ういー!帰ったぞォー・・っく。
そんなぐでんぐでんな酒飲みオヤジの状態で、銀時は我が家の玄関を開けた。
10月10日。今日は何を隠そう自分の誕生日だ。
「じゃァ特別オマケしてやらァ!」なんて気のいいオヤジにあてられて、昨晩はたんまり酒を飲んでご機嫌の朝帰り。
今日くらいいいじゃない(と言ってもたびたびあるのだが)、いいじゃなーい♪と、謎の鼻歌を口遊みながら、呂律のまわらない舌で銀時はまくしたてる。
「おらぁー!今日の主役がかえってきたっつってんだろーがぁっ!出迎えも無しかァあ?」
新八神楽はいいとして(いいんかい)、自分の女(になる予定)であるあの小っこい娘くらいは。
鈴の音の響くようなきれーな可愛らしい声の持ち主であるあの子猫くらいは、「おかえりぃいー銀ちゃんっ!」なんて飛びついてきてくれてもよさそうなものなのだが。
ったくよぉー。銀さん拗ねちまうぞコラァ、なんてぶつぶつこぼしながら居間への暖簾をくぐれば、机の上にホカホカとよそわれた白米に味噌汁、サバの味噌煮が湯気を上げていた。
その中心には小ぶりだがまん丸のホールケーキ。ホールケーキ!ホールケーキ!(大切なことなので3回ry
がばっ、と銀時は自分の口を手で覆う。涙がちょちょぎれそうだ。まさか朝から銀さんの大好きな甘味が提供されているとは!!
ありがとうお前らぁぁ!!銀さん大好き!ホールケーキのこと大好き!!
「あれ?!やっば、もう来ちゃったよ・・・・す、すみません、ちょっと待っててもらえますか?」
「なにぃ!今日に限って来るの早いアル!すぐ終わんでちょっと玄関のあたりで待っててもらえませんかァー!」
今の入口に立っている銀時に気づいて、新八と神楽が若干慌てたように玄関を指差す。
・・・・お、おまえら・・・・!
まだ何か準備するものがあるのだろうか。朝からなんて至れり尽くせりなんだ!
にやける口元を隠しきれず適当に返事をして銀時は玄関に向かう廊下へと一時引っ込む。
クラッカーとかだろうか。蝋燭でも立ててくれるのだろうか!
わくわくしながら居間を背に待ちつつ、それでもやっぱり後ろが若干気になって耳を澄ませれば、奥からひそひそと慌てたような会話が聞こえてきた。
「やばいよ神楽ちゃん・・・ちょっとのんびりしすぎたかな。朝ごはんの前にお客さんきちゃうとか・・・」
「ダッシュで食べれば問題ないアル!ケーキはあれネ、顔面にスパーキングして時間を短縮するアル!」
「どんな短縮の仕方?!それスパーキング後の顔でお客さんと向かい合うことになるけど?!」
「アハハ冗談ヨ!ヨーシ、早くあのバカ呼んでくるヨロシ!」
「うんっ!」
りんっ、
まるで鈴の音が響くように、透き通ったキレイな高音がコロンっと跳ねる。
銀時はこの高音が好きだ。否、彼女の声の場合、キライという人間の方が圧倒的に少ないだろう。
ちらりと暖簾の隙間から居間をうかがえば、それまで神楽に髪を梳いて貰っていた少女がぴょこんっ、と立ち上がった。
はるか昔に絶滅した超希少種天人。遺伝子組み換えでそのDNAを受け継ぎ作り出された「かごの鳥」の生き残り。
その声は鈴の音が響くように、その歌は誰でも眠りに落ちてしまうかのように、
優しくて綺麗でよく通るその声を弾ませながら、半人半天人の少女はててっ、と駆け出した。
そしてその特別な声で、大好きで大好きで仕方のないご主人様の名前を、それはそれは嬉しそうに呼ぶ。
「きんちゃあぁーんっ!朝だようー!起きて起きてっ!!」
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・え・・“金”・・・・?
ばふーっ!
続いて聞こえてくるのは布団にダイブする音。
「きんちゃんきんちゃんきんちゃあーんっ!」
「ったく、いつもいつも朝から荒々しい起こし方しやがって・・・つか起きてるっつーの」
「えー!うそー!寝てたくせに!」
「ほんとだよ。オメーらが甲斐甲斐しくこそこそ俺のために準備してくれてんの見てたら、そうそう起きていけねーだろうが」
「金さん・・・!そんな、僕らのために気を使って・・・!」
「さっすが金ちゃんアルそれだから大好き!お誕生日おめでとうアル!」
「・・・・・」
自分“抜き”で弾みまくっている会話を聞きながら、銀時は嫌な汗を大量にかきつつ暖簾の奥をそーっと見やる。
奥の和室からを片手に抱いて出てきたのは、
金髪さらふわストレートの美しすぎる万事屋さんだった。
えええええええーーーー!どゆこと?どゆこと?!ホワイ?!
