫌いじゃなかったの?」
「・・・・・」
「・・・そうご?」
「大っ嫌いでぇ」


「嫌い過ぎて・・・・一周回って大好きになっちまうくらい、アンタの事気に入ってらぁ」


ふい、と総悟が頭だけ動かして向こうを向けば、「いてて」という声が聞こえて、ぽたぽた血の滴る傷口が目に入った。
我ながら結構本気で噛んだらしい。
「だから」
向こうを向いたまま、総悟が口を開く。「コイビトとかオトモダチとかじゃなくていいんで」

「・・・・今度会っても、逃げねぇで」
「・・・・・・・」
「・・・なんだよ」
「・・・・えー」
「えええーー?」
「どうしようかなあ」
「マジかぃ」
「そうごがぁー、どーしてもって言うならー」
「あぁーうっせぇ。可愛くねぇ」
「うふふー」
「うっせ。てめーに拒否権なんてねーんだよ。ホレ分かったら歌いなせぇ。俺を癒せ。誰かさんのせいで首がいてーんだよ血が出てんだよ死ぬわ俺」

きゃいきゃいと騒がしく響いた二つの笑い声は、そのうち聞こえなくなった。





どっ・・・・どうする?!
万事屋三人は和室の前で固まっていた。
出かけ際に総悟に出会って、その様子を見て何も言わず鍵だけ渡してのもとへ行かせたは良いが、まさかこんな事になっているとは・・・・・!
三人の視線の先には、首から血を流しながら横たわり動かない総悟と、その隣で丸くなりこちらも動かないの姿。

し、死んでる ――――――― !!相討ち?!相討ちなのか?!

どうするどうする。マヨラやゴリラにどう説明すればいいのか。いやでもこんな小娘に殺られるくらいならそれまでの実力だったということで・・・・
ぶつぶつ呟く銀時の横では、神楽がどこからか取りだしたハンカチをかみしめながら、
「ううっっ!タダでは死ななかったアルな!流石アルっ!私、オマエの事忘れないヨ!」なんて鼻をすすっている。
そしてさらにその隣にいる新八は、「イヤ二人とも死んでねェよ」と冷静なツッコミを披露していた。


寄り添い眠る二人の表情は、とても穏やかだった。


(ちなみにその後カンカンになった土方が総悟を迎えに来た)








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だ!れ!ゆ!め!だ!よ!!(どう見ても総・・・