居間の前の廊下に立ち尽くしたまま一歩も動けずにいる銀時は、額から滝のように嫌な汗が流しながら心の中で叫んでいた。
何故ここに金の悪魔が?!
何故に出張なされておられる?!テメーの職場は木曜のサンライズだろーがァァ!!それだけで十分だろうがァァ!!
おそらく1か月程度の短い命だろうがァァァ!!こっちまで出張営業してんじゃねええええ!
金時にくしゃくしゃと髪を撫でられ、がくすぐったそうに咽を鳴らした。
コラァァァくそ猫ォォォオオオ!!いつからてめーはそんな尻軽になったァ!第一部第二部と続く流れでの俺との思い出はどこに行ったんだ!!
そこで諦めんなよォォ!!銀時の心の叫びなどつゆ知らず、「本当にちゃんは金さんに頭撫でてもらうの好きだね」なんて新八と神楽は微笑ましくその姿を見守っている。
新八も神楽も!オメーらも新しい家族が増えつつも4人と1匹絆が深まっていく心温まる二次ドリームストーリの中で俺たちの絆は深まって行ったんじゃなかったのかよ!
そんな銀時の視線の先で、金時がをおろし、あたりの子供たちをぐるりと見渡して言った。
「ありがとな。新八、神楽、」
「そんな!いつもお世話になってる金さんのためですもん!」
「私たちは家族も同然アル!家族の誕生日を祝うのは当然ヨ!なっ、!」
「うん!」
「でもなァお前ら。俺達は家族であると同時に万事屋(プロ)ってことを忘れちゃならねーぜ?客待たせんなァプロとして失格だ。後ろに隠し持ってるそいつらは後で貰うから・・」
「・・・!」
ささっ、新八と神楽が後ろ手に持っていた箱を持ち替えながら目をそらす。
『万事屋金ちゃん』坂田金時はにかっ、と笑って、ケーキにともされたろうそくを一息で消した。
「続きは、後でな」
「金さん・・す、すみません・・」
「ご、ごめんヨ金ちゃん!まさかこんなに早くお客さん来るとは思ってなかったアル。迷惑かけて・・」
後ろから眺めていた銀時はあーあ!と溜息をついた。ため息をつきながらもその口角はどす黒い考えに歪んでいる。
これだからエリートはよオ!子供らがせっかく誕生日会準備してくれたのを「仕事仕事」って、
あーこれは絶対嫌われるパターンだわ!!終わったわアイツ!!
ぷぷー!残念だったな!
アソコの毛は金色でも心の毛がどす黒い奴には銀さんの代わりなどつとまるわけがないんだよ!!!
「・・・まぁ、プロとしてのどうこうはいいわけで・・・」
「・・?」
「・・本当は、せっかく3人で協力して用意してくれたメシくらい、わいわいゆっくり食べてぇからなんだけどな・・」
ぺかーーーっ!
次の瞬間まばゆくあたりを包んだ金色の光に、にやにや血走った鬼畜めいた眼で眺めていた銀時は叫びながら目を覆った。
ギャァアアーー!まぶしいッ!!目が、目がァーー!!
「「金さん(ちゃん)ッッ!!!」」
ひしっっ!
金時に抱き着いた新八・神楽・を見ながら、銀時は血の涙を流し唇を噛み締めていた。
畜生なんだこの茶番?!
何だあの男ォォ!!
HPだけじゃ飽き足らず番組表までも乗っ取りやがってェ!
乗っ取り・・・・
ん・・・・?
ちょっとォォォォオオオ!!
何「金のスプーン」ってぇぇぇぇええええ??!
オイィィィイイイイ!!なんかここもいろいろ乗っ取られてんですけどォォォおおお!!!!?
きょろきょろと不審なほどあたりを見渡しながら銀時は青くなる。
え、ちょ。
このシリーズ完全に金色に染まってね?!
あの話も、あの話も!!
俺ととのあの思い出もこの思い出もその思い出も、
全て金に塗り替えられているぅぅぅぅううう!!!
こ、こええ!!!
「つーわけで、はいはいお客さん。お待たせしちまってどーもすいませんねえ。俺が万事屋の、坂田金と」
ぱりぃーん!!
腕を体の前にクロスにして、
玄関のドアを突き破って銀時は逃走した。
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